第8話
昨夜からの雨が降り続く中、僕は速足で学校に向かった。
彼女の命令に従い、スマホをバックに忍ばせて。
普段なら、こんな雨の日は部屋にこもって絵を描くことが最も望ましいはずだった。
雨の持つ閉塞感が僕の心を暗鬱な気分にさせるからだ。
だけど今日に限ってはそんな閉塞感も、怠惰な心も芽生えなかった。
学校に向かう足取りがやけに軽かった。
駅で電車を待っていると突然スマホが鳴った。
その源はどこからだ、と一瞬判別に迷ったけどどう考えたって僕の鞄の中からだった。
言うまでもないと思うけど、イレギュラーな出来事だったからだ。
鞄の中からスマホを取り出し、画面に視線を滑らせた。
彼女からメールが届いていた。
駅のホームでは、僕と同様に学校に向かう高校生や遅い出勤のサラリーマンなどが群れを成しているが、いつも一様に何かに取り付かれたようにスマホに額をうずめていた。
だけどそれが現代社会の実体なんだと僕は解釈していた。
なので今、彼女からのメールをたどたどしく開き、メール機能を操作する僕もまた彼等らとは何ら変わらない現代社会の一風なんだと悟った。
彼女からのメールを見てやや頬が熱くなる。
「おっはよー(笑) 雨…やまなかったね…(泣) 残念だなー( 悲) 」
彼女の人となりがひしひしと感じる愛らしい言葉並びに思わず唇の端を上げて笑ってしまった。 普段、メールなんてしないからまた違った一面として何だか妙な新鮮味を感じる。
僕は文字入力に少し戸惑いながらもメールを返した。
「おはよう。そうだね」
何だか少し素っ気ないような気もしたが、不慣れ過ぎてこういう時なんて入力すればいいのか僕にはわからない…
あまつさえ、こんな単調な文でも数分を要してしまうのだからなんとも情けない…
方や彼女は、1分としない内にメールを返してきた。
きっと彼女も、僕の隣で早く小刻みに指を操りスマホをいじる女の子同様、お手のものなんだろう。
「今日雨だけどどうするの? 中庭には行かないんでしょ?」
バカにされないよう負けじと両手を使って入力する。
「うん。今日は教室で過ごすよ」
僕はいつも雨の日は教室で昼休みを過ごしていた。
不本意ではあったが…
「わかったよーん(笑) じゃあまた連絡するね(笑)」
送ってきたメールの文末に、なぜか分からないが see you later
という意味深な文字があった。
どうして英語なのか理解に悩むところではあるが、直訳するとまた後で会おうね、
ということなので図らずとも疑問は芽生える。
今日は中庭には行かないって言ったのにどこで会うつもりなんだろう…
だけど、まだるっこしいのも嫌なのでその事には一切触れず
「じゃあまた」 という極めて漠然とした言葉だけを返すにとどめた。
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