第182話 神魔大戦前夜③

「よし!! 手応えばバッチリです!! いや〜シルヴィスのミスをフォローする私ってやっぱり優秀ですねぇ〜」


 男を吹き飛ばしたヴェルティアは得意満面の笑顔で宣言した。その様子は本当に楽しそうではあるが、シルヴィスを貶める意図は微塵もなく、ただ単に自分の功績を誇っているのである。


「お前……これから情報を聞き出そうとしたんだから仕切り直しになるだろ」

「ふふふ、シルヴィス。そんなに自分のミスを隠そうとしなくていいんですよ。あの程度の実力者ははっきり言って下っ端なので大した情報を持っているとは思えません!! だからこそ、私の対処方法が最も素晴らしいのです!! さぁ褒めてください!!」

「確かに物腰は下っ端なんだけど情報は何かしら持っている可能性はあるだろ?」


 シルヴィスがため息をついたところで男が吹き飛んでいった方向から一条の雷光が放たれた。


 バシィィィ!!


 放たれた雷光はシルヴィスの形成した防御陣に遮られた。


「お〜中々の威力でしたね」

「まぁな。しかし、それにしてもお前の一撃を受けて死んでないんだな」

「あっ、そういえばそうですね!!」


 ヴェルティアの声には確実に感心の響きがあった。


「貴様……よくもやってくれたな」


 男の声は苦々しさで満ちている。シルヴィスに首を落とされたのに死ななかったことに対して余裕の表情を見せようとしたのに、ヴェルティアに吹き飛ばされたことでその機会がどこかに飛んでいってしまったからだ。


「いや……運が悪かったな。こいつは全くと言っていいほどお前を恐れていないが、俺の方はお前が死んでいないことに対して驚いているぞ……うん。すごいな」


 シルヴィスが男に慰めの言葉をかけた。その声も内容も全く驚いていないのは確実である。もちろんシルヴィスの慰めの言葉は男をおちょくるためのものである。しかも、シルヴィスはその意図を隠そうともしていないのである。


「おのれぇぇ!!」


 男は体に魔力を纏うとシルヴィスへと殴りかかった。


「とう!!」


 しかし、男がシルヴィスの間合いに入る前に男の顔面へ拳を叩き込んだ。ヴェルティアは拳に魔力を込めて放ったため、その威力は桁違いに上がっていた。そのため男の顔面が耐えることができずに爆散する。


 シルヴィスは男の側面へと回り混む時に虎の爪カランシャで脇腹をざっくりと切り裂くとそのまま男の腎臓へ虎の爪カランシャを突き立てた。


 腎臓を切り裂かれると大量出血を起こすのだ。腎臓という急所へ虎の爪カランシャを突き立てられたことで男の体は倒れ込むかと思われた。


 しかし……


 男は腕を振り回しシルヴィスへ裏拳を放ったのだ。もちろんシルヴィスは反撃の可能性を想定していたために防御をするのではなく完全に躱して、そのままヴェルティアの横に移動した。


