第4話 ブレイブソウル・オンライン Ⅰ
「いやぁ〜今回の御前死合は盛り上がったよなぁ〜!!!」
「あぁ、同じ【闘士】のクラス同士の戦いだから、やっぱインファイトになるよなぁ〜」
「にしてもミカヅキちゃんは美人だよなぁ〜……俺、告白してこようかなぁ〜」
「なぁに言ったんだよ、お前なんか相手にされるかよ。
ミカヅキちゃんにお似合いなのは、高レベルプレイヤーである俺くらいなもんだろう」
「あぁ? お前はレベルが高いだけで、対して強くねぇだろうが……。
あの娘が求めてんのは腕っ節よっ!」
「あぁん? 俺よりテメェの方が強ぇって言いたいのか?」
「あぁん? 潰されるのが目に見えてるってんだよ!」
ここは《BSO》内にある大都市【アサクサ】。
下町情緒溢れるかつての大都市である江戸の下町風景を参考に、この仮想世界の中に再現したもの。
町は基本的に同心円状の作りとなっており、その中心に位置する場所にあるのは、巨大な天守閣を持ち合わせた巨城である《大江戸城》。
これもかつての江戸城を参考に建造されたものだ。
そして、その周囲に広がるのは、MMOではお馴染みの武器屋やアイテムショップ、掘り出し物を扱う交換屋、そして、戦いの疲れを癒すための休憩の場として設けられた多く商店。
その内の一つが大の男たちが毎日毎日通い詰めては揉め事を起こす
「オラオラァッ! どっちが強えのか勝負しやがれっ!!」
「この間の負け分を取り返さなきゃなあっ!!」
「ほらほら張った張ったっ!! 赤と青っ、どっちに張るっ?!!」
酒場での揉め事は常。
この仮想世界でもアルコール類の飲み物を提供しているが、現実世界の様に酔うわけではなく、あくまで機械から脳に対して送られる信号でしかないが、そこは【フォトンギア】の技術によるものだろう。
【フォトンギア】は量子脳力学を基に開発されたマシーンであり、人間の脳を構成している脳細胞の中に含まれるマイクロチューブ……その管の中に入っている光子に対して接続する。
それは、人が物を見て、聞いて、感じたものを記憶するのと同じ過程を踏んでおり、見たいもの、聞きたい音という情報を与える。
故に、酒場にいる彼らは、実際に酔った感覚と同じものを体感しているのだ。
「ほらほらっ! さっさとデュエル申請しろってっ!」
「よしっ! 【槍術士】対【侍】のデュエルが始まるぞぉーー!!」
「賭けたいやつは賭けろおぉっ!!」
酒盛り中のプレイヤー達も集まり、
集まってきた野次馬プレイヤーが、人工的なボクシングリングの様に輪を作り、盾持ちのプレイヤーたちは、自分の盾を地面に突き刺してリングサイドを形成する。
その中央には、【槍術士】の職を持つ茶色い短髪の青年風プレイヤーと白髪ポニテのいかにも江戸時代の武士と言わんばかりの【侍】の職を持った中年プレイヤーが対峙していた。
【槍術士】
長物武器……いわゆるポールウェポンと呼ばれるものを扱う事に長けた職。
それも日本の和槍や薙刀から、西洋のランスや大鎌と言ったマイナーな武装を扱える。
剣の間合いの外から責められるため、一対一の対人戦だけでなく、モンスター戦においてもかなり重宝されるアタッカーの役割を担う。
