第126話 再会①

 キラトから特使に任命されたシルヴィス達はその翌日にはエルガルド帝国へ向けて出発した。


 キラトの用意した馬車には、テレスディア家の紋章が掲げられており、魔王キラトの特使であることが示されている。


 護衛をつけようという話になったのだが、それはシルヴィスが断った。いざ戦いとな理、撤退することになった時に数が多いと時間がかかるため、それを避けようとしたのだ。


 一応シルヴィスの術で護衛の人形を十体ほど製作して体裁を整えている。


 この際に制作された護衛の人形の装備は、軍の正規兵と同じ形状のものにしている。違うところといえば中身をアンデッドにしたことである。


 キラトはシルヴィスの作成したアンデッド兵を見て、『うちが誤解されるんだよな』とぼやいたのだが、リネア達は面白そうに賛同したので結局採用となったのであった。


「それじゃあ、行ってくる」

「どんな結果になっても構わん。最悪戦争になったところで何の問題もない。ただ開戦の時期が遅れてくれればこちらが助かるという話だ」

「勘違いしたアホが相手だから、怒り狂って即開戦となるかもしれんぞ?」

「それならそれで相手は準備不足のまま俺たちと戦うことになるから、余裕で勝つという結果になる。どっちに転んでもこちらの不利益にはならないさ」

「わかった。気楽にやることにする」

「ああ、頼むぞ」


 キラトの言葉はシルヴィス達の行動を制限しないように配慮したものである事をシルヴィスは察していた。

 

(キラトとすれば戦争が避けれれば良し、しかし戦争は辞さないというわけか)


 シルヴィスがそう思ったところで、ヴェルティアが声を上げた。


「キラトさん、任せてください!! こう見えても私、竜皇国で外交を担ったこともあるんです!!」


 ヴェルティアの言葉にシルヴィスはディアーネとユリに視線を移すと静かに頷いていた。

 その様子からヴェルティアの言っていたことは事実ではあるのだが、ヴェルティアの認識と周囲の認識は違ったというところだろう。

 シルヴィスとすれば外交の相手を担った相手方がとてつもなく苦労したのだろうと思わされた。


「……ヴェルティアさん、期待してるよ」


 キラトの言葉はある意味、シルヴィス達に向けて発したものだろう。その辺りの機微をヴェルティアが正しく理解しているかどうかは未知数であるが、ある意味ヴェルティアに関することであれば些細なことであろう。


「はい!! 任せてください!! この私の交渉術ネゴシエイトならば魔族のみなさんへ最大限への利益をお約束します!!」


 ヴェルティアのテンションが上がっていくのだが、同時にシルヴィス達の心労も上がっていくのだろうなという事に思い至ったのだろう、キラト達は微妙な笑顔を浮かべた。


「……すまない。戦争の準備は急ピッチでやっておいてくれ」

「……わかった」


 シルヴィスの言葉にキラトの返答もやや固くなった。最悪のケースを考えて備えるのは統治者の義務というものであるが、ヴェルティアの行動はあらゆる賢者の想定を上回るのだ。


「さぁ!! みなさん!! 私の交渉術ネゴシエイトをエルガルド帝国のみなさんに見せつけてあげましょう!!」

「お、おぅ……」


 ヴェルティアは本当に楽しそうに馬車に飛び乗った。シルヴィスとディアーネも後に続き、ユリは御者台に乗るのはもはや定番であった。


「それじゃあ、行ってくる」

「ああ、頑張ってな」


 キラトが少々苦笑いをしながら手を振った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る