第145話 閑話 ~ヴェルティアの気づき~
「危ないところだったわね」
「ああ、あの子がお嬢とシルヴィス様の間に割り込まれちゃ困る」
ディアーネとユリは小さくつぶやいた。その表情は真面目そのものであり茶化そうという雰囲気は一切ない。
「レンヤさんの方はある意味、既定路線なんですけど……エルナさんの方は予想外でしたね」
「ああ、普通に考えてシルヴィス様は能力的にも容姿的にも女性ウケはいいんだよな」
「ええ、リネアさんとジュリナさんはそれぞれ想う方がいるから目移りするようなことはなく安心してましたが、エルナさんはてっきりレンヤさんかヴィルガルドさんへ想いを寄せているのではないかと思ってましたので……安心してましたが」
「お互いに甘かったね……」
「ええ……」
ディアーネとユリは互いにため息をついた。
「ん?どうしたんですか? 二人とも?」
ヴェルティアは二人の会話を小耳に挟んだらしく首を傾げながら尋ねてきた。
「何でもないよ。お嬢、こっちの茶葉を試してみたくないか?」
ユリはそう言って茶葉の入った箱をすすめてきた。ユリは紅茶が大好きで、お気に入りの茶葉を異空間に貯蔵しているくらいだ。今回進めてきたのは
「お〜ユリのおすすめですか!! 楽しみです!!」
ヴェルティアはユリの茶葉に対して全幅の信頼を寄せているので、ユリのおすすめは理屈抜きで楽しめるのだ。
「ディアーネ頼む」
「わかったわ」
ユリが茶葉を渡すとディアーネは了承し、即座に紅茶を淹れた。ディアーネの紅茶を淹れる技術は相当なものであり、部屋に紅茶の香りが満ちる。
「お〜素晴らしい香りですね!! うちの国でも交易を考えましょう!!」
「お嬢、いくら何でも国レベルじゃなく次元を超えての交易なんて不可能だよ」
「え?できますよ?」
「お嬢はね。でもほとんどの者はできないよ」
「そうですね。あと単体で可能なのは陛下とレティシア様くらいですね」
「多分シルヴィスも出来ますよ」
「シルヴィス様もできるんだろうけどさ……お嬢の基準は高すぎるよ」
ユリの言葉にディアーネも頷く。
「はっはっはっ!! やはりこの私の偉大さは証明されましたねぇ〜うんうん」
褒められたと解釈したヴェルティアは立ち上がって高笑いを始めた。
「でも恋人はいまだにいないんだよね……」
「ええ……」
「はっはっ……え?」
ため息混じりの二人の言葉にヴェルティアは高笑いを止めた。
「容姿も性格も良いのに……」
「一体どうしてでしょうね……」
「な、ななな……」
二人の追い討ちにヴェルティアは返答に苦しんでいるようであった。
「そうだ。お嬢は結婚するとしたらどんな相手がいいの?」
ユリの言葉遣いはかなり砕けたものになっている。周囲に誰もいない時はユリはかなり砕けた口調になるのである。
「そうですねぇ〜やっぱり私の実力に気後れしないのが第一条件ですね」
ヴェルティアの返答に二人は視線を交わし合う。
「容姿とか性格とかは?」
「う〜ん……容姿はあんまり気にしませんね。いわゆる標準を満たしていれば文句は言いませんよ」
「それじゃあ性格は?」
「そうですね。さっきも言いましたけど私に気後れしなければ大丈夫ですよ」
ヴェルティアは少し考えてからはっきりと言う。
「私は心当たりありますね」
「奇遇だな。私もだよ」
「え? 二人とも心当たりがあるんですか?」
ヴェルティアの反応に二人は心の中でニヤリと笑う。エルナという危険分子が現れたことに危機感を覚えていた二人はここらで二人の仲を進展させるように仕向けることにしたのだ。
「ズバリ!! シルヴィス様だよ!!」
「ええっ!! シルヴィスですか!?」
「なぜそんなに驚くんです?」
ヴェルティアの動揺が大きいことに二人は逆に驚いてしまう。二人から見ればシルヴィスとヴェルティアは互いに好意を持っているのは明らかなのに、ここまで無意識なのは驚くべきことだ。
「だって、そんな風に考えたことはないですし……」
「そうですか? シルヴィス様と話しているヴェルティア様は本当に楽しそうですし、色々なところで頼ってますよね?」
「確かに楽しいのは事実ですし、シルヴィスの意見を聞いておこうと考えることは増えてきましたね」
ヴェルティアの声はディアーネの質問を肯定するものである。
「確かに今までのお嬢なら自分の意見で即行動していたけど、シルヴィス様に意見を求めるのが増えてるし、シルヴィス様もお嬢に意見を求めてるな」
「ユリの言う通りですね。ヴェルティア様はシルヴィス様を特別な存在と無意識に思っていると私は思いますね」
「あ、それは私も思ってた」
「え……そうかも……いえ、え?」
ヴェルティアは珍しくしどろもどろになっている。ほんのりと頬が赤く染まり始めているのを見て二人はほっと胸を撫で下ろした。
(お節介とは思いますが、シルヴィス様をエルナさんにとられるわけにはいかないんですよね)
(油断してるとエルナさんに取られるかもしれないし、そんなわけにはいかないからな)
ディアーネとユリは心の中でほぼ同じことを思っていた。その様子にヴェルティアは注意を払うことなく何やら思案顔を浮かべていた。
「シルヴィスと一緒にいるのは楽しい……お父様とかお母様……レティシアとも違う……ディアーネとユリとも……」
ヴェルティアはブツブツと呟いていた。
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