第3話 火野春幸
VR技術を応用したオンラインゲーム《ブレイブソウル・オンライン》。
大元となったゲームは、似た名称の《ブレイブ&ソウル》と呼ばれていたゲームで、《BSO》はそれにフルダイブ技術を使い、完全なる仮想世界にプレイヤー自身を形成し、冒険を楽しんでもらおうという趣旨で開発されたものだった。
そのフルダイブには欠かせないパーツ……それはフルダイブ専用のマシーンである。
当初、複数の工学科大学の研究室が共同で開発を進めており、《BSO》の開発運営を担っている企業【エルダーテイルズ】の協力もあって、フルダイブ専用マシーン『フォトンギア』……通称『PG』が誕生した。
後頭部から両耳を覆う形のヘッドギア型の端末になっており、最新式のバッテリーにより充電無しでも長時間の稼働を可能にした他、無線LANによる接続も当然できるため、通信可能エリアならばどこでもフルダイブ可能という代物だ。
発売当初は、生産数も限られていたため、初回ロットで3万台ほどしか世に出ておらず、それを買うために優先予約チケットをめぐり、トラブルも絶えなかった。
もう5年もたった今では、生産ラインも安定してきたことにより、その様な混雑は見られなくなってきた。
「ふぅ……新たな【神将】か……すごいなぁ、ミカヅキさん」
一人暮らしのワンルーム。
狭くも感じる部屋だが、一人暮らしにはちょうどいいくらいの広さ。
対して物も置いてなく、置かれている物といえば、冷蔵庫やベッド、テレビ、パソコンやそれを置く机などが置かれているだけ……あとは漫画本やゲーム雑誌が乱雑に置かれてるくらいの物か……。
そんな窮屈そうな部屋に一人、気だるそうにパソコン画面を眺める青年。
この部屋の主、
25歳独身……彼女いない歴=年齢……ついでに童貞は、あるネットニュースを眺めていた。
ーーーー【BSOに新たな神将誕生!】
そのタイトルで掲載されていた記事。
新たな《神将》が誕生して、早2週間。
《ブレイブソウル・オンライン》……通称BSO内では、未だに新たなる《神将》の称号を得たプレイヤー【拳皇ミカヅキ】の話題で持ちきりだった。
「神将……か」
【神将襲名御前死合】
そんな堅苦しい名前が付けられたこのイベントは、BSOが正式稼働してから約一年後に開催され始めたイベントで、今では年1で開催されているイベントである。
BSOのゲーム内容は至ってシンプル。
PvP推奨……つまり、対人戦闘を推奨する超がつくほどのバトルジャンキーゲーム。
無論、ゲームの根幹には、今までのRPG要素も取り入れているため、NPCからのクエストや、プレイヤーたちからのクエストを受け、その場所へ赴き、凶悪なモンスターを狩って、素材やアイテムを手に入れる。
そして成功報酬を受け取り、自らのレベルを高めていく定番のゲーム内容。
しかし、その根幹とは裏腹に、人と人とが戦う姿というのは、多くの者を熱狂させ、注目を集める物。
それは、人という種が本能的に闘争心という物を抱えて生きているからである……と考えた訳だ。
人の歴史は戦いの歴史。
幾度となく小競り合い、紛争、対立、大戦が繰り返され、国が興っては消えるという流れを繰り返してきた……それが人の歴史。
それは、人という種の根幹には『闘争』という本能が必ず存在するからだ。
故に【エルダーテイルズ】の開発者たちは、人と人とが本能のまま戦い、頂点にまで駆け上がるためのエンターテインメント性を取り入れた訳だ。
「人の闘争心を刺激して、なんになるのかねぇ……」
PCの画面を見ながら、春幸は呟く。
人と人との闘争……その身を鍛え上げ、相手をノックアウトさせるべく、技術と肉体を強化していく。
そんな物は別に仮想世界に限っての話ではない……現実世界にだって、そう言った催しはあるではないか……。
主に大晦日、K-1ファイター達が一堂に介して行われるバトルフェスティバル。
それ以外にも、ボクシングの各階級ごとに行われる防衛戦やらデビュー戦、テレビをつけてると、時々番組合間を縫うようにCMが入る。
あれも似た様な物ではないのかと思う……。
しかし、春幸にはどうしてそれに人々が熱狂してしまうのかが、あまりわからなかった。
たしかに競い合うからこそ『競技』と呼ばれる……だが、K-1やボクシングの試合を見てまず思うこと……。
ーーーーメチャクチャ痛そう。
