第56話 八戦神③

 キラト達の後にその村に入ったところで、その村の異様さに全員が気づいた。


 何しろ人気がまったくないのだ。時間的に夕方にさしかかろうという時間帯であり、まったく人気がないというのはあり得ないというものだ。


「明らかにおかしいな。人気もだが……家畜の気配もしないな」

「そうですね。これはよろしくないです。絶対に何か悪い事があったと考えるべきですよ!!」

「とりあえず、出てみるか」


 シルヴィスが馬車の扉を開けて外に出た。当然のことながらシルヴィスは周囲に気を配り外に出ている。


 シルヴィスの次にディアーネ、ヴェルティアの順番で外に出る。極々自然にヴェルティアを庇うようにディアーネとユリが護衛につく。


「みんな、気を付けてくれ」


 キラト達がシルヴィス達の元に駆け寄ると、注意を促してきた。キラト達にとってもこの村の状況は想定外であり、何かしらの異常事態が起こっている事を予感させるものであった。


「ん?」


 シルヴィスの怪訝な声に全員の視線がシルヴィスに集まった。


「どうした?」

「死臭がする……」

「何?」


 シルヴィスの返答に全員が沈黙して、死臭を探すと程なくして全員の緊張感が高まった。シルヴィスの言う死臭を嗅ぎ取ったようだ。


「まさか……」


 キラトはギリッと奥歯を噛みしめると死臭の方向へと駆け出した。それにさざなみのメンバーも続く。


「私達も行きますよ!!」


 ヴェルティアが駆けだしシルヴィス達も続いた。いくつかの角を曲がり、村の中心の広場に行ったところで全員声を出すことが出来なかった。


 そこには魔族達の死体が吊されていた。老若男女だけでなく幼児、乳児までが吊されており、その死体のどれもが激しく損壊していた。数多くの死を見てきたシルヴィス達であっても眼を覆いたくなるような光景である。


「これは……」

「キラト、魔族の領域フェインバイスに生息している魔物で、このように獲物を保存する魔物は存在するか?」

「わかってるだろ? そんな魔物はいない。これは何者かが何らかの意図を持って行った恥ずべき行為だ」


 シルヴィスの冷静な問いかけにキラトは顔を横に振り、シルヴィスの問いかけに返答する。


「それは良かった……」

「ああ」


 シルヴィスは心からほっとした声を発し、キラトも同様に穏やかな声で返答した。この光景に対しての声としては全く似つかわしくない。いや、むしろ不謹慎であると行ってもいいだろう。

 だが、シルヴィスとキラトの声に対して、仲間達が咎めないのは、シルヴィスとキラトの内に激情が渦巻いているのを察しているからだ。いや、この場にいる者達は間違いなくこの地獄を生み出した者達に対して怒りの炎を燃やしているのだ。


「せめて……この方々を弔おう」

「ああ……」


 キラトの言葉にシルヴィス達は頷くと吊された村人達へ向かって歩みを進めた。キラトが吊された方々の元に近づいたとき、シルヴィス達全員が周囲に目を向けると村の周囲に巨大な杭が空中に現れた。


 ズズン……ズズン……


 空中に現れた杭は落下し、土地に突き刺さった。


 突き刺さった杭同士を光が結び村を取り囲んだ。


「なるほど……クズによって閉じ込められたというわけか」


 シルヴィスの言葉に全員が静かに頷いた。その様子に緊張感が高まるが、恐怖は一切ない。例外は軀の生き残りの二人であるが、この場では仲間と認められていないので数として認識すらされていないのだ。


「まぁ、こんな事をやった落とし前は着けてもらうさ」


 シルヴィスが言い終わると空中にいくつかの転移してくる気配を感じた。


ここ・・が当たりか」

「やったぜ。俺の予想通りだ」

「え~と、シルヴィスって下等生物はどいつだ?」


 八体の男達がシルヴィス達を露骨に見下しながら現れた。


「おい、どいつだ?」


 一体の男が問いかけると一体の天使が姿を見せた。シルヴィスを殺すために送り込まれた天使長アグナガイスだ。


「あいつです。アルゼス様」


 アグナガイスはシルヴィスに指を向けて言い放った。


「ほう、お前がシルヴィスか。初めまして」


 アルゼスはニヤニヤとした表情を浮かべ一礼する。


「ああ、よろしく。ご丁寧な挨拶どうもありがとう。その紳士的な対応に期待して一つ聞いて良いかな?」

「何かな?」


 アルゼスは嫌味な表情を崩すことなくシルヴィスに問いかける。


「この村の方達を殺したのはあなた達かな?」


 このシルヴィスの問いかけにアルゼス達は一斉に嗤い出した。


「ははははは!! 我々がやったのは駆除だよ」

「駆除?」

「そうさぁ~魔族のような虫ケラを潰すのは駆除って言うんだよ。くじょ・・・


 少年の姿をしているフォルスがシルヴィスに言い放った。死者への冒涜などと言うレベルではない暴言であるがシルヴィス達は怒りを表面上に見せる事はない。シルヴィス達の反応にアルゼス達はつまらなさそうな表情を浮かべた。


「おい、俺がいつお前に聞いたんだよ。お前はアホだからわからんのだろうが、話に割り込むのはとても不躾な行為だぞ。それともそっちの男は俺の問いかけが理解出来ないから助け船を出したのか?」

「な……」


 シルヴィスの言葉にアルゼス達は絶句した。神であるアルゼス達はこれほどの暴言を受けたことはなかったのだろう。


「さっさと答えろよ。どっちがバカなんだ?」

「下等生物ごときが神にそのような口を!!」


 フォルスが怒りの声を上げると大量の天使達が一斉に転移してきた。


「質問に答えるだけの能力がないか……まぁいい。お前らはここが当たりと言ったな?それは他の村・・・も襲ったということか?」


 シルヴィスの声に不快感が漏れ出ていた。


「だったらどうした? 魔族は虫ケラだ!! この世に存在する価値はないんだよ!!」

「そうか。それでもう一つ……この村の周囲の柱で俺たちを閉じ込めたということか?」

「はっ、虫ケラでもそれぐらいのことはわかるのかよ!! 虫は逃げ回るからな!! 閉じ込めておかないとなぁ!!」

「バカが……」

「バ……また、きさ……」


 フォルスはあまりの怒りに言葉が滑らかに出てこない。シルヴィスはニヤリと笑って両手を天に掲げた。


 すると村を覆うような巨大な魔法陣が描き出され、魔法陣から四本の杭が村を覆うように落ちる。地面に刺さった杭は、アルゼス達の仕掛けた結界と同じように光で結ばれた。


「閉じ込められたのはお前らだよ……マヌケ共が……」


 シルヴィスはここで一端言葉を切り、凄まじい殺気を放つと次の決定的な言葉を言い放った。


「皆殺しだ」


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