第60話 八戦神⑦

「イクラント!!」


 ディアーネの斧槍ハルバートの一撃を頭部にまともに受けたユクレントが血を撒き散らしながら崩れ落ちた。イクラントの体はピクピクと痙攣をしている。


「安心してください。私は優しいですからきちんととどめを刺してあげますよ」


 ディアーネは冷たく言い放つと斧槍ハルバートに魔力を込めると大きく振りかぶるとそのまま振り下ろした。


 ドゴォォォォ!!


 ディアーネの一撃は周囲に爆風を撒き散らしその爆風がおさまった時、イクラントの上半身は消滅していた。


(シルヴィス様の布石はすごいですね。ヴェルティア様相手に使わないでおいてくれて本当に良かったですね)


 ディアーネはイクラントを斃したのは自分ではあるが、勝ったのは自分でないことはわかっていた。いや、より正確に言えばイクラントを負けさせた・・・・・のがシルヴィスと言える。

 ディアーネは最後の斧槍ハルバートの一撃をイクラントが防ぐために左腕を上げようとしたが、出来なかった事を偶然と考えることができるほど神を甘く見ているわけではないのである。


(シルヴィス様が私達にこいつらと戦わせたのは何かしらの術を仕込んだというわけね。……普通に考えればさっき殴り飛ばした時よね)


 ディアーネは残りの三柱達の戦いを見る。


(ユリもリューべさんもすぐにシルヴィス様の布石に気づくでしょうね。問題はその後ですよね。……まぁ、ヴェルティア様とキラト様なら二体一でも勝てる気がするのよね)


 ユリと戦っているのはセルゼンスという名の剣を手にした神だ。


 ユリとの斬撃の応酬は両者の間に無数の火花を散らせている。所々でムルバイズが魔力を矢にして放ち支援をしている。


「貴様ぁぁぁぁ!! よくもイクラントを!!」


 そこにエイラントが戦槌ウォーハンマーをディアーネに叩きつけてきた。ディアーネはその場で重心を踵に移動させるとそのまま後ろに跳んだ。


 エイラントの一撃が地面に叩きつけられると爆発を起こした。


 だが、ディアーネはまったく動揺する事なく斧槍ハルバートを構えた。


「いいところだったんですけどね。まったく空気の読めない方ですよね」


 ディアーネのため息混じりの言葉にエイラントの不快感は増した。


「貴様はどこまでも我らを愚弄しおって!!」

「あら……私の言葉一つ一つに反応している場合じゃないんじゃないですか?」

「何?」

「だって、ほら……」


 ディアーネが視線だけ向けるとエイラントがディアーネの視線の先に向かうと、ユリの剣がエイラントの首筋を斬り裂いたのが見えた。


「ば、ばかな!!」


 エイラントの声に含まれた感情は、困惑、混乱、そして恐怖である。なぜ神である自分たちが下等生物にこうもいいようにあしらわれているのかが、わからないのだ。未知は恐怖であり、神であってもそれは変わらないのだ。


「なぜ、このような結果になっているのかあなたは理解できてないみたいですね」

「くっ……」

「あなた達はもう敗けてるんですよ」

「ふざけるな」

「ユリと戦っている神はどうして敗れたのでしょうね?」


 ディアーネの問いかけにエイラントは沈黙する。ディアーネが見えているものが自分には見えてないのだ。


(なるほど……シルヴィス様があからさまに戦いの中で仕込みを発動させるわけね。単純に私の技が神を上回ったと思わせることで対処させないようにしたと……)


 ディアーネは心の中でシルヴィスの布石に感謝しつつ余裕の表情を浮かべた。エイラントとすればディアーネの余裕の笑みが強者のモノとして捉えてしまったのだ。


 ユリは首を斬り裂いたセルゼンスにとどめの一閃を放つ。


 セルゼンスは斬り裂かれた傷口を手で押さえつつ、決定的な一閃を躱そうとするがするがここで、セルゼンスの身に不可解なことが起こった。


 セルゼンスが突然ユリの一閃とは反対の方向へ顔を向けたのだ。


(ま、まただ!! なんだこれは!! どうなってる!?)


 セルゼンスは疑問を爆発させた瞬間にユリの一閃がセルゼンスの首を斬り飛ばした。

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