第30話 天使長アグナガイス戦③

「どりゃぁぁぁぁぁ!!」


 ヴェルティアは跳躍するとそのまま高速で放たれた小型の太陽に、拳を打ち込んだ。


 ドォォォォォォォン!!


 ヴェルティアから放たれた拳による衝撃で小型の太陽はボゴボゴと内部から波打ち始めた。

 そしてヴェルティアが拳を打ち込んで十秒後に、アグナガイスの放った小型の太陽は粉々に砕け散った。

 粉々に砕け散った小型の太陽は大量の炎を周囲に撒き散らした。


(あ、このための防御陣だったのか)


 シルヴィスはディアーネが広範囲に防御陣の形成した意味を察した。ディアーネにしてみればヴェルティアが小型の太陽を打ち砕くのはわかりきっていたのだ。そのために周囲の損害を最小限度にするための防御陣を張ったのだ。


(うーむ……それにしてもを一撃で打ち砕くなんて理不尽すぎるな)


 シルヴィスはヴェルティアが拳一つで小型の太陽を打ち砕けた理由を核を打ち砕いたためである事を看破していた。

 アグナガイスの放った小型の太陽は、中心に引力を発生させた核を作り出し、そこに魔力を注ぎ込んで形成されていた。ヴェルティアの拳の衝撃により、核が打ち砕かれた結果、周囲の魔力が形をとどめることが出来くなり霧散したのだ。


「しっかし……あいつなんで簡単・・にあんなこと出来るの?」

「まぁお嬢だからなぁ~」

「何でもかんでもそれで片付けるのは問題と思いますが、そうとしか言えないのも事実なんですよね」


 ディアーネとユリの言葉にシルヴィスは苦笑してしまう。離れ業をいともたやすく成し遂げるヴェルティアに常識云々を説くのは明らかに誤っているといえるだろう。


「あなた何言ってるんですか~!!」


 そこにヴェルティアの声が頭上から聞こえてきた。


 ヴェルティアはアグナガイスを指さして何やら憤慨している。


「私が化け物って一体なんて失礼なことをいうんですか!! あなたこそ、背中に翼があるじゃないですか!! いうならばあなたも化け物ですよ!!」

「ふ、ふざけるな!! 私は天使だぞ!! その私が化け物だと!!」

「うるさいですよ!! 私を化け物扱いしておいて被害者ぶるなんて卑怯なやつなんですか!!」


 ヴェルティアはそう叫ぶと同時にアグナガイスへと殴りかかった。ヴェルティアの拳がアグナガイスへの腹部に吸い込まれるとドンという衝撃波がシルヴィス達の耳に飛び込んできた。


「理不尽なやつだな……」


 シルヴィスの言葉はアグナガイスへの同情が含まれている。腹部にめり込んだ拳のためにアグナガイスの体はくの字に曲がった。ヴェルティアはそのままアグナガイスの足首を掴むと一気に急降下した。


「でぇぇぇい!!」


 ヴェルティアはそのままの勢いでアグナガイスを地面に叩きつける。


 ドガァァァァァ!!


 アグナガイスが地面に叩きつけられた衝撃で、地面にクレーターが出来ていた。


「お、おのれぇ……」


 アグナガイスは立ち上がったが、明らかにダメージは深刻なものだ。しかし、天使長としてのプライドのためかヴェルティアを睨みつける気概があるのはさすがというものだろう。


「よ~し、どうやら勝負はついたみたいですね。うんうん!! さぁ化け物さん。もう帰ってください。私はシルヴィスとの勝負が控えているんです」

「何だと?」

「言っておきますけど、あなたじゃシルヴィスに勝てませんよ」

「何?」

「だって、今のシルヴィスは、もがっ」


 ヴェルティアの言葉が中断したのはシルヴィスがヴェルティアの口元を抑えたからである。


それ・・はバラすなよ)


 シルヴィスがヴェルティアの耳元で囁くと、ヴェルティアは少し頬を染めて頷いた。


「もう、分かりましたよ。しかし、いきなり淑女を後ろから抱きしめるなんて、シルヴィスって結構情熱的なんですね。いや~私のような美少女は本当に罪な存在ですね~」

「淑女? ……竜皇国ではお前が淑女なのか……」


 シルヴィスがディアーネ達を見るとため息をつきながら首を横に振るのが見えた。


「む、なんですか二人して!! 私は淑女ですよ!!」

「お前の行動はどう考えても淑女でないという結論に至ったぞ。そうだ……」


 シルヴィスはアグナガイスに視線を向けるとアグナガイスは怪訝な表情を浮かべている。


「なぁ、こいつはこの世界の基準で淑女にあたるのか?」

「は?」

「だから、こいつの言動は淑女に当たるのか?」

「何を言ってる?」

「はぁ、天使ごときに俺の言うことを理解することはできんか……すまなかったな。お前がアホだということを忘れていた」

「な」

「いや、いいんだ。お前を支えているのは天使という生まれ・・・だけだったな。そんなお前が淑女の基準なんて知るわけないよな」


 シルヴィスの言葉にアグナガイスの怒りは一気に上がった。アグナガイスとすれば自分が生きてきた中で今日ほど屈辱にまみれた日はないだろう。


「うぉぉぉぉぉ!!」


 アグナガイスは怒りに支配されたかのように突っ込んできた。もはや、足裁きも何もあったものではない。シルヴィスとの戦い、切り札の使用による魔力の減少、ヴェルティアから受けた深刻なダメージともはや戦える状況にない。


 アグナガイスの斬撃はもはや剣術の枠に入れて良いものではない。ただ棒をふりまわしているだけである。

 シルヴィスは振り下ろされたアグナガイスの剣を虎の爪カランシャで受け止めるのと同時に、ヴェルティアの凄まじい速度で放たれた蹴りが腹部から鳩尾へ、そして胸骨を砕きながら、アグナガイスの顎を蹴り砕いた。


 アグナガイスは宙を舞い引力に引かれてそのまま落ちる。


「かわいそうに……」

「ああ、同情するわ……」


 ディアーネとユリの心からの同情の声が周囲に響いた。

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