第155話 エルガルド帝国動乱⑪
「ザ、ザルム!!」
「ザルム様!!」
城壁に叩きつけられたザルムの姿にミラスゼントと周囲の天使達の狼狽はことのほか大きかった。
ミラスゼントはザルムの斬撃を受けてまったくの無傷であったシルヴィスに天使達にとっては自分達の上位者である神が人間の一撃に吹き飛ばされた事が信じられなかったのだ。
「お、お前、一体……」
ミラスゼントの声がわずかに震えている。シルヴィスという得体の知れない相手に恐怖を持たずにはいられない。
「何がだ?」
「な、なぜお前は無傷なんだ?」
「え?わかんないんですか?」
ミラスゼントの問いに呆れた反応をしたのはヴェルティアであった。ヴェルティアは心の底から不思議そうな反応をしており、それがミラスゼントにとってはこの上なく不快であった。
「いいよ、ヴェルティア、わざわざ解答を与えてやる必要はないさ」
「そうですか? なんか可哀想じゃないですか」
「そうでもないさ。これから地獄でゆっくりと考える時間があるんだから、ここでその楽しみを奪うのは可哀想だろ」
「あ〜それは確かにそうですね。わかりました!! それでは私もお相手しましょう!!」
ヴェルティアがビシッとガルウィムを指差して言い放った。
「さぁ、あなたの相手は私がしてあげましょう!! 用意はいいですよね? それじゃあいきますよ!!」
ヴェルティアはガルウィムの返答など待つことなく間合いに飛び込んだ。
「な……」
ガルウィムの驚きの声はヴェルティアの拳の風切り音によりかき消されてしまう。
ヴェルティアは左拳をガルウィムの顎に目がけて凄まじい速度で放った。
「てぇい!!」
ヴェルティアはそのままの勢いで一回転するとそのまま左回し蹴りを放つ。
ドゴォォ!!
ガルウィムはヴェルティアの蹴りを辛うじて腕でガードすることに成功したが、衝撃を吸収しきることはできずに吹っ飛んでしまう。
(可哀想にな……相手が悪い。シルヴィスのやつも躱そうと思えば余裕で躱せたのにわざわざ人形と
キラトは心の中でミラスゼント達に同情していた。
シルヴィスがザルムの斬撃を受けたにも関わらず無傷だったのは、あの一瞬でシルヴィスの魔力で形成した人形と入れ替わったゆえであり、シルヴィスはそもそも斬撃を受けていないのである。
シルヴィスの恐るべきところは、斬撃を受ける瞬間に転移魔術で人形と入れ替わり、斬撃が抜けた時に再び転移魔術で人形と再び入れ替わる。一秒にも満たぬ時間に二度も転移魔術を展開するのは、まさに
ザルムはシルヴィスの術中に見事にはまり、シルヴィスの拳をまともに受けて吹き飛ばされる結果になってしまったのだ。
そして、ミラスゼントとガルウィムもまたシルヴィスの術中に見事にはまってしまった。
どれだけの実力者であっても殺し合いという場においてその実力を完全に発揮できるような精神状態を持って臨むことは限りなく困難だ。シルヴィスの術中にはまった神達はいつもの精神状態とは程遠い状況だ。
(加えて……想定外はヴェルティアさんだな)
キラトは苦笑まじりに心の中で呟く。神達からすればシルヴィスという得体の知れない相手に対する動揺がおさまらないうちにヴェルティアという規格外の実力者と戦わないといけないというのは不幸でしかないというものだ。
「なんか……あの二人が組むとどんな相手でも勝ちそうよね」
リネアの呟きにキラトとしては頷かざるを得ない。
「そうだな。あの二人は実際にいいコンビだよ」
「そうね。あの二人は本当に足りないところを補うというよりも長所をとんでもなく伸ばすような関係ね」
「そうだなぁ〜相手は不運だよ。あんな二人と戦わなくちゃならないなんてな」
キラトのぼやくような口調にリネアは苦笑しながら頷く。
「う〜む、あんな可憐なお嬢さんがあんな強さを持ってるなんて世の中はわからないものだな」
「見かけは可憐ですが……あのテンションは中々可憐とは言えないと思いますよ」
「ほう、リューべはあのような女性は苦手か?」
「苦手というよりも、とてもあの方の隣について行くことはできませんね。友人とすれば最高レベルに面白い方ですけど」
「ふむ……一理あるな」
リューべとスティルのどことなく達観するような言葉が交わされている間にも、シルヴィス、ヴェルティアがミラスゼントとガルウィムを一方的に戦いを進めている光景が展開されていた。
ミラスゼントの横薙ぎの斬撃をシルヴィスは、前に出るとそのまま肘を抑え斬撃を封じ込めると同時に、膝を踵で蹴り付けた。
「ぐ……」
あまりの苦痛にミラスゼントの表情が歪む。そして一瞬だが、ミラスゼントの意識が蹴り付けられたのをシルヴィスは察すると
掌の部分はミラスゼントの顎に曲げた指が目に入る。
「ぐぁ!!」
ミラスゼントの苦痛の叫びが周囲の耳に入る。
「悲鳴を上げるとは余裕だな」
シルヴィスの抜き手が喉に放たれようとした瞬間に天使達がミラスゼントを救いに走る。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「ミラスゼント様!!」
天使達の表情は恐怖のために引き攣っているが天使の本能として神への奉仕がある。そのために神を見捨てるようなことは絶対にできないのだ。
「ふん」
シルヴィスは襲いかかる天使達に対し不敵な笑みを浮かべると両手に紋様を顕現させた。
「先に死にたいなら……望み通りにしてやる」
シルヴィスの強烈な殺意が天使達を突き刺した。
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