安全を考慮して、グローブを装着していると言っても、膝や蹴りが入って、受けた側の人間が悶絶しながらリングに崩れ落ちる様を見て、熱狂する人々の横で、自分は目を閉じたり、晒したり……。
(人をぶん殴って倒れてる所を見るのはなぁ……)
別に競技をやめてほしいと思っているわけではない……アレはアレで立派なスポーツであり、古くから続く伝統の様な物なのだから。
しかし、いざリアルで自分の目の前で行われるのを目の当たりにすると、すぐに冷めてしまうのだ。
(ミカヅキさんの試合は一応見たけど、エグかったなぁ……)
対戦相手のザンザスもミカヅキも、同じ【闘士】のクラスを持つ好戦的な二人。
その二人の戦いなのだから、真正面からの殴り合いになるのは目に見えていた。
そして、たしかにドワーフは単騎での交戦能力を優れてはいるが、相手は狼牙族のミカヅキ。
スピードとパワー、単騎での戦闘能力は明らかにドワーフよりも上であり、ミカヅキの戦闘スタイルと噛み合っていた。
今回の御前死合をやる前から、ある程度の結果は分かっていたことなのだろう……。
「それでも、一番になりたい……のかな……」
どうして二人があそこまで戦えたのか……それは、どうしても【神将】の称号が……最強であることの称号が、二人にはどうしても欲しい物だったのだろう。
しかし、春幸にはそこまでの熱が持てなかった……。
自分は、少し冷めた部分がある……と言うのは、なんとなくわかっている。
子供の頃から、何かにつけて一番になりたい……なんて思ったことは無い。
勉強も、部活も、恋愛の面でも……。
勉強はまぁ、出来た方……だと思う。まぁ、元々そこまで勉強は好きな方ではなかったので、自分の中では頑張ってやった方だと思うが、それでもまぁ、中の上か中の中くらいの学力しかなかっただろう。
部活は小さい頃から野球一筋。
むしろ運動音痴で、不器用で、センスのカケラも全くなかった故に、野球しか出来なかったのだが……。
個人競技と違い、野球は団体競技……誰か個人が飛び抜けて優れていたとしても、それで勝てる訳では無いし、一緒にプレーする面々と折り合いが悪ければ、プレーそのものがそもそも悪くなるし……。
恋愛面に関しては……先にも言ったが、年齢=彼女いない歴の自分。
そうなってくると、そもそもどうやって女性と付き合うのかが分からなくなる……。
漫画や小説に出てくるヒロインのような素敵な女性や可愛い美少女と付き合えればなぁ〜……と、オタク感全開で思ったりもするが、そんな状況、どうやって作れってんだ……。
「はぁ……」
意味もなくため息が出る。
別に、自分の人生が最悪な物……とまではいかない。
高校も無事卒業できた……その後の進路で、専門学校に行ったが、勉強についていけずに一年もせずに中退。
その後、借りていた奨学金を返さなくてはならなくなり、当時バイトをしていた居酒屋にそのまま就職したはいいものの、その職場がまぁ……なんというか、いわゆるブラック企業という所だった。
昼から深夜までの労働で1時間あるか無いかの休憩。
酒の入った客の応対、当然荒れる人もいるし、暴言を吐かれたり……また、飲み過ぎでその場で吐かれたりした場合の処理や、片付け……とにかく、そこの仕事を5年くらい頑張って、奨学金を返し終えて、居酒屋の仕事を辞めた。
それからと言うものの……自分には、特にやりたいことはなかった。
何かをしたい、何かになりたい、こんな夢を持っていて、その夢を叶えるために頑張りたい……とか、そんな物は微塵も思い付かなかった。
だから、現在では少し興味のあった本屋でのバイトをしているわけだが、特に何かをしたいとは今でも感じない。
その事が、自分だけでなく親や兄弟にも心配されている。
「正社員で雇ってくれる所かぁ……俺みたいなのが入れる会社あんのかな……?」
春幸も25歳。
昔ならば、いくらでも頑張ろうと思っていたが、今ではそんな気持ちにすらあんまりならない。
それに、今まで頑張ってこなかった勉強……それによる進路選択の減少が、ここに来て猛威を振るってのも事実。
大した資格を持ってるわけではない……最終学歴も専門学校中退だ。
一応高卒ではあるが、大企業や中小企業の多くは、大卒か短大卒……それでこそ、専門学校卒の人材を多く望んでいるわけで、その誰にも当てはまらない自分が進める進路とは……?