その【槍術士】のプレイヤー『カナタ』。
種族は【ヒューマン】。
ヒューマンは《BSO》内における種族の中でも飛び抜けて優れている才能はない。
しかし、目立った欠点も無いため、あらゆる職をこなす器用な面を持つ多様性に優れた種族だ。
そして、対するプレイヤーも同じくヒューマン。
【侍】
日本の侍をイメージして作られた武器攻撃系職業。
他にも多く存在する武器攻撃系職業の中でも、最も敏捷性に優れ、一撃一撃の攻撃力はスタンダードな職である【剣術士】よりも高い職である。
使用する武器はもちろん日本刀。
大太刀から小太刀まで、長さは異なるが、刀と分類されるもの使用する。
その【侍】のプレイヤー『カズヒコ』はすでに戦闘体勢に入っており、自身の腰に差している日本刀の鍔を弾き、鯉口を切ろうとしている。
「おいおい短気はいけねぇなぁ〜おっさん」
「……なんだ、降参するなら今のうちだぞ、小僧」
互いに挑発しあって様子を伺う。
青年プレイヤー『カナタ』の方は、全身を軽鎧で守っており、持っている武器は【パルチザン】と呼ばれる洋槍……幅広の両刃の槍に、小さな突起を左右対称に取り付けられた長柄武器だ。
中年プレイヤーの『カズヒコ』の方は、淡い草色の着込襦袢に白黒の縞袴を着用した浪人風の出立ちに、左腰に刺されているのは艶やかな黒漆で拵えた打刀。
カナタは自分の武器を肩に担ぐ様に持って、顎を上げた状態で挑発するような体勢。
カズヒコは相変わらず抜刀体勢を維持したまま、いつでもその首を裂いてやるぞと言わんばかりに睨みを効かせている。
「おいっ! そろそろ賭け金の掲示を締め切るぞっ?! いいかぁー! そろそろ始まるぞぉー!」
「赤コーナーっ!! 【槍術士】カナタっ!!
最近順調にレベルを上げている若き槍使いっ!!
対して青コーナーっ!! 【侍】カズヒコっ!!
その腕は衰え知らずっ! 歴戦プレイヤーの一人だっ!!」
リングを作っている野次馬プレイヤー達の中から一人机の上に立ち上がり、野外デュエルを取り仕切るプレイヤーの言葉に、次々とプレイヤーたちが賭け金を掲示していく。
やがてその賭け金掲示を締め切り、本格的にデュエルが始まる。
「ほら、どっちかがデュエル申請しろって」
「うーん、じゃあ、俺がやろうか? おっさんは動かなそうだし」
「はいよ。じゃあ、カナタが申請を出して、カズヒコが承諾な。
よしっ、設定はどうする? HP半減決着か、それともーーーー」
「「全損決着っ!!」」
デュエルの進行を務めていた野次馬プレイヤーの言葉に、カナタとカズヒコは過剰に反応する。
《BSO》内でのデュエルの方式は大きく分けて二パターン存在する。
【HP半減決着モード】と【HP全損決着モード】の二つだ。
多くの場合は全損モードでの決着が多いが、早期の解決が目的の場合や、ダンジョンでのアイテム争奪戦では、早々に決着をつけて折り合いをつけたいために、半減モードが使われたりする。
しかし、今回においてはどちらも急いでいるわけではないので、当然の如く全損モードを選択した。
「よっしゃ! 互いに回復などのアイテムは使用禁止っ!
