第41話 魔族との邂逅⑦

「アインゼス様、よろしいでしょうか?」


 ドアの向こうから遠慮がちな声が聞こえてきた。


「はい、どうぞ」


 ディアーネの返答にドアが開けられるとグラクレイトの客室係が立っており一礼する。


「おくつろぎの所申し訳ございません。冒険者の方がアインゼス様を訪ねてこられております」

「冒険者ですか?」

「はい。その冒険者の方は約束はしていないとの事ですが、断られるのならギルドでとのことでございます」

「ふむ……どうされますか?」


 ディアーネはシルヴィス達に視線を向けて尋ねると、ヴェルティアが立ち上がった。


「もちろん!! 会いますよ!! 冒険者の方々がせっかく来てくれたんです!! シルヴィスそうでしょう!!」


 ヴェルティアの意見にシルヴィスも即座に頷いた。


「ああ、直接会いに来る。どんなきっかけかはわからないが、他の冒険者とは違うみたいだな」

「二人が会うっていうのなら私が反対する理由はないよ。ディアーネは?」

「もちろん、私も反対なんかしませんよ」


 四人から反対意見がでなかったので訪れた冒険者達に会うことは決まった。


「聞いた通りです。その冒険者の方々をここに案内してください。それからその方達の席も用意していただけますか?」

「承知いたしました」


 ディアーネはニコリと微笑みながら指示をすると客室係は恭しく頷くと退出した。


 三分ほどすると、五つの椅子が運び込まれ、テーブル、お茶もセッティングされ、あっというまに簡易的な茶会が整った。用意が調ったところで、客室係達は一礼して退出していく。


「給仕は私が行います。ユリは……」

「わかってるって」


 ユリは皆まで言うなとばかりにディアーネの言葉を遮るとドアの所に立った。ユリの本業は一応ヴェルティアの護衛だ。ヴェルティアの戦闘力が凄まじすぎるので、ユリの出番などほとんどないのでが、第一皇女の護衛に選ばれるのだから相当な実力者なのだ。同じ理由でディアーネの方も侍女としてその実力はトップクラスなのである。


 ユリがドアの所に立ったのは、極々自然に冒険者達の背後に立つことで簡易的な包囲を敷いているのである。


「さて、それではシルヴィス様は冒険者の方々との応対をよろしくお願いします」

「わかりました」

「シルヴィス、頼みましたよ♪」

「ああ、任せてくれ」

「うんうん、さすがシルヴィスは頼りになりますね~♪」


 ヴェルティアはうんうんと頷いている。シルヴィスとディアーネは視線を交わしてわかり合ったように頷いた。


(この爆走娘に任せたら冒険者が踏みつぶされてしまうからな)


 シルヴィスからすればヴェルティアのようなタイプは交渉ごとの最初の方に出るとまとまるものもまとまらない。ヴェルティアの出番は交渉ごとが停滞したときの状況を変える必要性があるときに盤面をひっくり返してもらった方が良いのだ。


「失礼いたします。冒険者の方々をおつれしました」


 客室係のノックと言葉にユリが扉を開けた。


「どうぞ、お入りください」


 ユリはいつものような荒々しい口調ではなく、皇族の護衛に相応しい厳かな雰囲気を放っていた。


 入ってきたのは五人の冒険者である、もちろん、キラト達一行だ。キラト達は一礼して用意された席についた。


(……気後れもないし、動きが洗練されてる。この五人ただの・・・冒険者じゃないな)


 シルヴィスはユリに視線を送るとユリもシルヴィスと同じ印象をとったのだろう。小さく頷いた。


(やれやれ……貴族階級出身か。俺の礼儀作法なんて見よう見まねだからな。すぐに見抜かれるだろうな)


 シルヴィスは簡単なマナーは身につけているが、所々で抜けがあるのは事実だ。ましてそのマナーは元の世界のものであり、この世界のマナーはまったくわからないというのが本当のところなのだ。


「初めまして、本日は面会の機会をいただきありがとうございます。私はミスリルクラスの冒険者であるさざなみのリーダーであるキラトと言います」

「同じくリネアです」

「リューベです」

「ムルバイズじゃよ」

「ジュリナです」


 五人はそういって柔らかな雰囲気を醸し出しながら自己紹介を行った。


「それはどうも。おかけになってください」


 シルヴィスの言葉に従って五人が着席したところで、シルヴィスが口を開く。


「私はシルヴィス=アインゼス、これは……のヴェルティア。今給仕をしているのは専属・・侍女のディアーネ、後ろにいるのは護衛のユリシュナです。他に三人の護衛がいますが使いに出しています」


 シルヴィスの紹介でヴェルティアを妻と紹介するのは少しばかり気恥ずかしい。ディアーネはキラト達の視界に入るので静かに一礼し、まったく表面上は変わらないがユリは無駄に良い笑顔でサムズアップをシルヴィスに向けていた。


「いや~やっぱり妻と紹介されるのはテレますね~」


 ヴェルティアは少しばかり気恥ずかしそうにシルヴィスにだけ聞こえるような小声で言っていた。


「ひゃう!!」


 そこにヴェルティアから声が発せられた。シルヴィスがヴェルティアの脇腹をつついたからである。


 突然のヴェルティアの奇声にキラト達の視線がヴェルティアに集中した。


「ははは、申し訳ありません。ささっ続きをどうぞ」


 ヴェルティアは笑ってごまかしながらシルヴィスに先を促した。


「申し訳ございません。妻は時々、奇声を発する癖があるのです」

「はぁ……」

「それで本日はどのようなご用件で?」


 シルヴィスの言葉にキラトが口を開いた。


「単刀直入に言います。私達を雇いませんか?」

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