第147話 エルガルド帝国動乱③
「あれ? どうしたんだ?」
キラトがシルヴィス達のいつもと違う様子に首を傾げながら尋ねてきた。リネアや他のメンバー達も同様に雰囲気を察したのだろう少しばかり首を傾げていた。
もちろん、険悪な雰囲気など微塵も感じていないので心配はしていないのだが、不思議な感じであるのは間違いない。
「ふふふ、実は御二方の関係が一歩前進するのではないかという出来事がありまして」
「そうそう。結構シルヴィス様も迂闊なんだよね。私達の
ディアーネとユリの言葉にキラト達は何があったか色々と察したようである。
「お〜ついに二人が引っ付いたか」
キラトがシルヴィスにニヤニヤとした笑顔を向けながら祝福の言葉を発した。
「いえ、まだです」
そこにキラトの言葉をディアーネが即座に否定する。ディアーネの言葉にキラトが意外そうな表情を浮かべる。
「ディアーネさん、まだなの?」
「はい。こういうのは順番がございます。お二方とも実は互いに恋愛対象であることを自覚したところでございます」
「え!?」
ディアーネの言葉にキラト達は驚愕した。まだその段階なのかという感想がありありとわかるものである。
その反応にシルヴィスとヴェルティアはわかりやすく不満の表情を浮かべた。ここまで驚かれることなのかという不満であるのは間違いない。
「シルヴィス……お前、いくら何でも鈍すぎるだろ」
キラトの心配する声がシルヴィスの癇に障った。
「キラト、ちょっと聞いてほしいことがあるんだが……」
「なんだ?」
キラトはシルヴィスの元にやってくる。シルヴィスはヴェルティアを指差して言う。自然とキラトの視線は指先の延長上にいるヴェルティアへと集中した。
「いいか? ヴェル……」
ボカっ
シルヴィスのゲンコツがキラトの頭に直撃した。音からしてかなりの威力であったのだろう。キラトが頭を押さえて蹲った。
「何しやがる!!」
「いいかい。キラト君、意識が逸れれば思わぬ不覚があると思わないかね?」
「……はい」
キラトはシルヴィスの言葉を素直に認めた。たった今不覚を取った以上認めざるを得ないという心境だ。
二人のやりとりにリネア達は苦笑を浮かべている。魔王として即位したキラトにとってシルヴィスとのやりとりは魔王としての重責を軽くしてくれるものであるように思っているのだ。
「さて、キラト君……我々は他にやることがあると思ってるのだがどうだろう?」
「お前、照れ隠しだからって殴らなくていいだろ……俺魔王なんだけど」
「う〜む、今一通じてないのは残念だよ」
「わかった!! わかった!!」
シルヴィスが握り拳を見せたことでキラトは慌ててシルヴィスに言う。
「さて、ご納得していただいたと言うことで、話を進めよう」
シルヴィスは勝手に話を進めていく。
その様子を見た他の者達の笑いを噛み殺すのに苦労していた。シルヴィスの態度は怒っているわけでなく照れ隠しであることは明らかであったからだ。
「うんうん!! シルヴィスの言うことも最もですねぇ!! 私達にはやるべきことがあります!!」
ヴェルティアがいつもの調子で宣言するとディアーネとユリは肩をすくめて見せた。
「む……何ですか? 二人とも……」
「ふふ、まぁこの話はこの辺りで
「そうだねぇ〜今日は
ディアーネとユリはニンマリした笑みを浮かべて言う。二人の返答は見ようによってはヴェルティアへの嘲りと受け取られかねないのだが、その奥底にヴェルティアへの信愛の情があることは明らかである。
「何か釈然としないですねぇ。まぁいいでしょう!!」
「そう言うことだ」
シルヴィスとヴェルティアは渦中から這い出るために息を合わせるが、それが逆に二人の戸惑いを感じさせた。
二人以外はもっといじりたいと言う欲求があるのだが、これ以上からかうとかえって拗らせる危険性があるのであっさりと話の収束に同意する。
この辺り、心の機微に敏感な者達は判断は確かだ。心の機微に鈍感な者達は引き時を間違えてしまい大きなトラブルになるのだ。
「まぁ、冗談はこれくらいにして、もう
キラトがシルヴィス達に尋ねるとシルヴィス達は即頷いた。
「ああ、簡単なものだけど効果は保証する」
「そうか。しかし、意外だな」
「何がだ?」
キラトの言葉にシルヴィスは首を傾げながら返した。
「あの三人に対して随分と優しいじゃないか」
「まぁ、突然拉致されて戦いの道具にさせられてるとならば優しくもなるさ」
「それも一理あるな」
「だろう。しかもあの三人は自分達が騙されたかと言って、騙した側の陣営の連中を見捨てることはしない。俺には出来ないことだ。実力的には大したことないが、それでもその器の大きさはきちんと評価してもいいと思う。まぁ、お前も俺達の考えに賛同したんだから同じだろ」
「まぁな」
シルヴィスの言葉にキラトは簡潔に返答する。
コンコン……。
そこに扉をノックする音が響く。
「何だ?」
「あの三人が来ました」
「そうか。通せ」
キラトの許可が出ると即座に扉が開くとレンヤ達が姿を見せる。
「よく来たね」
「あのお世話になりました」
「気にしなくていいよ。君達の行動によって人族との戦争が回避できればこちらとすれば助かるよ」
「……全力を尽くします」
「ふふ、おい」
キラトの声に三人の騎士が進みでる。騎士達はそれぞれレンヤ達に手にしていた武器を手渡した。
「これは?」
「話の流れ次第では反逆者として殺されるかもしれないからね。丸腰というわけにはいかないだろう」
キラトの言葉にレンヤはゴクリと喉を鳴らした。見方を変えれば魔族に鞍替えしたとみなされる可能性があることを思い出したのだ。
「ディアーネさん、それでは三人をエルガルド帝国へ送ってあげてくれるかな?」
「わかりました」
ディアーネはニッコリと笑うと転移魔術を起動させた。
「あ、あの」
そこにレンヤがヴェルティアへと声をかける。
「はい。どうしました?」
「ありがとうございました。おかげで自分のやるべきことがわかりました」
レンヤが顔を赤くしつつヴェルティアへいうとヴェルティアはニッコリと微笑んだ。
「いえいえ、いいんですよ。みなさんの心の広さには感服いたしました!! とても偉いです!!」
「あ、ありがとうございます!!」
ヴェルティアの言葉にレンヤは嬉しそうにいう。その様子はレンヤの心情がよく表れているというものだ。
「また、みなさんとお会いできるのを楽しみにしてますよ!!」
「はい!! 行ってきます!!」
レンヤはテンションを爆上げしてディアーネの起動した転移陣へと入る。ヴィルガルドとエルナも一礼して入った。エルナはシルヴィスに何か言いたそうな表情を向けたがグッと我慢したようであった。
「十分に気をつけてくれ」
キラトの言葉に三人は一礼すると転移していった。
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