第10話 決別③

「まぁ、流石に気づくよな」


 ギエルはラフィーヌに皮肉気に返答する。


「お察しの通り、俺はシルヴィスだ。今のこいつは俺が操作している」

「操作……ですって?」


 ラフィーヌの声に明らかな嫌悪感が含まれた。


「お前もやっているだろう。そんなに嫌がるなよ。それとも同族嫌悪というやつか?」

「なんですって!!」

「俺は術で、お前は権力で人を操る。何が違う?」

「私はお前のように意思に反したことはしない!! 無理矢理人を縛り付けるようなことはしたことはないわ!!」

「無自覚なのか、無知なのか……それとも虚勢か?」

「な……」

「お前の聖女然とした態度は演出だ」


 シルヴィスの断言にラフィーヌは口をつぐんだ。


「なぜなら、そちらの方が都合が良いからな。馬鹿な民衆を操るには、慈愛に満ちたお優しい皇女という印象が最も都合が良い。本性は真逆なのにな」

「言わせておけば……」

「俺は反論を封じていない。いつでもどのような反論でもすれば良いだろう」

「お前のような卑怯者が何を言う」

「俺が祝福ギフトとやらを持っていなかったのは俺が拒否したからだ」

「え?」


 脈絡のないシルヴィスの言葉に、ラフィーヌは困惑の声を発した。


 シルヴィスとすればラフィーヌと交渉するのが目的ではない。交渉の目的は何らかの要望を相手に提示して、自分の主張を通す事だ。

 今のシルヴィスにすればラフィーヌに対して要望なぞ全くないので、交渉という意識は皆無なのだ。

 あるとすればラフィーヌを混乱させようという意識ぐらいであった。


「お前が俺を殺そうとしたのは、祝福ギフトを持ってなかったからだ。思うに異世界から召喚を行うというのは神が関わっているのだろう? その神が失敗した証拠である俺を生かしておくことがマズイとお前は考えたわけだ。……そうか、お前ら皇室の権力の源泉は『神』との関わりか」


 シルヴィスの断言にラフィーヌは反論できない。シルヴィスの言葉は当たらずとも遠からずというものであり、全てを否定することは出来ないし、否定できない所を放置しては全体的にシルヴィス有利の流れを絶つことは出来ないのだ。


「ほう、反論はナシか。神は絶対に間違えないと宣伝でもしてたのか? それが徒になったな」


 シルヴィスの嘲る声が限りなくラフィーヌの癪に障るというものである。


「それで……あなたの要望は何なの?」


 ラフィーヌは怒りを必死に抑えながらシルヴィスへと問いかける。


「ん? 要望? そんなものはない」

「何もない? 元の世界に戻せとか言わないの?」

それくらい・・・・・自力で何とかするさ。俺は自分の意思で行動する。邪魔をしたければ勝手にすればいい」

「なんですって?」

「俺より力の劣る神ごときから授けられた能力を、価値観の最上にお供えしているお前らが何をしようと何の問題もないからな」

「な……」

「お前らの力は所詮は借り物だ。借り物を自分の力と勘違いしているだけの惨めな道化師ピエロにすぎない。あんなガラクタを大事にしているなんてお前らの価値観は本当に理解不能だよ」


 シルヴィスの言葉にラフィーヌだけではなく他の者達も怒りの表情を浮かべていた。


「そうそう、ラフィーヌ俺はお前のようなやつが最も嫌いだよ。他者を見下し何でも自分の思い通りになると思い込んでいる小賢しいだけのやつがな」

「な」

「俺は敵対者に容赦するようなことはしない。ラフィーヌ、お前は俺の敵だ。この言葉を忘れるな」


 シルヴィスがそう言葉を結ぶと糸の切れた人形のようにギエルが崩れ落ちた。


廃棄物アウゼルめ……」


 ラフィーヌの憎悪のこもった声が小さく発せられた。

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