第193話 神魔大戦 ~初戦②~

「というわけでここで俺達が迎え撃つことになった」

「おお!! 任せてください!! 少々厄介ですけど・・・・・・・・仕方ありませんね」

いつもと・・・・勝手が違うから大変かもしれないけど仕方ないと思って頑張るとするか」

「任せてください!! さぁ三人とも突っ込みますよ!!いざ!!」

「ちょっと待て!!」


 シルヴィスはそういうと早速突撃をかまそうとしたヴェルティアの襟首を掴んで引き留めた。


「何ですか? この後に及んで止める理由が私にはわかりません?」

「うん。お前はわかってないから説明する。ちょっと座ろうか」

「移動しながらで良くないですか?」

「いや、ここでやる。お前のことだから“わかりました!!お任せください!!“と走り去る可能性が高いからな」

「そ、そんなことしませんよ」

「いいから座れ。目が泳いでるやつの言い分を信じるほど俺は愚かじゃない」

「わかりましたよ〜」


 ヴェルティアは素直に従うとその場に座り込んだ。そしてごくごく自然にディアーネとユリがヴェルティアの両隣に座った。これはヴェルティアが爆走しようとしたら止めるための行動であった。


「天界はこのエランスギオム平原で勝負を挑むという話だ。で、魔族の軍は出陣式を執り行ってるだろ?」

「ええそうですね。皆大忙しです」

「だが、出陣式を行わず出陣などしようものなら、自分たちが追い詰められてるというイメージが魔族の間に広がる可能性があるわけだ。現時点では魔族の方がこのエランスギオムでの軍の展開の方が早い以上出陣式を行うのは当然だ」

「なるほどです!! つまり我々が展開を蹴散らすと言うわけですね!!」

「うん。何もわかってないな。の俺たちにそんな力はないだろ。となると俺たちのやることは勝つことじゃなく負けないこと・・・・・・だ」

「う〜ん、中々面倒ですね」

「まぁな、俺たちの本番はもう少しだからな」

「わかりましたよ。それで具体的に何をすればいいんですか?」

「あの道の中間地点で天界の軍を迎え撃って、さらに天界の軍の進撃を遅らせる」


 シルヴィスが指し示した場所はエランスギオムに入り込むための街道の一本である。


「シルヴィス様、他の道は良いのですか? 確かにこの道が最も広く整備されていますが、他の道をくる可能性も十分にあります」


 ディアーネの問いかけにシルヴィスは頷くことで返答する。


「ディアーネさんの心配も当然なんですが、俺たちは四人、俺の魔力で作った人形はせいぜい三百が限度なんです。これを分散して配置すれば各個撃破されるだけです。それに他の道はあの道よりかは遥かに狭いので全軍がこのエランスギオムに移動するのに余計時間がかかります」

「確かにそうだな。シルヴィス様の言う通り私たちの仕事は天界の軍の足止めなんだからシルヴィス様の見立てでまず間違いじゃないし、目論みが外れた時は背後から襲えば問題ないよ」

「なるほど……どのみち前哨戦であると捉えれば最後に立っていれば良いですものね」


 シルヴィスの言葉にしてユリとディアーネが賛同する。


「よし!! 理解しました!! それでは行きましょう!!」


 ヴェルティアが立ち上がると元気一杯の声で宣言する。


「いいか。とりあえず俺の横を歩けよ」

「わかりましたよ」


 二人の様子を見ながらディアーネとユリがニマニマと笑いながら互いに視線を交わした。


「もう早くくっついてくれればいいんですけど」

「お嬢もシルヴィス様の言うことなら聞いてるしな」

「ええ、微笑ましい限りです」

「二人とも聞こえてますよ」

「そうですよ!! 二人ともいくら何でもテレてしまうじゃないですか」

「さぁ、行きましょう!!」

「そうだな。二人とも行きましょう」


 シルヴィス達の抗議をディアーネ達はサラリとなかったことにして歩き出した。


 シルヴィスもヴェルティアも二人について街道を進む。


 常人であれば一日はかかる距離を四人はわずか三時間で進むとシルヴィスが声をかける。


「ここで、迎え撃つことにしましょう。ここから先が少しばかり街道が狭くなってますから」


 シルヴィスの言葉通り、道が人二人分くらい狭くなっている箇所がある。道路の整備の途中らしい。


「確かにここが最適だな」

「ええ、そう言うことです。それでは……」


 シルヴィスは魔力によって兵士達を形成する。


「陣地を作れ」


 シルヴィスの命令を受けた兵士たちが手にした魔力により形成された杭を地面に打ち込み始め簡易的なバリケードを形成する。

 

「なんか頼りないですね」

「そう言うなよ」


 シルヴィスのぼやきにヴェルティアは笑う。


「ああ、そうそうヴェルティア」

「何です?」

「ほい、これ使え」


 シルヴィスは魔力を形成して一本の棍棒を作り出すとヴェルティアへ差し出した。


「何です?これ?」

「何って棍棒だよ。知らんのか?」

「いえ、どうして私に棍棒なんて?」

「今のお前には必要だろ」

「え〜初めてのシルヴィスからの贈り物が棍棒ですかぁ〜」


 ヴェルティアは口を尖らせて露骨に不満を表明した。


「シルヴィス様、お忘れのようですが……ヴェルティア様も年頃の女の子なんですよ?」

「そうだよ。いくら何でも酷いと思うな。初めての贈り物が棍棒って……流石にそれはないよ」


 ディアーネとユリもシルヴィスに非難の目を向けた。さすがに三人に非難の目を向けられるとシルヴィスであっても居心地が悪い。


「わかったよ……これでいいか」


 シルヴィスはヴェルティアに向けぶっきらぼうにいうとヴェルティアの顔がパッと花咲いたような笑顔になった。


「お〜リボンですね!! でもシルヴィス、こんなのどうして持ってるんですか?」

「こないだ魔都エリュシュデンを回った時に見つけたんだよ」

「しかし、この色ってヴェルティア様に似合ってますよ」

「だなお嬢の髪の色にピッタリだよ」

「お〜そうですか!!そうですか!! 初めてもらった男性からのプレゼントですから大事にしなければなりませんねぇ〜」

「そうですね。シルヴィス様が一生懸命選んだものですから大切にしなければなりませんね」

「シルヴィス様も中々粋なことす流よな。うんうん、朴念仁なんかじゃなかったんだなぁ」

「はぁ……もういいでしょう。ほらこれ」


 シルヴィスはそう言って憮然として棍棒を手渡すとヴェルティアは今度は文句も言わずに受け取った。


(と言うよりも棍棒が贈り物のわけないだろ……なんか嵌められた気がするけど……そのおかげで渡すこともできたから良かったとしておくか)


 シルヴィスはそう考えると少しだけ笑った。

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