第38話 魔族との邂逅④
冒険者ギルドの位置を道行く人たちに聞き、ギルドに到着した一行は迷わず中に入る。
この世界には冒険者と呼ばれる職業がいる。冒険者ギルドとはその冒険者達が設立した組合である。
冒険者とう言葉の響きからロマンの印象を受ける人が多いのだが、実情は“魔物相手の傭兵”という位置づけであった。
実際の治安維持は軍や官憲が担うし、戦争では傭兵が活躍する。冒険者は軍や官憲の手が届かないところに対処するためのものである。しかし、その位置づけであっても冒険者の中には一国のトップの実力を有する者もおり、影響力は軽視するものではない。
シルヴィス達がギルド内部に入ると何人かの視線がシルヴィス達へと注がれた。
ヴェルティア達女性陣に視線が集まるのは仕方ない。三人はそれだけの容姿を持っているのだから当然の流れと言えるだろう。
シルヴィス達はその視線を無視して、受付へと向かっていく。
「おいおい、ここはガキの来るところじゃねぇぜ」
一人の冒険者がシルヴィスに向かって言い放った。
「どうやら、勘違いされてるな」
シルヴィスはそう言って苦笑を浮かべた。シルヴィスの苦笑に馬鹿にされたと思ったその冒険者はいきり立って立ち上がった。
「俺は依頼の申請に来ただけだ。別に冒険者になりに来たわけじゃない」
「依頼だと?」
シルヴィスの返答に冒険者はばつの悪そうな表情が浮かべた。てっきりシルヴィス達一行を新米冒険者チームと思っていたのだ。
「ああ、依頼文書を持ってきたのだが、ガキからの依頼は受け付けられないというのなら仕方が無い。傭兵ギルドの方にいくか」
シルヴィスの言葉に絡んだ冒険者に非難の目が注がれ始めた。シルヴィス達は冒険者達に仕事を持ってきたのに、絡まれれたことで仕事の依頼を取り下げればそれだけ仕事にありつけなくなるというものだ。
「も、申し訳ありません」
そこにギルド職員と思われる三十代半ばの男性が謝罪しながらシルヴィス達に近づいてきた。
「いえ、お気になさらず。受け付けられないという規則がある以上、仕方がありません」
「そ、そんな規則はありません。依頼は誰でも申請できます」
「しかし、彼はガキの来るところで無いと言ってましたし、ギルドの方も特に制止しませんでしたよね? それがギルドの方の意向なのでは?」
「も、申し訳ありません。制止が遅れてしまいました」
職員がギロリと絡んできた冒険者を睨みつけると冒険者は頭を下げた。これ以上、いじっても仕方がないと判断したシルヴィスはにっこりと笑った。
「まぁ、良いでしょう。それでは依頼申請の受付を頼みます」
シルヴィスがそういうとディアーネが鞄から書類を取り出すと職員に手渡した。
「は、はい。確認させてもらいます」
職員は書類をもって受付の机へと戻って確認に入る。
「あの……この内容ですと報酬は相当なものになりますが……その大丈夫ですか?」
職員はおそるおそるシルヴィスに尋ねる。要するにシルヴィスに報酬を支払うだけの財力があるかを問うているのだ。
「ええ、もちろんです」
シルヴィスは無造作に空間に手を突っ込むと革袋を一つ取り出して職員に渡した。職員は獄吏との喉を鳴らして中を確認した。
「……」
「相場は十分に超えていると思いますが、ダメというのなら構いませんよ」
「と、とんでもありません」
シルヴィスの言葉に職員は慌てて首を横に振る。革袋に入れているのは白金貨50枚が入っているのを職員は見たのだ。
エルガルド帝国の貨幣制度では、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。銅貨一〇〇枚で銀貨一枚、銀貨一〇枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚で換算される。中流家庭であれば一ヶ月の平均収入が金貨四~五枚といったところである。シルヴィスの今回提示した白金貨五十枚というのは中流家庭の約八年分の収入というところだ。
「当然ですが、この依頼は相当な実力者でなければ受任してもらわけにはいきません。我々四人の安全をきちんと確保してくれるような人材でなければ……ね?」
「も、もちろんです」
「雇うチームは二つとさせてもらいます。人選はギルドに任せてもかまいませんね?」
「は、はい!!」
「それではよろしくお願いします」
シルヴィスは職員に一礼するとくるりと踵を返し、数歩進んだところで立ち止まると肩越しに振り返り職員に尋ねる。
「あ、そうそう。この都市で最も高級な宿屋はどこです?」
「え?」
「やはり一番高いところはセキュリティがしっかりしてますからね」
「あ、それなら“グラクレイト”という宿屋は貴族様が泊まったりします」
「そうですか。それでは我々はそこに宿泊してますので、人選が終わりましたら連絡をお願いします」
シルヴィスはそう言うとそのままギルドを出て行った。
シルヴィス達がギルドを出て行って職員の元に冒険者達が駆け寄ってきた。革袋を受け取ったときの職員の驚きの表情から相当な額があることを察していたのだ。
「おい、ケイン。あのガキはいくら報酬を出すって?」
「見てみろ……」
ケインと呼ばれた職員は革袋の中身を見せる。
「おい白金貨だと? しかもこの量……」
冒険者達の中からどよめきが起こった。シルヴィスの提示した額はあまりにも桁外れなものだったのだ。
「でもよ、あのガキ世間知らずもいいところだぜ」
「ああ、何の確認もせずに出て行きやがった」
「ケイン、十枚ぐらいくすねてんじゃねぇか?」
「ああ、あのガキが何を言ったところで証拠なんかねぇんだ」
「バカをいうな」
冒険者達の言葉にケインは否定の言葉を発するがその声は明らかに力が無い。
「なぁに、俺たちも証言するぜ。あのガキは金をここに預けていかなかった」
冒険者達の言葉にケインが頷きかけたことに冒険者達は下卑た表情を浮かべたその時である。
「止めておいた方が身のためだぞ」
一人の若い男の発した声に全員の視線が向く。
そこには五人の冒険者が蔑むような視線をケイン達に向けていた。
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