第150話 エルガルド帝国動乱⑥

「射殺せ!!」


 命令が下されると壁に到達した敵兵達を射殺すために身を乗り出して弓兵が身を乗り出して矢を放つ。

 壁に到達した兵は次々と射殺されたが、全てを斃す事はできなかった。


 倒し損ねた兵が両手を組み腰を落とすと敵兵が両手を組んだ兵へに向かって走り出した。

 走り出した兵は組まれた両手に足を乗せると両手を組んだ兵士が渾身の力を込めて兵を放り投げた。放り上げられた兵士が城壁までの高さに到達する。


「え?」


 予想もしなかった行動に弓兵達は呆気に取られた。呆気に取られた弓兵はそのまま自分の高さまで飛んできた敵兵の横薙ぎの剣閃により首を切り裂かれた。


「登ってきたぞ!!」

「殺せ!!」


 エルガルド兵はわずかな動揺を示すが戦線を崩壊させるようなことはない。すぐさま歩兵と弓兵が入れ替わると登ってきた敵兵との激しい白兵戦が始まった。


「怯むな!! 敵は少数だ!! 取り囲んで始末しろ!!」

「弓兵は土台となっている敵兵を優先して狙え!!」

「歩兵は弓兵を援護しろ!!」


 指揮官達の命令に兵士達は即座に対応すると登った敵兵達を取り囲んで戦い始めた。


(今のところは互角……城壁という有利な状況で互角に持ち込めている……)


 エルティーユ将軍は指揮所から戦いの様子を見てそう判断する。


 エルティーユ将軍は決して楽観視した故の判断ではない。実際に城壁の上に飛んできた敵兵達は拠点を作ることもできずに次々と討ち取られてチリとなっていく。

 新しく登ってきた敵兵達も次々と討ち取られていき、土台となった兵士たちも同様に射殺されていく。


 それでも敵は同じ戦法を変えるつもりはないようで何度も飛んできた兵士達が城壁に取り付く。それをエルガルド兵が拠点を作る前に殲滅していく。土台となった兵達も優先的に射られ登ってくる兵達の数も減ってきたのも拠点を作れないことの要因であった。


「よし!! いけるぞ!!」

「とにかくこのまま守りきれ!!」


 兵達の中から力のこもった声が発せられた。自分達が上手くいっているという状況に兵達の士気が上がるのは当然のことであった。


 しかし、上手くいっている状況により見落とされるものがあるのもまた事実であった。


 城門の前に黒いローブを纏った男が一人現れた。


 それはチリとなった兵が設置した転移陣の拠点により転移した結果である。


「人間も存外やるものだ……まぁ、魔族のフリ・・などせねば簡単に

落とせるのだがな」


 ローブの男は城門に手をつくとニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「この扉一枚隔てた距離でしか生み出せんが……十分だな」


 男はそういうと術を展開する。


 扉の向こうで二体の兵士が生み出された。男はさらに次々と兵士を生み出していく。

 すぐに十体ほどの兵が揃うとその内の城門の閂を外した。


 ギィィィィ……


 城門が開く。


「さて……もう一つか……」


 黒いローブの男はニヤリと再び嗤う。


 扉を開けると三十メートルほど先にもう一つ扉がある。男は一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。その度に両手から兵士達を生み出していく。


「くくく……人間ごときが神に抗うなど……無駄なことだ。まぁ、魔族と思い込んでいるのだろうな。どこまでも哀れな奴らだ」


 男は先ほど同様に扉に手をつくと扉の向こうに兵士を生み出し始めた。


「敵だぁ!!」

「馬鹿などうやって!!」

「そんなことは後だ!!」


 内部に敵兵が現れた事にエルガルド兵達はわずかな時間で自分達のやるべきことを行う。

 生み出された兵は打って出る。そして、次の兵が生み出されるとまた数歩進み出る。


「まずい!! あいつらどんどん現れるぞ!!」

「閂を外すつもりだ!! 止めろ!!」


 エルガルド兵達が敵の意図に気づくと一斉に襲い掛かった。即座に激しい殺し合いが始まった。

 個別の実力であれば敵兵の方が上かもしれない。だが、エルガルド兵は集団で襲い掛かる。そのために生み出された兵達は次々と討たれてチリへと変わっていく。


「ふむ……第四軍か。人間にしてはやるというわけか……まぁ、結果は変わらんがな」


 男はすいと横にずれて壁に背をよりかかると生み出した兵達が肩を組み、扉に凄い勢いで突っ込んでいく。


 ドン!!


 現れた兵士達を全て切り伏せた所で扉に生じた衝撃に扉が破られようとしているのを察すると扉を押さえにまわった。


「抑えろ!!」


 ドン!!


 再びの衝撃に抑える兵士たちが少し弾かれた。すぐに再び抑えに回るがその顔には恐怖が浮かんでいた。


「まずい!! 抑えよ!! 兵を城門へ集めろ!!」


 指揮所から異常を察したエルティーユ将軍が叫ぶ。城壁上では同様に敵兵が上がり続けている。


(そうか……奴らがずっと同じ戦法をとっていたのは陽動だったか)


 エルティーユの胸に後悔の念が生じた。既に門を破られるのが時間の問題であることを察したのだ。


「扉が破られる!! 備えろ!!」


 エルティーユの言葉に城門を守る兵士達は緊張を高めた。


 ドン!!


 扉からの衝撃の音に必死に抑える兵士達の顔の緊張が高まっていく。


 ミキィィ……


 衝撃に閂が悲鳴を上げ始める。


「破られるぞ!!」


 メキィィ!!


 衝撃と共に閂がへし折れ扉が開いた。

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