「九州の田舎で、いい就職先ねぇ……」
九州は宮崎。そこで生まれ、そこで育った。
宮崎はたしかにいい所だ……自然豊かで空気もそれなりに良い……都会の様に人で溢れてたりしないため、自分自身は過ごしやすいと考えてはいる。
しかし、なにぶん田舎色の強い場所ではあるため、遊ぶ場所はないし、目新しい物も何もない……あるとすれば、パチンコ屋が至る所に建てられているため、そこに通い詰めるギャンブラーで栄えているくらいな物か……。
「はぁ……俺は一体、何がしたいのかな……」
自分が一番したいことはなんだ……?
自分の進むべき道は……?
これからの人生、どう進んだらいいのかなんて、自分はもちろん誰もわからない。
しかし、誰しもが言う……『真っ当な職に就いて、安心させてほしい』……と。
だが、どうすればその真っ当な職に就けるのかは教えてはくれないし、そもそも真っ当な職とは何なのかがわからない。
「はぁ……」
自分の人生、何が楽しくて、何が面白いのか……そんな感情が出てこない事にも落胆する。
別に貧しいと言うわけではない。
バイトだってちゃんと行っている……貯金もしてる……酒は飲めるが飲兵衛じゃない……タバコも吸わない……ギャンブルも一切しない。
基本的にインドアなため、夜の街に出向いたりはしないが、交友関係などに亀裂はない……と思う。
しかし、周りはどんどん先に進んでいる様に感じる。
自分と同い年の知り合いは、既に結婚して、定職に就いて、子供までいる。
時折見かけるスーツ姿は着慣れた様に感じるし、ぶっちゃけ似合っていた。
その他にも、既に県外に出て、新しいことを始めたり、そこで出会った人たちと一緒に何かをしている様をSNSなどでよく見かける。
そういうのを見てると、途端に自分がみすぼらしく感じてしまうのだ……自分の姿は、どこにでもありそうな安そうな服を身につけて、免許は持っているが、未だに自転車と原付を場合によって乗り換えるだけ。
バイトには積極的に入ってはいるものの、定職に就いている人たちの給料と比較すれば、微々たる給料しかもらっていないし……。
立ち止まってしまったのは、たしかに自分だ。
しかし、進み方もわからない……そして、その道が正しいのかもわからない……そんな現状が、どうしようもなく怖いのだ。
「……あーー……すっげぇ、気分下がる」
ネガティブな思考が頭の中を順繰りに巡る。
春幸はそんな思考を投げ出して、改めてPC画面に視線を戻した。
「【神将】……それを取れば、俺も変われるのかな……?」
《BSO》内における最強の称号。
それを獲得できれば、自分の何かが変わるのだろうか……?
