第59話 八戦神⑥

「二人ともちょっと大変だろうけど、あの四柱クズ共の相手を頼む」


 シルヴィスの言葉にヴェルティアとキラトが静かに頷いた。


「ああ、いいぜ。でいつまでだ?」

「私も問題ないですよ」


 ヴェルティアとキラトは単純計算で神二柱を相手にするのだが、さほど緊張は見られない。両者とも八戦神オクトデルスは侮ることは出来ないが臆する相手ではないということだ。


「そんなに長い時間はかからない。ディアーネさん達が四柱を始末するまでだ」

「そうか……」

仕込み・・・の事ですね。まぁシルヴィスが何を仕込んだか後で教えてくれるでしょうけどねぇ。タネ明かしが楽しみですね)


 キラトとヴェルティアが四柱へと向かう。ここで二人が向かったのは、アルゼス、ユクレンス、フォルス、セルゼンスという名だ。アルゼスとフォルスはヴェルティアが対処し、キラトは残りのユクレンス、ラムセスの対応をする。


 そのような振り分けになった事に理由など無かった。ただ、何となく・・・・そうなったというだけだ。


「さて、あなたとあなたは私が相手します!! かかってきなさい!!」


 ヴェルティアがアルゼスとフォルスを指さすと高らかに宣言した。


「それからあなたとあなたはこちらのキラトさんが相手をしますよ」


 続いてユクレンスとラムセスへと指さした。ヴェルティアの宣言に名指しされた神達の不快感はさらにあがった。


「舐めるなよ。このアマァァァァ!!」


 フォルスは激高すると不用心に突っ込んできた。怒りで完全に我を失っている感じだ。次いでアルゼスもヴェルティアへ突っ込んでくる。


「そんな勢いだけの突進なんて愚かですね~」


 ヴェルティアはニヤリと笑って自分の胸の前で両拳をぶつけると構えをとり、ヴェルティアも二柱へ向かって間合いを詰めた。


「煽っていくなぁ……まぁ状況は完全に作られちまったからな……やるか」


 キラトも剣を構える同時にユクレンスとラムセスへと斬りかかった。キラトの動きもヴェルティア同様にまったく初動が察知されないレベルのものだ。瞬間移動したと思われるほどの速度で間合いに飛び込むとキラトと二柱の戦いの火ぶたは切って落とされた。



(ヴェルティアもキラトも二対一だけど問題はないな)


 ヴェルティアもキラトも二対一という不利な状況にあるが、絶妙な立ち位置を確保して、二対一の不利な状況を可能な限り無くしている。


(しかし、神の戦術は本当に稚拙だな。天使もそうだったし、生まれついての強者という立場の弊害だな)


 シルヴィスは心の中でそう分析する。八戦神オクトデルスは身体的能力で見ればヴェルティア、キラトにそう劣るものではない。だが、その身体能力の活かし方・・・・には天と地ほども差がある。

 神であるアルゼス達は強者として生まれてしまったことで工夫などしなくても勝ててしまう。だからこそ戦術を練る必要もなく技術が発達しなかったのだろう。いや、発達させる必要がなかったのだ。


(さて、まずはあっちだ)


 シルヴィスはディアーネ達の戦いに意識を向ける。


 シルヴィスの見たところ、ディアーネ達の身体能力は戦う神達に及ばない。だが、練りに練られたディアーネ達の「武」はその身体能力の差をひっくり返すことが出来るものだ。

 だが、シルヴィスはディアーネ達にここでこの神達と死闘を演じてもらうつもりなど無い。この戦いは一騎打ちなどではなく多対多の戦いだ。ならば横槍が入るなど最初から想定すべきことだ。


 ディアーネ達と戦うことになったのはセルゼンス、エイラント、クルーセス、イクラントの四柱。表面上は五対四の戦いであるが、実際は六対四だ。


 前衛のディアーネ、ユリ、リューベは四柱を迎え撃ち、リネア、ムルバイズ、ジュリナが援護するという形だ。


「神を侮った報いを受けろ!!」


 イクラントはディアーネに槍を突き出した。ディアーネは突きをかわすと同時に斧槍ハルバートを振るう。

 ディアーネの一撃をイクラントは槍の柄で上に軌道を逸らされた。当然、イクラントは槍の突きをディアーネに放つ。が今度はディアーネが斧槍ハルバートの斧の部分を槍の柄に引っかけると突きの軌道を変えた。


 突きを逸らしたディアーネはニヤリと嗤った。


「おのれぇぇぇ!!」


 ディアーネの露骨な挑発にイクラントの忍耐心は一気に蒸発した。そこに一矢が放たれ、イクラントの防御陣を貫き、イクラントの頬を掠めた。イクラントの頬についた一筋の傷痕から血が一筋落ちる。


「く……」


 イクラントの視線がリネアに向かう。リネアの手に握られている黒い弓から放たれた一矢だったのだ。


(あの女の矢は俺の防御陣を貫けるのか)


 イクラントはリネアの矢が自分の防御陣を貫けるほどの威力である事を知り背筋が凍る思いであった。


「おやおや、今になってやっと自分が置かれている状況かわかりましたか?」

「なにぃ……ぐ?」


 イクラントがディアーネの煽りに怒りを向けようとしたとき、イクラントの膝がガクッと折れたのだ。すぐに力を入れ直したために膝をつくようなことはなかったが、イクラントに与えた衝撃は小さいものではない。


「貴様……まさか?」


 イクラントの言葉にリネアはニッコリと嗤って言う。


「もちろんさっきのは毒矢ですよ。あなたに放った矢は私の魔力で形成したもの、当然ですけど毒を生み出すことも出来ますよ」

「ひ、卑怯な」


 イクラントの抗議の言葉に返答したのはディアーネである。


「まぁ、いいじゃないですか。あなたは実力で負けたわけでなく、卑怯な手で負けたのだと言い訳が出来るわけですからね。それであなたの自尊心が守れるのですから感謝してください」


 ディアーネはニヤリと嗤うと間合いを一気に詰めた。イクラントは後ろに跳び間合いをとろうとするが、ディアーネの斧槍ハルバートの間合いから逃れることは出来ない。ディアーネの斧槍ハルバートの一撃が放たれる。


(く……毒で動きが……だが、これは防げる)


 イクラントは槍の柄で斧槍ハルバートの一撃を受けるつもりで腕を上げようとした。


 だが……


(な、左腕が上がらない!! 何かに掴まれてる?)


 イクラントは自分の左腕が上がらないことに驚愕した次の瞬間にディアーネの斧槍ハルバートがイクラントの顔面に直撃した。

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