第52話 そして手を組む③

「ああ、そういうこと。対等な関係となった以上、隠す必要はなくなったからな」

「用心深いことですね」

「そりゃ、王子様ともなれば命を狙われることも数多くあるからな、そりゃそうもなるさ」

「王子様というのも色々と大変なんですね」

「まぁね。面倒だけど仕方ないさ。それよりも対等の立場となったからな。タメ口で話すし、シルヴィスと呼び捨てにするぞ」

「ああ、別に構わんよ。俺もキラトと呼ぶからな」

「ああ、それでいい」


 シルヴィスとキラトがそういって互いにニヤリと笑う。


「でリネアは俺の妻だ」

「改めてよろしくね。リネア=サリヌ=テレスディアよ。一応王子妃よ」


 リネアはニッコリと邪気のない笑みを浮かべた。元より美しい容姿をしているがその笑みは美しさをさらに増している。


「儂は元教務院院長であるムルバイズ=レグ=ノイルカースじゃよ。教務院というのは研究機関の統治を司る国家機関じゃ」

(研究を統治する国家機関か。魔族の統治制度は相当整備されているということだな)


 ムルバイズの自己紹介に出てきた教務院という国家機関にシルヴィスは魔族達の国家の文明レベルは人間の国家と変わらない。いや、それ以上の水準である事を示している。


「私はジュリナ=メイナ=ノイルカースです。サイエルマイス魔道研究所の所長です」

(こっちは研究所の所長か。相当な実力者ということだな」


 シルヴィスとすればジュリナが実力でその地位に就いていることを疑うような事はしない。もし実力がなければ王子の伴としてこの場にいるはずはないからだ。


「僕はリューベ=ブランゼルといいます。第二軍団軍団長を務めてます」

「軍の最高幹部の一角か」


 リューベもまた国家の重責を担う一角だった。魔族達の軍制度がどのようなものかはわからないが、水準が低いと言うことはないだろう。


「なるほどね。漣というミスリルクラスの冒険者チームの正体は、魔族の国家の重鎮というわけか」

「まぁな、それじゃあそっちだ」

「こっち?」

「ああ、シルヴィス達が異世界から来たというのは聞いたが、そっちも訳ありの立場なんだろ?」


 キラトの言葉にシルヴィスはヴェルティア達を見た。


「俺は立場なんてものはないさ。俺はただの平民、そして捨て子・・・だ。だが、ヴェルティア達はちょっとした立場だよ」

「そうなのか?」


 キラトは首を傾げながらヴェルティア達に視線を向けた。キラト達の視線を受けたヴェルティアはシルヴィスに意味ありげな視線を一端向けたが、すぐに笑顔を浮かべると腰に手を当てて高らかに宣言した。


「はっはっはっ!! 私はヴェルティア=シアル=アインゼス!! アインゼス竜皇国の第一皇女なんですよ!!」

「皇女!?」


 ヴェルティアの第一皇女という宣言にキラト達は驚きの声を上げた。この辺りの反応はシルヴィスも納得できるというものだ。


「ふふふ、いや~私の高貴さに声も出ないようですね~」

「いや出てたろ」

「シルヴィス、そんな小さいことにこだわるようではまだまだですね~」

「いや、お前すごいな」

「いや~シルヴィスもやっと私の優秀さが理解出来るようになったんですね~うんうん」


 シルヴィスとヴェルティアのやりとりにキラト達は苦笑を浮かべた。ヴェルティアが第一皇女であろうがなかろうが、今まで自分達に見せていた姿に嘘偽りがなかったことに好感を持ったのだ。


「ヴェルティア様、シルヴィス様、愛を深めるのは賛成ですが、今はその時ではないと思います」

「「え?」」


 ディアーネの言葉にシルヴィスとヴェルティアは呆けた声を上げた。


「失礼いたしました。私はディアーネ=ザイエルグラン。ヴェルティア皇女殿下の専属侍女を務めております。

「私はユリシュナ=レグナ=アイゼスゴルムっていうんだ。見ての通りお嬢の護衛なんだけどお嬢が強すぎるから出番があんまりないんだよ」


 ディアーネとユリが名乗り、ディアーネが続けて口を開いた。


「皆様方にはヴェルティア様とシルヴィス様のお二人が夫婦と伝えておりましたが、はお二人は夫婦ではございません」

「ほう、すると?」

「恋人以上夫婦未満でござます」

「まてぇ!!」

「どうしてそうなるんですかぁぁぁぁぁ!!


 とんでもない発言をしたディアーネにシルヴィスとヴェルティアが待ったをかける。二人の抗議をディアーネは首を傾げた。美少女のディアーネの仕草なので絵になるのだが、今の二人にとってはそれどころではない。

 ディアーネは二人の抗議を軽く受け流すとキラト達に苦笑を向けて口を開いた。


「とまぁこの二人の関係はこんな感じです。皆様方のご協力をお願いいたします」


 ディアーネはそう言って静かに一礼する。


「よくわかりました。面白そうなので協力をさせていただきます。なぁみんな!」

「ええ、こういう初々しい関係をいじる……じゃない。応援するのはやぶさかじゃないわ」

「ふむふむ……若者を見守るだけでは物足りんと思っておいた所じゃ。楽しませてもらおうかの」

「ああ、気の毒……」

「あの……みなさん。あまり、からかわない方が……」


 キラト達の反応は年少組の方は気の毒そうな反応を示したが、年長組は明らかに楽しそうだ。


「全く……ディアーネにも困ったものです。私とシルヴィスは確かに夫婦ではありませんし、恋人でもないのでそのつもりでいてください!! あと、私はアインゼス竜皇国の皇女ですけど、この世界にアインゼス竜皇国はありませんので、国同士とかそんなのは考えなくて大丈夫です!!」


 ヴェルティアは困ったような表情を浮かべるが、すぐにいつもの調子になった。


「まぁ、それはそれとして今後ともよろしく頼みますね!!」

「ああ、こちらこそ」


 ヴェルティアの言葉にキラトはニヤリと笑った。


 シルヴィス達とキラト達は互いの素性を明かすことで、「神を倒す」という目的のために手を組んだということを互いに察していた。


 ここに神にとって最強の敵対勢力が誕生したのであった。

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