「って、なにマジになってんだ……? ゲームで一番になったって、現実じゃ何の意味もないじゃんか……」
せめて、ゲームのステータスが、現実に利用可能ならなぁー……。
そんな風に思った事もあったが、現実はそんな生温い事に対して、奇跡など起こしてはくれない。
「……ま、いいや、今日はバイトもないし……明日は遅番だし……今日はなんのクエストやろうかなぁ……」
ベッドの枕元に置いてある機器……フルダイブマシーン【フォトンギア】を見つめる春幸。
現時刻は昼過ぎの午後3時。
今日1日は予定が全くない……ボッチライフを送っている春幸にはいつもの日常である。
暇な日は大抵ゲームをしてるか、漫画や小説を読んでるか、何年か前から趣味で書いてる二次創作の小説を書いているか……そのどれか。
今日はゲームをしよう……そう思ってベッドのほうへと向かおうとした時だった。
テーブルの上に置いてあったスマホに着信が入る。
今日は誰とも会う予定はないし、そんなつもりもなかった……故に誰からだろうと思いながら、春幸はスマホの画面を確認した。
「うぇ……」
思わず出た言葉。
おそらく今の自分は、とんでもなく嫌そうな顔をしているのだろうと思う。
まぁ、そうなる相手からの着信だったのだから仕方がないが……。
スマホ画面に表示されていた相手の名前欄には『千秋兄』と表示されていた。
「……出なきゃダメだよなぁ…………」
全く出る気にならないが、放っておくと何度でも着信を入れてくる相手なので、観念して応対する。
「……もしもし」
『おう、春幸っ! 元気してるかぁ? ちょっとお前に頼みたいことがあるんだがいいか?
どうせ暇してるんだしいいだろ? あのなーーー』
「ちょっとストップ! いきなり電話してきてなんだよ急に……?」
電話の主は春幸の5歳上の兄・
火野家の四人兄妹の長男で、今は東京の方で暮らしている。
その正体は、株式会社エルダーテイルズの技術部門の最高顧問という役職を得ているいわゆるエリート街道を歩むエンジニアというわけだ。
当然、5年前に稼働した《BSO》の開発にも関わっており、それを行うための専用マシーンである《フォトンギア》の製作にも関わっていた人物。
そんな人物からの電話を取るや否や、とんでもない速さでこちらに用件を言ってくる。
昔から早口口調で、こちらの事などお構いなしに話を進めていくのが千秋という人物なのだ。
『なんだよ、俺はこれでも忙しいんだよ』
「だったら暇な時に連絡すればいいだろ……退社した後とかでも」
『そいつは無理。今日はキャバの女の子たちとパーティーする予定だから……』
「あっそ……」
平気で“キャバの女の子”という単語を言える辺り、相当遊び慣れているんだろう……。
垢抜けどころの話ではなさそうだ……。
まぁ、昔から女遊びのひどい兄ではあったが……。
『んで、用件だが……お前、今日はダイブするだろう?』
「ん? うんまぁ……それで?」
『お前に仕事を頼みたい。お前ならできる簡単な仕事だ』
「またかよ……先週もしたじゃんか」
用件は一つ。
仕事の斡旋だ。
それも、ゲーム関連の仕事。
それも一度や二度ではない……春幸がゲームを始めてから2、3ヶ月が経過したあたりから、突然連絡があり、それからよく仕事を回される様になった。
突然のことで驚き、最初の方は躊躇したものの、家族である兄の頼みなら……と思い、安請け合いしてやってみたが、それが今では馬車馬の様に仕事を斡旋される始末だ。
『こんな業界だ、仕事がない日なんてのはないんだよ。
報酬はもちろん払う……頼めるか?』
「ちなみに聞くけど、仕事の内容は?」
『“いつもの”だよ。お前にしか頼めない』
「……はぁ……会社にテストダイバーとかいるだろ、普通……」
『あいにく出払っててな。そうでもなければお前に仕事を回すわけないだろう……』
「えぇ……ちなみに相手は?」
『詳細は、お前のPCにデータを添付して送っておいた。
それを確認してくれ。できれば今週末までには、結果報告を出してほしんだが……出来るだろう?』
「今週末って……今日が金曜日だから……」
『今日入れて3日だな』
「マジで言ってんの? 今日はバイト休みだからいいけど、土日はバイト入ってんだけど」
『なら休みにすりゃあいいじゃんかよ。どうせバイトだろう?
俺からの仕事の方が給料的にはいいはずぞ?』
「そう言うわけにはいかねぇだろ……!!