己のスキルと特技のみで戦えっ! カウントダウン始まるぞっ!」
デュエル申請を行い、相手が承諾すると対峙した互いの相手との間にはホログラムの様に出現する数字が現れる。
その数字は『60』と表示されており、これはデュエル申請を承諾した時に60秒間は準備などの時間にあてがわれる様になっている。
その間に互いの装備を整えたり、立ち位置を確保したりする事で、デュエルに望もうとするわけだ。
野次馬プレイヤー達が今か今かとカウントを眺める。
そして、残り15秒になったその時、初めてカナタとカズヒコが互いに構え直した。
カナタは槍をクルリと回した後、左脚を引いて半身の状態になると、槍の穂先を下の方に向けた状態で屈んだ構えをとる。
左手はしっかりと槍の柄を握り、右手はそっと添えるだけ……。
対するカズヒコはゆっくりと刀を抜刀し、剣道の選手の様な綺麗なフォームの正眼の構えで迎え撃つ。
カウントダウンが10秒を切り、互いに緊張感が高まる。
5……4……3……2……1……
「「っ……!!」」
ーーーー《BATTLE START》
「ぬおおおっ!!!」
「てぇええやあっ!!!」
0になったと同時に、目の前からホログラムが消えてなくなる。
その瞬間、【槍術士】のカナタの方が先に動いた。
まるで猪突猛進の猪の様に、構えた槍を勢いそのままに突き出した。
対して【侍】のカズヒコはそれを迎え撃つ姿勢に入りながらこちらも刺突を繰り出す。
互いの刃が交錯し、刃と刃がぶつかり合った瞬間に火花が散った。
刀の刀身がパルチザンの穂先についていた突起に引っかかり、そのまま膠着する。
そのまま互いに鍔迫り合いとなり、間近で互いに睨みつける。
「俺の刺突を止めるとは……やるねぇおっさん……!」
「舐めるなよ小僧……! こちとらお前なんかと違って場数を踏んでるからなぁ。
最近調子に乗ってる生意気小僧なんぞ、もう見飽きてるってんだっ……!!」
「あぁんっ?! 上等だボケッ! てめぇみたいな
「あまり強い言葉を吐くな小僧……弱い犬ほどよく吠えるって言うぞッ!!!!」
互いに煽り文句を言いながら、槍を刀を突き、振り抜く。
金属同士のぶつかり合いで生じる甲高い音と火花。
どちらも歴とした実力者であるゆえに、その斬撃の速さ、鋭さは目を見張るものがある。
その光景が野次馬達をまたしても熱狂させる。
「いいぞいいぞっ! やれやれっ!」
「もっと切り込めっ! 槍の間合いを潜れっ!」
「外からじわじわ痛ぶるなっ! てめぇ男だろがっ!!」
もはや日常となっている喧騒。
酒場【千草】の中でも、それを遠目に見ながら楽しんでいる者たちも多い。
「おお、今のは惜しかったな」
「あの槍使いは最近名を上げて来てる奴なんだろ? ギルドはどっか入ってんのかね?」
「あぁ、あいつは【ラウンズ】のメンバーだよ」
「ラウンズっ?! それって、あの【Knight of Rounds】のことかっ?!」
《BSO》内にも、他のゲーム同様にプレイヤー達が集まり、一つの集団となる事で結成するギルドという存在がある。
そのほとんどは、血の気の多い戦闘狂たちの集まりで、主に『戦闘系ギルド』と呼称されている。
その中の一つである【Knight of Rounds】……通称【ラウンズ】や【KR】と呼称されており、その実力は《BSO》随一と言われている程。
槍術士であるカナタはそのメンバーであるため、レベルが高いのは必然だろう。
「でもカズヒコも戦闘系のギルドマスターだろ?」
「中規模ギルドだけどな。でもよくクエストとかに参加してるから、メンバーもそこそこ粒揃いなギルドだな」
「ええっと……【壬生狼組】だったか?」
「新撰組の異名だったっけ、それ」
「まぁ、本人はどっちかって言うと浪人みたいな見た目だけどな」
ギルドは大まかに分けて【戦闘系ギルド】【生産系ギルド】【探索系ギルド】の三つに分かれている。
【戦闘系ギルド】は先ほども言ったが、好戦的で血の気の多い者たちが集まり、日々バトルに明け暮れているギルド。
【生産系ギルド】はBSO内に存在するアイテムの売買や生産・流通を行なっているギルド。
中には、種族が用いる特技を使った特別なアイテムを生成しているため、そのギルドでしか売り買いできない代物をあったりする。
【探索系ギルド】はBSO内のクエスト及び、マップやアイテムの情報などを売り買いしているギルド。
マップの踏破によって新しく出現したモンスターやアイテム情報などを日夜記録し続けるのが仕事。
そして、その各三系統のギルドに人数による規模によって大・中・小と分かれている。
