第40話 魔族との邂逅⑥
「ねぇキラト、あの白金貨にかけられた魔術ってなんだったの?」
リネアの問いかけにキラトは苦笑しながら返答する。
「正直、わからん。ひょっとしたら何の術もかけられてないのかもな」
「え? どういうこと?」
「魔力は感じたけどそれがなんの術かまではわからん」
「それじゃあ、依頼主は本当は大した手立てを打ってなかったと言うこと?」
「かもな」
キラトの言葉にリネアは呆れたかのような表情を浮かべた。あそこまで自信たっぷりに言い放ったのだから術の正体まで把握していると思っていたのだ。
「さて、それじゃあ行くとするか」
「行くって……まさかグラクレイト?」
「さすがは我が妻、美しさだけでなく機転も一流だな」
「もう、ごまかさないでよ」
キラトの言葉にリネアは嬉しそうに答えた。
「グラクレイトに行くということはさっきの少年達に会うつもりですか?」
そうキラトに問いかけたのは二メートルを超える長身の男で、名をリューベ。大剣を盾を背負った戦士だ。キラトに対する言葉遣いは恭しさで満ちている。
「ということは、あの坊主達と直接交渉するつもりかの?」
続けて白髪の初老の男性がキラトに尋ねたのはムルバイズ。ローブに身を包んだその出で立ちは、古の賢者のようだ。
「キラト様、爺様の言ったようにあの人たちと直接交渉するのはどうして? ギルドで待ってるというのじゃダメなの?」
そこに十代半ばの少女が声をかけた。名前はジュリナ、ムルバイズの自慢の孫娘で、ローブに身を包んだ、赤い髪をサイドテールにまとめている美少女にまず分類される容姿をしている。
仲間達の質問にキラトは楽しそうに言った。
「単に俺が興味が出た。それだけだ」
キラトの言葉に四人は呆れたような表情を浮かべた。しかし、四人の表情にはキラトへの好意が含まれている。
「しかたないわね。まぁうちの旦那様のいうことだから今さらではあるわね」
「でもリネア様~ついて行く方はスリルがありすぎますよ」
「ふふ、ごめんね」
「う~リネア様にそんなこと言われては断れないです」
ジュリナがリネアにふくれながら言うが、子犬がじゃれているようにしかみえずに、五人の間には和やかな雰囲気が流れている。
「というわけでグラクレイトに向かうとしよう」
キラトの言葉に四人は頷いて歩き始めた。
* * * * *
「うーん、冒険者の方々って結構まともな人種なんですね」
「当然です。何しろ冒険者という方々は真の探求者なのですよ!! そんな信用第一の彼らが白金貨五十枚を持ち逃げするなどありえません!! ディアーネは本当に心配性ですね~」
「ヴェルティア様によからぬ事を考えるような者共が近づいてこないともかぎりませんんので」
ディアーネはそう言ってニッコリと笑う。
「この段階で入れ替わらないと言うことは、冒険者達は信用しても良さそうですね」
シルヴィスの言葉にディアーネは頷いた。
「ええ、冒険者の持っている知識、情報は私達に欠けているモノ。その出所が信用ならないというのはやはり問題ですものね」
「しっかし、ディアーネって性格が歪んでるよな~」
「は?」
ユリの言葉にディアーネはピクリとした反応を示した。
「だってよ。一定時間内に白金貨五十枚が袋の中に入らなけりゃ、石ころと入れ替わるって、えげつないねぇ~」
「あらあら、ユリさんったら、あなたの案では爆発するという術式でしたよ?」
「まぁ、私の案は却下される事前提で言ったんだよ。過激なことを言って限界の位置を作り出すという私はいわばストッパーの役目だな。うんうん」
「ヴェルティア様みたいなことを言わないでくださいね」
「ディアーネは本当に私を褒めてくれますね~♪。でも私も二人は良くやってくれていると思いますよ。偉い!! 褒めておきます!!」
ヴェルティアのいつもの言葉にディアーネとユリは苦笑を浮かべつつ、ヴェルティアに頭をヨシヨシと撫でられるのを受け入れていた。
今回、ギルドに置いていった白金貨五十枚というのは、シオルが置いていった国家予算に比べれば微々たるという表現すらはばかれるような額だ。それを失ったところで大した問題ではないというよりも問題と認識しないレベルだ。
そこに、術を施したのは冒険者が信用できる存在か試すという意味合いがあった。こういうやり方は人によっては不快感を示すが、これから魔族達の領域に入るというのに信用のおけない冒険者からの情報に従って判断する方がはるかに問題だ。
シルヴィス達の実力からすれば、そうそう命が脅かされることはないが、毒を盛られたところに襲われれば、その襲撃を避けるのに余計な苦労をすることになる。まぁヴェルティアの場合「あれ? 体がしびれますね? まぁいいです!! いきますよ!!」と粉砕するだろうが用心はしておくべきだろう。
「うんうん、おやおや~シルヴィスも褒めて欲しいみたいですね♪ もちろんシルヴィスも頑張ってますよ!! ここにくるまで私達の安全をさりげなく守ってくれてましたものね~」
「そうそう、シルヴィス様ってさ。何気ない気配りがすばらしいよな」
「ええ、ヴェルティア様という理不尽な存在にすら女性扱い出来る器の大きさは特筆すべきものです。我がアインゼス竜皇国の歴史に記すべきです」
「そうですね~偉い偉い!!」
シルヴィスは三人のやりとりに自然と笑みが浮かんでいた。シルヴィスの今までの人生でここまで気を張らずにいれるというのはほとんどない。この三人は自分を裏切るようなことはしないとなぜか思えるのであった。
コンコン……
その時、シルヴィス達の扉をノックする音が響いた。
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