第156話 エルガルド帝国動乱⑫

 シルヴィスが左手を無造作に振り払うと天使達の体が引き裂かれた。


「なっ!!」

「バ、バカな!!」

「現実だよ!! アホウが!!」


 天使達の動揺の声を踏み躙るようにシルヴィスは叫ぶと今度は右腕を振るう。


「がぁ!!」

「ぐぁ……」


 再び複数の天使達の体が引き裂かれるとその余波で今度は城壁に引き裂かれたかのような跡が走る。


「ひっ……」

「な、何だよあいつ」


 このシルヴィスの行動にエルガルドの兵士達からも恐怖の声が上がった。自分達がまったく斃すことの出来なかった天使達を軽々と引き裂き、その余波で城壁に傷をつけることのできる者など恐怖の対象でしかない。


「うぉぉぉぉぉ!! がっ!!」


 一体の天使がシルヴィスに斬撃を放とうと剣を振り上げた瞬間にシルヴィスは間合いを詰めると顔面を鷲掴みする。


「忠誠心あふれている行動だ」


 シルヴィスのみに顔面を鷲掴みされた天使は恐怖に身を震わせた。生物の本能として死を恐れるというのがあるが、まさにこの時の天使の心境はそれであった。


 シルヴィスはここで信じられない行動に出る。天使の顔面を握ると思い切り捩じ切った・・・

 頭部をもぎ取られた体はそのまま地面に落ちた。天使達のみならずエルガルドの面々も息を呑んだ。

 シルヴィスがたった今見せた首を捻じ切るというのは一切勢いを利用したものではない。純粋な膂力のみで天使の首を捻じ切ったのだ。


「ひ……」

「うわ……」


 ミラスゼントを救おうと命の危険回避の本能よりも天使としての義務感が上回っていたためシルヴィスへの攻撃をおこなっていたのだが、このシルヴィスの殺し方にこれが逆転しまったのである。


「ん? どうした?」

「ひ……」

「あ、あ……」


 シルヴィスが一歩踏み出すと天使達は二歩分下がるという有様だ。


「華々しく散らせてやるからさっさとかかってこいよ」


 シルヴィスはそういうと手にした天使の頭部を動きの止まった天使に高速で投げつけた。シルヴィスの投げつけた頭部は天使の頭部を打ち砕くとそのまま城壁を砕く。


(あいつをまず・・始末……上手くいけばあいつもに始末できる)


 シルヴィスは新たな標的を決めると動いた。天使の顔面を先ほど同様にすれ違いざまに頭部を引きちぎり、そのまま投擲する。

 投擲した先にはザルムがいた。先ほど弾き飛ばされ城壁に激突したザルムは片足をついた状態であったのだ。


「くっ!!」


 ザルムは高速で飛来する天使の頭部をシルヴィスから向かって左側に飛ぶ。


 ドゴォォォ!!


 ザルムが躱した後の城壁に天使の頭部が直撃すると城壁の一部が崩壊した。


 しかし、それは次の生じた光景に比べれば大したことではない。


 ザルムが逃げた方向にシルヴィスは最短距離で向かうとそのままの勢いのまま飛び蹴りを放ったのだ。ザルムの表情が悔しさに満ちたものになった。ザルムはシルヴィスにコントロールされたことに気づいたのだ。投擲された天使の頭はザルムが左側に避けやすいようにやや右側に投擲されていたのである。しかし、その事に気づいたからとシルヴィスの一撃を躱すことはもはや不可能である。


 そして、ザルムの胸部にシルヴィスの飛び蹴りがまともに入る。


 シルヴィスの飛び蹴りの威力の凄まじさは、城壁に入った放射状のヒビにより明らかであった。


「がはぁ!!」


 胸部を潰されたザルムの口から大量の血と苦痛の声がこぼれ落ちる。シルヴィスはザルムの顔面を掴むとそのまま貫手で胸を刺し貫いた。


「ま、まてぇ……」


 ザルムの言葉にシルヴィスは冷たい視線を向ける。ザルムはその瞬間に自分が助からないことを悟ったのかもしれない。


「神なら最後まで誇り高くいけよ」


 シルヴィスの冷たい一言が終わると同時にシルヴィスは刺し貫いた抜き手から魔力を放つ。


 ドォォォォォォ!!


 凄まじい魔力の奔流がザルムを襲う。


 ドシャ……


 魔力の奔流によりザルムの胸部は消滅し、上半身と下半身が切り離された。地面いザルムの上半身が落ちた時には既に絶命している。

 崩れ落ちたザルムの死体の後ろには城壁に空けられた穴が余計に放出した魔力の凄まじさを物語っている。


「ザ、ザルム……」


 ミラスゼントの呆然とした声が発せられた。ミラスゼントとすれば自分の見たものが信じられなかった。


「ボサっとしてる暇あるのか?」


 シルヴィスの言葉にミラスゼントは顔を引き攣らせた。


「てぇい!!」


 そこに能天気な声と共にガルウィムが吹き飛ばされてきた。シルヴィスは高速で吹っ飛んでくるガルウィムを最小の動きで躱すとガルウィムは城壁に直撃すると城壁が崩れ落ちた。


「さぁ!! 決着をつけますよぉ!!」


 ヴェルティアはブンブンと腕を振り回しながらガルウィムに向かって高速で跳んだ。


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