第10話 ニートの絶叫

「しょっ、勝者、白組代表!!! 莫迦 市乃ばか しの!!!!!!」


審判が片腕を空に向けて大きく振り上げて、叫んだ。


あの後、俺が科学のお力であの女の子と地面との摩擦を限りなくゼロに近づけて転ばせ続けたら相手がギブして、俺が勝った。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!!やっっぱ天才は違うなぁ!!!!」


「物理学もできて物理攻撃もできるなんて!!!!!!!!!」


「最高だぜっ!!!!!!!!」


「我らの誇りっ!!!!!」



なんか観客席が湧いている。


……………やべぇ今更になって罪悪感がめっちゃ湧いてきた。

いえねぇ、いえねぇよ。


『どうやって勝ったんですか?』


『あぁ、ちょっくら摩擦をいじって、相手を転ばし続けました。』


とか言えねぇぇぇぇ!!!!!!!!!


俺は後悔の渦に巻かれながら、地面に座ったままの女の子を見る。

女の子の服は全身砂やら取ろやらで汚れている………。


やべぇよ、罪悪感に押しつぶされて死にそうだよ。

こんなのが妹にバレたら真面目に命の危機だよ。


I am going to die確定だよ………。


「……………。」


「あの、立てますか?」


俺は襲いかかる罪悪感を少しでも拭おうと、黙ったままの彼女に近寄って声をかけた。


「…………。」


返事はない。

地面に座ったまま俺のことをじーっと見つめている。


うぅ、恨んでるってことかな? お前なんかと話したくないってことかな?

彼女は相変わらず無言のままだが、俺の伸ばした手は取ってくれた。


「よいしょっ…。」


俺は彼女の手を引いて立たせる。


やっべ、ひきこもりニートに女の子を片手で支えるなんてできねぇってこと忘れてた!!!

死ぬ!! シヌゥ!! 俺の腕がもげるぅぅぅうううう!!!!


俺は死にそうに成りながら彼女をどうにか立たせて、罪滅ぼしに一言。


「俺の負けだよ…。」


そうつぶやいた。


…………マジで俺の負けだからさ、そうやって睨むのを止めてくれないか?


「…………バカ…。」


立ち上がってからも俺にがんを飛ばし続けた女の子は、一言つぶやくと逃げるように去っていった。


「バカって……たしかに俺の名字は莫迦だけど……。」


多分今回の場合そういう意味じゃないよな。

完全に罵倒の意味だよな………。


マジごめんな。

不正して勝ったこと恨んでるよな…。

この男転ばせやがってと思ってるよな…。


美人に睨まれるのってめっちゃ怖いんだね。

俺、今日で一つ学んだよお母さん。


みんなが終わりの式に向けて各々のすべきことをしようと動き出している。


俺はそんな光景を眺めて、


「………すぅーーーーー…」


思いっきり息を吸って、一言。


「俺のことを好きな女子はいないのかぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


世界を揺るがすほどの大声で絶叫した。


……………このあと校長室に呼ばれて、遅刻の件とあわせ3時間半も説教を食らった。



チクショーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る