よんわ
よんわ
朝、といえるかも分からないまだ日が昇りきっていない時間。
「マコトさん。起きてください」
「うーん……」
俺の一日は寝起きが非常に悪いマコトさんを起こすところから始まる。
「今日の作戦指示の用意もありますよ」
なかなか起きないこの人を起こすのは毎日大変だ。
やっとの思いで起き上がってくれたマコトさんは、近くの水場で顔を洗いに行く。
「戻ってきたら皆を集めてくれ」
「はい」
俺の次の仕事は見張りの隊員や本部提出書類を纏めている雑用、まだ寝ぼけ眼の隊員を基地内に集めること。
次々と声をかけ、いつも通りの打ち合わせが始まる。
「よし、揃ったか」
「今日はどういった配置ですか?」
「まず、俺とリョウマは昨日と同じ、森から二手に分かれてぐるりと迂回する。ユウキとモモは線を見張ってくれ」
線とは、明確に決められた敵国とこちら側の境目、すなわち攻防が入れ替わる場所である。
「それから……」
マコトさんは一通り全員に指示を出した後、日が昇らない内に出発すると言った。
「リョウマ」
「はい」
着替えが終わり、待機しているとマコトさんがいつも通りやって来る。
「今日も生き残るぞ」
「……はい」
この掛け声も何度聞いたことだろうか。
拳を握り締め、俺はマコトさんの後ろを歩く。
――待ってるわね。
不意に昨日の少女の声が頭をよぎった。
行かないと決めたんだ。
もう言わないでくれ。
俺は雑念を振り払い、作戦実行の合図を待つ。
「……よし」
小さくマコトさんが手を挙げた。
俺は無言で森の中に駆け出す。
森の中は線がない。
敵軍がどこに潜んでいるか分からないまま、俺は息を殺して早足で歩く。
ごくりと唾を飲み、自分の心臓の音を聞く。
そろそろ外の線を超える頃だろうか。
地面に這いつくばって辺りを確認する。
銃を構え、いつでも撃てるように警戒を怠らない。
ほんの少しずつでも進む。探す。敵がいたら殺す。
それが俺の仕事。
――戦いに行くのがそんなに好きなの?
またあの子の声が頭に響く。
違う。やめてくれ。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
「……」
ふと耳にある音が届いた。
誰かの話し声だ。
俺の心臓は途端に早鐘を打つ。
この地区は俺達の隊しかいない。
隊の中で森での任務は俺とマコトさんだけ。
マコトさんは逆方向を探索している。
ここにいる筈がない。
敵だ。
鳴り止まない心臓を抑えるように胸を掴む。
今は戦わないことが最善。
人数不利だ。
自分という全ての音を消し、声が聞こえるところまでゆっくりと近付く。
「……が……だが、カナネ……敵軍……探そう」
カナネ?
その名を聞いた瞬間、俺の頭に彼女の笑顔がよぎる。
一日だけの君との逢瀬 夏季シオン @shion_na
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