第61話 八戦神⑧

「あらら……そういうことかぁ……ディアーネじゃないし……となるとやっぱりシルヴィス様が仕込んだというわけか。まったく抜け目ない方だわ」


 ユリは苦笑を浮かべるとリューべの戦いに目を向けた。リューべは大剣、クルーセスは大鎌、互いに大型の武器を使い互いに必殺の技を繰り出している。


(リューべ君、やるなぁ〜それにジュリナちゃんも要所要所で支援してくれるから完全に二対一だ。ムルバイズさんの支援も本当に要所要所でやってくれてたし、リネアさんも同様だよな。さざなみの真価は、後衛組の的確な支援により前衛が最高のパフォーマンスを発揮することができる戦術にあるわね)


 ユリはディアーネに視線を向けるとディアーネも自分と同じ結論に至っていたことに気づくと互いに視線で頷いた。


「ムルバイズさん、リネアさんはリューべ君の支援に回ってくれ、あいつは私とディアーネでやる」

「任せて!!」

「ああ、嬢ちゃん達、あの鎌使いを始末したら応援に向かうから耐えてくれ」


 ユリの言葉にリネアとムルバイズは快諾するとリューべの支援へと回った。


「すぐに片付けるわよ」


 リネアの言葉にエイラントは片方の眉を上げた。どうやらユリの言葉は癇に触ったようだ。


 ディアーネは心得たとばかりに斧槍ハルバートを構えると同時にエイラントの間合いに飛び込んだ。


 エイラントは大鎌を振るいディアーネを迎え撃った。


 ディアーネの斧槍ハルバートとエイラントの大鎌が激突し衝撃波が周囲に轟いた。


 その衝撃波は弱者であれば到底耐えれるものではない。だが、ディアーネもユリもさざなみのメンバーの誰もが耐えれないどころかよろめきもしない。


「てめぇら、切り刻んでやる!!」


 エイラントは怒りに満ちた声で叫ぶ。


 ディアーネは不敵に笑うと構わず間合いに踏み込んだ。自分の大鎌を警戒しないディアーネの行動にエイラントの誇りはズタズタになっている。


 ディアーネは斧槍ハルバートをすさまじい速度で刺突を放った。エイラントは頭部に放たれた刺突をさっと首を傾けてかわすと大鎌を降りかぶった。


「な……」


 エイラントの目に入ったのはいつのまにか間合いに飛び込んできたユリの剣の切っ先であった。


 ディアーネに意識を向けていたところに、陰に隠れて間合いをユリが詰めていたのだ。


「うぉ!!」


 エイラントは横に跳びなんとかユリの剣をかわしたが、その様子はとても強者という感じではない。


「くそ」


 エイラントはすぐに立ち上がろうとしたが、そこで足を滑らせて転倒してしまう。


 まるで何者かに足を払われたかのような状況であったのだ。


(ありがとうございます。シルヴィス様)

(シルヴィス様、ナイスアシスト!!)


 当然ながらディアーネとユリがこのような好機を逃すはずはない。一瞬で間合いに踏み込んだ彼女達のためにエイラントは混乱から立ち直る時間を与えられなかった。


 ディアーネの斧槍ハルバートがエイラントの左腕を容赦なく斬り飛ばし、一瞬後には背後に回り込んだユリの斬撃がエイラントの延髄を両断した。


 エイラントは自分が破れた事を察したが、もはや声を出すことができなかった。


 急速に暗くなっていく視界の端にエイラントはシルヴィスの冷たい視線を見た。


(まさか……あいつがなにかしたのか? そういえば……クルーセス俺たちになにか仕込まれている……逃げ)


 自分の身に何が起こったのか具体的にはわからないが、ディアーネの「もう負けている」の言葉の意味するところを悟ったが、それを伝える時間と力がエイラントには残されていないのだ。


(く……そ)


 エイラントの意識はここで完全に途切れた。


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