さんわ
すっかり時間が経ってしまい、迷いながらも何とか基地に戻ることが出来た。
「リョウマ!突然いなくなったもんだからついに死んだかと思ったぞ」
「笑えないこと言うのやめてくださいよ。恥ずかしい話、道に迷ってしまっただけです」
俺はいつも通りの軽口を叩くマコトさんの肩を小突き、自分の場所に行く。
ここは簡易的な基地。俺達小隊の基地だ。
その中でも狭いが自分の場所を確保している。
「けどよく敵軍と遭遇しなかったな。何か収穫はあったのか?」
ふと頭にあの少女の事が過ぎったが、俺は「何にもありませんでした」と一言告げた。
「そうか……まあまた明日、同じような作戦で行くが、くれぐれも迷わないようにな。一刻も早く俺達は敵軍基地を見つけなければならないんだ」
不意に真面目な表情で語るマコトさんから何となく後ろめたくなってしまい、目を逸らす。
敵も味方も探り合いだ。
どちらが先に拠点を見つけるかで戦況は大きく変わる。
「……すみません」
やっぱり、明日あの場所に向かうのはやめよう。
命懸けで戦っているんだ。
俺だけが逃げてどうする。
それに、もう一度あそこに行けるとは限らない。
「……もう寝ます。明日もまた、生き残りましょう」
「そうだな、迷子のリョウマちゃん」
「……やめてください」
いたずらっ子のように笑うマコトさんをそっと尻目に、俺はあの少女の笑顔と寂しげな横顔を思い出していた。
――待ってるわね。
耳に残る澄んだ声が、あの子を思い出させる。
行けない。
忘れないと。
二度と会うことも、話すこともない。
そんなたった一人のお嬢様じゃないか。
――退屈なの。
知らない。
俺達が退屈と平和を何よりも望んでいるんだ。
けれど、あの子はあそこにいつからいるんだ?
誰もいないのか?
あんな森の奥、誰とも過ごすことなくずっと一人なのか?
そんな考えが浮かんではぎゅっと目を瞑り、振り払った。
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