第51話 そして手を組む②

「ああ、それは当然ですね。私達もシルヴィス同様にこの世界の者ではありませんからね」

「彼が異世界から来たと言って驚いてなかったから、知ってたとは思ってたけど、ヴェルティアさん達も異世界から来たわけですか。やはり彼同様に拉致されたんですか?」


 キラトの問いかけにヴェルティアは静かに首を横に振った。


「いえ、シルヴィスを追いかけて・・・・・ここに来たんですよ」

「ほう……追いかけてですか」


 ヴェルティアの言葉にキラトはニヤニヤとした表情を浮かべた。シルヴィスはキラトが思い切り勘違いしていると考えると事実を告げることにする。


「キラトさん、ヴェルティアが俺を追ってきたのは、色恋ではなく戦うためですよ」

「戦うため?」

「ええ、そもそも俺がここに連れてこられたのは、こいつと戦っていたからです。こいつはとにかく戦闘に関することは本当の天才なんですよ。意識を少しでも切ると負けるから召喚されるのに対応するのが遅れたんですよ」

「じゃあヴェルティアさんは戦うために異世界に来たわけですか?」

「はい!! そうなんですよ!! やはり決着をつけることなく中途半端におわるというのはしっくりこないんですよ!!」

「え~と……でもどうやって来たんです?」

「もちろん、次元の扉を開けてやってきました」

「え? 儀式とかじゃなくて?」

「ええ、戦いの時にシルヴィスに追跡トレースという術式を付けておいたんですよ。おかげで見つけることが出来たんです」

「う~ん……何というか規格外にも程があるというか……」

「キラトさん、ヴェルティアに常識を当てはめようとしても疲れるだけです」

「そうだね。ん、ヴェルティアさんの言葉からすると、君達は元の世界に帰れるんじゃないか?」


 キラトが首を傾げながら疑問を尋ねた。ヴェルティアが次元の壁を越える事ができるのならシルヴィス達はどうして元の世界に帰らないのかと思うのは当然のことだ。


「もちろん帰れますよ。元の世界に帰るのなら俺一人でも可能です。数多くの世界から元の世界を探し出すのは中々大変なんですけどね。だから取り敢えず神をしばくことを優先したんです」

「取り敢えずで神をしばくってすごい表現だね」

「まぁ、さっきも言いましたけど俺は神という自分の価値観を押しつけてくるやつが大嫌いなんですよ。神が正しいと言えば命を奪う事も肯定される。神が間違っていると言えば他の者を助けても否定される。すべての道理を決めるのが当然という傲慢さがとにかく鼻につく」

「なるほどね。君はとにかく神が嫌いというわけか」

「ええ、何もちょっかい出さなければほっときますけど、この世界の神は俺をここに拉致して、気に入らないという理由で殺そうとしてきた。そんな連中になぜ被害者である俺が耐えなければならないのかどうしても納得できないんですよ」


 シルヴィスは不快気な表情を歪めて言い放った。シルヴィスの反応を見て、キラトは苦笑を浮かべながら口を開く。


「まぁ、とりあえず神をしばくという目的はわかった。その理由も神が気に入らないという単純すぎるものだ」

「ええ、問題ありますか?」

「いや、ないな。むしろ俺としたらそういう単純な理由の方が遙かに強い。みな複雑に考えすぎだ。結局の所、行動原理なんか突き詰めれば好き、嫌いに行き着くものだ」

「ああ、結局はそこだ。正義のためというお題目も結局は悪と見なした者が嫌いというだけですものね」


 シルヴィスの返答にキラトは静かに頷く。シルヴィスもキラトも結局は似たもの同士というわけだろう。


「それで魔族が持っている神の情報をもらうことは出来そうですか?」

「ああ、問題ないさ。それよりも……」


 キラトの続く言葉にシルヴィス達は耳を傾ける。


「俺達と手を組まないか?」

「いいですよ」

「もちろん魔族と言うこと……え?いいの?」


 シルヴィスの即答にキラトは完全に虚を衝かれた形になってしまい、つい間抜けな声で返答してしまった。


「この前も言いましたけど俺たちは別に魔族達だからといって信用しないと言うことはしませんよ」

「俺がウソをついてると考えないの?」

「もちろん考えましたよ」

「そうなの? ちなみに俺がウソをついていてたらどうするの?」

「そりゃあ、ぶん殴りますよ。まぁ、キラトさんを信じたのは俺だから、俺の責任で何とかします」

「なるほどね」


 シルヴィスの返答にキラトは苦笑する。


(自分の行動の責任は自分で取ると言うことか。そりゃディアンリア達のやり方が気に食わんわけだ)


 キラトはシルヴィスの美学を見た思いだった。シルヴィスにとって異世界から召喚して、自分達の代わりに魔族と戦わせようという行為は、召喚された者達が勝とうが負けようが責任をとるのは、この世界のものではない。まさに責任転嫁の極致なのだ。それがシルヴィスには生理的に受け付けないのだろう。


「ヴェルティア達はどうだ?」

「私も良いですよ」

「私もヴェルティア様の身に危険が及ぶわけではなさそうですし構いません」

「お嬢が危険になるわけないじゃん。キラトさんが直接戦うとなるなら話は別だけど、それでもシルヴィス様と一緒・・にいるから心配はないし」


 シルヴィスがヴェルティアに問いかけると、ヴェルティア達も即賛同した。


(こっちは絶対的強者たる余裕だな。だが、自分の行動に責任をとるという覚悟があるのは一緒か)


 キラトはヴェルティア達の即答を絶対的強者からくるもの、そして強者の義務からくるものであることを察した。


(こういう自分の美学を持っているやつらは裏切らない)


 キラトは心の中で頷いた。組む価値ありという自身の判断に誤りがなかった事を理屈抜きに感じたのだ。


「さて、これで俺たちは真に対等な関係となった。改めてよろしく俺の名はキラト=テレスディア。父の名はルキナ=リーク=テレスディアだ」


 キラトはそう言って改めて名乗った。


「そうか。あなたは魔王の息子か」


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