いい加減、そういう自分の感情とか事情で人をかき回すのやめろよ……!」
『……はぁ、まだそんな事言ってんのかお前は……。
時間やチャンスはみな平等だ……その中で掴みたい物があるなら是が非でも掴みに行くしかない……。
俺はそうし続けているだけ……だから今の俺がある』
「兄貴はそれでいいかもしれないけど、俺は違う……」
『そんな弱気だから、お前は未だに成長出来てねぇんだろうが。
いつまでもバイトだけで生計なんて経たねぇだろ……母さんからいっつも電話がかかって来んだよ』
「……それは…………」
たしかに、兄である千秋は人一倍の努力家であった。
家はそこまで裕福とは言えない家で、バイトを何個も掛け持ちし、寝る間を惜しんで勉強と仕事を両立。
自分の稼いだお金と奨学金で関西の大学へ行き、そこで学んだネット関連の知識を武器に、同人のブラウザゲームを開発して、限定配信をしたところ、それが思いの外人気を博し、いま現在所属している株式会社エルダーテイルズの営業企画部の人の目に留まったらしい。
その後も技術部門に配属され、今では大人気ゲームである《ブレイブソウル・オンライン》を作り上げたのだ。
そんな千秋は、言ってみれば『成功者』といえる。
自分も同じ様になりたいならば、兄である千秋を参考にやることをやればいいだけの話だと思う。
でも、自分には兄のような才能もなければ、出来ると言う自信も、やれるという意欲もない。
今にして思うと、たとえ同じようにやっていたとしても、兄の様には出世できなかっただろうな……。
『とにかく、報告書は今週末までに頼むぞ。ちゃんと口座には振り込んだいたから、払った給料分は、働いてもらう……いいな』
「……わかった」
そう言ってすぐ、春幸は通話を切った。
いや、切らざるをえなかった……あのまま話していると、またしてもぐちぐちと小言を聴かなくてはならない……それに、あのまま話していると、途端に自分が惨めになってくる……そんな感じがするのだ。
周りはずっと走り続け、彼らなりに幸せの形を築き上げている。
それに比べて自分はどうだろう?
何をしたいのかも定まらない……何が好きなのか……何をすればいいのかすらも分からない。
何か特別なことができるわけでもない……運動だって平均以下だし、勉強だって得意ではない……じゃあ技術的なことで何かを極めているのかと言えば、そんな誇れる事など何もない……。
全てが平均……自分にできることは、大抵誰にでも出来ることだろう……。
そんな何も取り柄のない人間が、この先どうやって社会に出ていけるのだろうか……?
「はぁ……もう、マジで気分下がるわ……」
何もしてないのに、気分だけは下がり続ける。
兄も、親も、何かを始めろと言っては来る。
でもその“何か”が何なのかは教えてくれない……というより、親も兄もわからないのだろう。
世界は常に進化し続けて、止まることはまずない……だから、何にでも挑戦する事に意義を見出そうとする人が多い。
そして、そんな人間はこう言うだろう……。
やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい。
でも、自分はそんな言葉が嫌いだ。
そんな事を言う人間は、大抵自分自身が、取り返しのつかない失敗をしたことの無い人……やってしまった事がない人の無責任な言葉の様に聞こえてくるから。
どんな世界にも、制限が必ずある。
受験だってそうだし、会社に就職するのだってそうだ……。
そのボーダーラインに入るために、人は努力する。
その結果、ラインの制限に入り、成功するならば良し……だが、もし失敗したら……?
結局はそこまでの実力と言われるだけ……そして、努力が足りないと、人知れず言われるだけだ。
その人の頑張りや努力の評価など、この世は一切関係ない……結局は、それによってもたらされた結果が全てだから。
「誰もが納得する様な結果って……一体なんだよ……」
生きにくい。
何がダメなのか……わからないのが怖い。
どうすればいいのか……不透明な明日を歩くのが、何よりも辛い。
「…………仕事しよう」
春幸は兄から送られてきたデータを確認する。
専用のファイルに送られてきていたデータは《BSO》で発生した違法なデータ改竄の記録だった。
どうやら犯人は、その改竄したデータを使用して本来はあり得ない程のキャラ育成をして、それを使用・転売しているらしい。
だから……自分の仕事は……。
「面倒だけど、やりますか……」
春幸はベッドに横たわり、【フォトンギア】を頭部に装着する。
電源が入っているのを確認し、目を閉じる。
「
自身の発した言葉と同時に、意識が現実からかけ離れていくのを感じる。
それはさながら、眠りに落ちる様な感覚。
目の前が白くなっていき、やがて、見たことのない様な世界が広がっていた。
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