カナタの所属する【KR】は所属人数が数百名を超えているため、戦闘系の大規模ギルド。
カズヒコがギルドマスターを務める【壬生狼組】は所属人数が数十名程であるため、中規模にあてられるギルドとなる。
「ふふっ、男ってどうしてこうも強さに固執するのかねぇ〜」
周りが喧騒で盛り上がっている最中、《千草》の店内で一人大人しく酒を煽る人物がいた。
アッシュブルーの艶やかな短髪に、黒い短パンと深い青色をしたノースリーブのロングベストを纏う女性プレイヤー。
そして、その女性の姿にはさらなる特徴があった。
ピンッと立った獣耳と、細くて長い尻尾。
それは髪色と同じアッシュブルーの毛色をしており、両目の瞳がブルーに見えるためか、ロシアンブルーを彷彿とさせる見た目だった。
「なんだよラチカ。ここはそういう強さこそが勝ち組な世界だぜ?」
「それにしたって、みんなはしゃぎ過ぎでしょ?」
ラチカと呼ばれた女性プレイヤー。
その種族は【猫人族】。
【狼牙族】が犬耳と尻尾を持つ種族ならば、【猫人族】とは猫耳と尻尾を持つ種族だ。
種族の特徴としては、猫としての特徴が反映されており、俊敏性や身軽さ、感覚の鋭さなどを併せ持ち、また猫が夜行性の動物であるが故に、夜目まで効く。
【狼牙族】が持ち前の膂力を引き出すパワー&スタミナタイプの種族だとすると、【猫人族】は身軽さや鋭い感覚を駆使して戦うスピード&テクニックタイプの種族と言われている。
「それにしても珍しいな……ラチカがこんなところで一人酒なんてよ」
「今日は待ち合わせなのよ。これからまた仕事」
「今日も男か? 相変わらずだな」
「人を尻軽みたいに言うのやめてくれる? こっちはれっきとした仕事なんだから……」
「情報屋も大変だな」
「そう思うなら一杯奢ってよ♪」
「うーん、まぁ、いいか。この間の情報のおかげで、俺たちも欲しいもんは手に入ったしな」
そう言って、男性プレイヤーがラチカの隣にグラスを置いて、自分の飲んでいた酒を注ぐ。
ガラスに茶色い液体が注がれ、コマンド操作をすると、グラスの中に氷が現れた。
「ありがと♪」
「中々の掘り出し物なんだぜ、この酒」
「う〜ん、中々美味しいね、これ」
「だろ?」
自慢げに話す男性プレイヤーの話を聞きながら、ラチカはデュエルを行なっているカナタとカズヒコの方へと向き直る。
「うーん……カズヒコさんの方が上かな」
「そう思うか?」
「うん。カナタの坊ちゃんは、たしかに腕のいい槍使いではあるけど、まだまだ浅いからね〜」
ラチカの言葉を裏付けるように、デュエルの方に動きがあった。
互いに打ち合い、鍔迫り合っていた二人が、それぞれの特技を使い始めたからだ。
「【ミリオンレイン】ッ!!!」
「くっ?!」
カナタの放つ【槍術士】の特技。
高速で放つ槍による連続刺突技。
まるでその槍で雨を降らせているかの様な見た目の技。
これをカズヒコは真正面から受け、高速の連続刺突を必死に受け流し続ける。
「ぐっ……!」
「そんな受け方がいつまで保つかな?」
「黙れ小僧……!」
「そろそろ引退した方がいいんじゃねぇのかっ、ジジイっ!!」
カナタの猛攻は止まらず、着実にカズヒコを追い詰めていっている……しかし、どれも僅かに決定打とはならない。
「チッ、しぶてぇジジイだっ! とっとと死ねっ!!」
かなりの猛攻を加えたと思ったが、それでもカズヒコは未だにピンピンしている。
カナタは速攻でかたをつけるつもりで、一旦距離をとり、即座に前傾姿勢のまま構えをとる。
「っ…………」
それを見たカズヒコもまた、改めて構えをなおす。
先ほどは剣を体の前で構える『正眼の構え』だったが、今度は刀身を下に向けた状態で構える『下段の構え』で迎え撃つ。
「ふっ、とうとう観念しやがったか?」
「一々うるせぇなぁ、このガキは……」
「あん?」
静かに……だがしかし、さっきまでとは比べ物にならないほどの殺気を纏った目で、カナタを睨みつけるカズヒコ。
「ぅ……!」
「テメェごときに観念するわけねぇだろ……! 来るんなら、さっさと来てみろやっ!!」
「っ〜〜〜!! この、クソジジイィィ……!!」
押しているのは自分のはず……にも関わらず、カズヒコの戦意は衰えてない。
むしろ、先ほどの殺気に対して、一瞬だけ怯んでしまった自分に対して、怒りの感情が湧いてくる。
「そこまで言うならやってやるよっ!! ジジイィィィッ!!!!!」
カナタがさらに低姿勢の構えをとる。
槍を右手で強く握りしめて、左手は体の前に伸ばして地面を触る。
その姿は陸上競技の短距離走選手が行うクラウチングスタートのポーズの様である。
(一撃で決めてやるっ……!!!)