「う〜ん、死なないな。さっきと違って頭部が爆散したから終わりかもしれんと思ってたんだがな」

「その割にはきちんと反撃を想定していたみたいですね」

「まぁな。でもさっき、斬りつけたことで分かったことがある」

「へぇ〜気づいたことがあるんですね」

「ああ」


 シルヴィスが気づいたことを告げようとした時、男の頭部が再生するとニヤリとした笑みを浮かべた。


「残念だったな。俺は不死身だ。お前達のような下等生物と違って俺は死というものから切り離された存在なのだ!!」


 男の得意気な言葉にシルヴィスもヴェルティアも大して心動かされた様子はない。ディアーネ、ユリも同様であった。


「あのさ、二つ聞きたいことがあるんだが」

「ふん……命乞いなら聞くつもりはないぞ」

「じゃあ、命乞いでなければ聞いてくれるということだな。安心したよ」

「貴様……」

「俺の聞きたいことの一つ目はお前の不死身は生まれつきのものなのかそれともディアンリアに与えられた・・・・・ものかどっちだ?」

「そんなことが大切なことか?」

「当たり前だろ生まれつきなら同情・・するが……ディアンリアに与えられたものならば同情する必要がないからな」


 シルヴィスの言葉に男は訝しむ表情を浮かべた。


「まぁ……いいか」


 シルヴィスは会話を打ち切ると同時に男の間合いに入る。


 シルヴィスは男の右手首を掴むとそのまま肩甲骨を動かし引っ張る。男はシルヴィスが引っ張ったことに対処することもできず、つんのめる形になって体勢を崩した。

 シルヴィスは引っ張った手首から手を離すと首に腕を引っ掛ける。シルヴィスは淀みなく動き首を支点にして背後に回り込むと反対の腕で後ろ向きに担ぎ上げた。


 男の表情に困惑の感情が浮かんだ。男はこの段階でようやくシルヴィスから攻撃を受けていることに気付いたのだ。


「ひ……」


 男の口から恐怖の声が発せられるのと、垂直に地面に落ちるのはほぼ同時であった。


「さてと……」


 シルヴィスは男を落とすと即座に五本の杭を形成すると男の体に突き刺した。


「ぐっ!!」


 男の口から苦痛の声が発せられた。シルヴィスが形成した杭は男の両肩、腹、両太ももを貫き地面に縫い付けたのだ。


「さっきの質問……答えてもらおうか?」

「な……何?」

「頭の悪いやつだ。生まれつきか? ディアンリアに与えられたものか?」

「……」

「おいおい、ダンマリはないだろう? これを答えてくれないと次の質問ができないじゃないか」

「次の……質問?」

「ああ、ディアンリアに与えられたものなら、何故痛覚を残したのか・・・・・な?」

「お、お前……まさか」


 シルヴィスの意図を察した男の顔が恐怖に歪んだ。それを見てシルヴィスはニヤリと嗤う。


「ああ、お察しの通り、今からお前を拷問する。痛覚があるから拷問は有効だし、死ねない・・・・から遠慮しないで済む」

「ああ!!  シルヴィスが気付いたことってこの方が痛覚を持っているということだったんですね!!」

「ああ、お前が頭を吹き飛ばした時に脇腹を斬った時に反応があったんだよ」

「ああ、痛覚がなければ反応すらしないですよね」

「そういうこと」


 シルヴィスの返答と表情に男の表情が凍る。


「さて……神様の誇りを見せてもらうよ」

「ひ……」

「長く粘れば粘るほど苦しみ続くけど……頑張れよ」


 シルヴィスがニヤリと嗤った瞬間に男の様子が変わった。


「が、ががが!! ディ!! ディアンリア様ぁぁぁぁ!! 何故ぇぇぇえ!!」


 男の絶叫が響き渡り、しばらくして男は事切れた。


「どうやら生まれつきじゃなく、ディアンリアに与えられた不死身だったみたいだな」

「そう見たいですね。神にも祝福ギフトを与えることができるということですね。そして、それを取り上げることも可能というわけですか……ん? それじゃあどうしてレンヤさん達から祝福ギフトを取り上げないんですかね?」

「そうだな……何か目的があるのかな?」

祝福ギフトを取り上げられた人間は死ぬのでしょうか?」

「かもしれんな……」

「それは可哀想ですよね」

「もしくは致命傷を受けていたからこいつは死んだかだな。まぁ、レンヤ達の方は俺が何とかしておくさ」

「お〜まさかシルヴィスがそんな人間味のあるような事をいうなんてシルヴィスは成長したものですねぇ〜」

「……さて、帰るぞ」

「え〜テレないでいいんですよ」

「はいはい」


 シルヴィスはため息一つつくと転移陣を起動すると魔都エリュシュデンへと転移した。

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