そう意気込んだカナタ。
次の瞬間、猛スピードでスタートダッシュを決めた。
「【ブリッツペネトレイター】ッ!!!!!」
カナタはスタートダッシュと同時に、右手に握る槍を突き出す。
【ブリッツペネトレイター】
突き抜ける電撃……と読めるその技名の如く、一直線でカズヒコの間合いを侵略し、槍の穂先は、確実にカズヒコの心臓部を抉る軌道に入っていた……しかし。
「ぬっ!」
「っ!?」
カナタの槍がカズヒコの体を貫こうとしたその一瞬、カズヒコは右足を引き、同時に刀を振り上げて刀身で槍の柄を滑らせる様に傾けた。
「【柳葉揺らし】……っ!」
【侍】の持つ特技の一つであり、防御技として使用される【柳葉揺らし】。
迫り来る相手の攻撃を、わずかな動きと刀身の角度調整によって、最小限の動きで攻撃を躱す特技。
それにより、カナタの放った渾身の一撃は、無惨にも空を斬った。
「ぐっ……!」
「言ったろ、小僧……!」
「ぅ……!」
「弱い犬ほどよく吠えるってなぁっ!!」
カナタの放った【ブリッツペネトレイター】の一撃は、カズヒコの【柳葉揺らし】に晒されてしまい、カズヒコの顔をスレスレに右横側へと抜けていく。
そして、カナタの体勢は右腕を突き出した状態のまま、その光景を目の当たりにする。
カズヒコが大きく体を捻った状態で構える。
両手で握った刀が、まるで甘い球を待ちわびるホームランバッターの様に威圧感を蓄えた姿さえ見させる。
「くっ……!」
「終わりだ……っ!!!」
大きく構えていた刀を、カズヒコを思いっきり振り抜いた。
「【修羅繊月】ッ!!!!」
限界まで近づいていたカナタの胴体を、袈裟斬りに一閃。
赤い繊月の様な斬撃波がカナタの胴体を直撃。
カナタはその放たれた斬撃波と共に吹き飛び、その後方にいた野次馬プレイヤーの頭上をも越えて、およそ10メートルほど吹き飛ばされた。
「ごっはあっ……!!」
カナタが吹き飛ばされた後、その軌道に後追いするかの様に赤い液体がこぼれ落ちる。
それは流血……正しく言えば《BSO》内のプレイヤーが流す流血に見立てたエフェクト。
吹き飛ばされたカナタの肉体にも大きな斬痕が残っており、そこから流血のエフェクトが大量に表示されていた。
そして、カナタの動きはそのまま停止し、肉体は消滅音と共に泡となって消えてしまった。
「か……勝ったぞおぉぉっ!! 勝ったのは、侍カズヒコだあぁぁぁっ!!!」
「「「うおおおおっ!!!」」」
デュエルの決着音も鳴り、今回の勝負はカズヒコに軍配が上がった。
カズヒコに賭けていた面々は大はしゃぎ。
カナタに賭けていた面々はその場で地団駄を踏み、賭け金を全て持っていかれた。
「よくやったぞカズヒコっ! もう一杯だうだ? 俺たちが奢るぜ?」
「うむ、ありがたく頂戴しよう!」
「よっしゃあっ!! 飲むぞ飲むぞぉ〜!!」
カズヒコを中心に、皆がまた《千草》の店内へと戻ってくる。
またしても騒がしいドンチャン騒ぎが始まった。
「やれやれ、また酒盛り? 元気だね〜」
「いいじゃねぇか! ラチカも混ざるか?」
「ごめん、私は仕事。そのあとでまだやってるなら、混ざろうかな」
「オッケー!! 何時間でも待ってやるさっ!!」
「はいはい……。ったく、一体何時間こっちに居座るつもりなのか……」
ここは仮想世界。
本来なら、現実世界でやる事などがあるだろうが……それは個人の自由であるし、現実世界のことまでこの世界に持ってくるのは野暮ってものだ。
ラチカはヒラヒラと手を振りながら、酒場を出る。
そして数十分歩き回り、辿り着いたのは一軒の宿屋。
街からは少し離れた場所にあるため、格安で泊まれるため、懐事情が厳しいプレイヤー達が多く愛用している。
その名も【荻元屋】である。
ラチカはそこに入り、受付を通さずにそのまま二階へと上がる。
よく見ると、廊下にへたり込んでいるプレイヤーやそのまま寝そべってるプレイヤーたちがいる。
全員顔を見ると赤く染まっていることから、おそらくは酔い潰れているのだろう。
こう言う安宿の所ではよく見る光景ではある。
「なんでこんな所に毎回呼び出すんだろうねぇ……」
悪態をつきながら、ラチカは宿屋の一番奥の部屋まで歩いて行く。
突き当たりにあるドアをノックして、中にいる人物を待つ。
「あ……御足労いただいてすみません」
「いいわよ別に……っていうか、もっといいところに泊まらないの?
お金がないってわけじゃないでしょうに……」
中から出て来たのは全身黒いフード付きのローブを纏ったプレイヤーだった。
かすかに見える表情はまだ垢抜けない顔に見え、黒いローブに反してフードから垣間見えた瞳は綺麗な銀色をしていた。
声色的には青年の様な声をしているが、見た目や腰の低い姿勢からはとても若者には見えない。
ラチカはそのまま部屋へと入り、ローブのプレイヤーと机を囲んで座る。
「お金がないわけじゃないですけど、ここの方が何かと便利なんで……変に目立たないですし」
「いやいや目立つわよ。あなたはもう高レベルプレイヤーじゃない」
「そうですけど、逆に高レベルプレイヤーがこんな安宿に泊まるなんて思わないでしょう?
それに不本意ながら、俺、敵が多いんですよ……ここでは……」
「まぁ、それに関しては私たちも申し訳ないと思ってるけどね……」
ラチカはフードのプレイヤーに「ごめんなさい」と謝り、フードのプレイヤーは「いえいえ、そんな……」と低い腰で応じる。
「さて、じゃあそろそろ仕事をお願いしようかな♪」
「……はい。気は乗らないですけど……」
「あはは……ごめんねぇ、私たちが対応できればいいんだけど」
「いえ、俺なんかで良ければ、手伝いますよ」
ラチカが仕事の話題を振ると、ローブのプレイヤーは被っていたフードを取った。
フードから出てきたのは、垢抜けない童顔の青年風のプレイヤー。
瞳の色と同じ銀色の長い髪に、ヒョコっと現れた獣耳。
狼牙族の犬耳とも、猫人族であるラチカが持ってる猫耳とも違う、大きくてふさふさな獣耳。
「う〜〜ん♪ やっぱり狐尾族ってかわいいね〜♪
わたしも別アバターで作ってみようかなぁ〜」
「あはは……き、恐縮です」
ラチカにかわいいと言われ、狐尾族の青年プレイヤーは恥ずかしそうに長い髪をいじる。
「それじゃあ、お仕事始めようか、『ハル』くん!」
「はい、よろしくお願いします。ラチカさん」
狐尾族の『ハル』。
それが、火野春幸の《BSO》内でのアバターであり、プレイヤーネーム。
《BSO》内での職業……同ゲーム内における犯罪行為の取締を行うサイバー犯罪取締役人である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます