変化球ができない片思い男子

「なぁ楓どうしよ…俺、藤波ふじなみさんのこと好きだったんだけど…」

「これはどう応えるのが正解なんだ…?」


 周知の事実を朝から佐々木ささきは言った。

 彼の友人であるくすのきは顔をひきつらせている。


「なぁかえでどうすればいいと思う?」

「告白すれば?」

「簡単に言うなよ」

「じゃあ友達から始めてみるとか」

「簡単にできると思うなよ」

「…俺、本読みたいから席戻るぞ」


 楠が立ち上がると佐々木は引っ付く。


「かっこいい友達を見捨てるのかー」

「うん」

「即答…?もう少し悩んでもいいのよ?」

「悪いな俺は迷わない男だから」


 楠は満面の笑みで佐々木に言った。


「楓お前彼女いるだろ。その時どうだったんだよ」


 楠はあからさまに嫌そうな顔した。

 それもそのはず楠楓は恋人を超がつくほど溺愛している。

 周りに自慢していないが、楠は「俺だけが知っていればいい」という名の独占欲である。


「自分から告白したけど」

「そもそもお前とレベル違ったわ」


 佐々木と楠では恋愛レベルは天と地ほどの差がある。

 レベルの違いが分かったところで佐々木は藤波と友達になることを今の目標にした。


「藤波さん。俺とお付き合いを前提としたお友達になってください!」


 この人馬鹿なのかな?

 昼休みに藤波の元に行って声をかけたと思えばこれである。


「お付き合いは知らないけど、友達は全然良いよ」

「よろしくお願いします!!」


 こうして何も問題なく佐々木は藤波の友人という称号を得た。


 それからというもの佐々木は藤波とできる限り話したりとまともなアプローチをかけてきた。

 授業中も大人しく望遠鏡を使わずに藤波を5分おきに見て拝む程度になった。

 クラスの人間はでは佐々木がおかしくなったと口々に言うレベルでだ。

 残念イケメンがちょっと残念なイケメンになったのだ。


「藤波さんそれ手伝うよ」

「ありがとう佐々木くん」


 藤波が重たそうに持っていたノートを佐々木はひょいと軽そうに持つ。


「これどこに持っていけばいい?」

「職員室の鎌田かまだ先生のところまで」

「りょーかい」


 佐々木は何を話せば良いか分からず内心困っていた。


「あ、あの…」

「ん?」

「今日は天気が良いですね…」


 会話が下手くそである。

 何だ天気が良いですねって見れば分かる。

 今日は雲一つない青い空が広がっている。


「そうだねいい天気。明日も晴れると良いけど」


 ここで会話をつなげてくる藤波は優しさの塊である。

 佐々木しっかり感謝しとけよ。


「佐々木くん」

「は、はい!」


 大げさに肩を揺らす佐々木を見て藤波は笑う。


「佐々木くんにお礼言いたくてこの前は助けてくれてありがとう」

「い、いや俺助けれて無いよ…それにかっこ悪いところ見せたし」

「そうかな?私は嬉しかったよ?」

「へ?」

「私のために怒ってくれたんでしょう?」


 佐々木はその時無言で頷いた。

 声を出すと変なことを言いそうな気がして。


「藤波さんは俺のこと…その気持ち悪いとか変だとか思わないの?」


 佐々木は無意識に口にした。

 自分でも驚いている様子だ。

 もう取り消すことができないどうすればいいか分からず佐々木はあたふたする。


「そうだなぁ…私のこと何で好きなんだろうって変わってる人だなって思ってる」

「…藤波さんには素敵なところがたくさんあるから俺は藤波さんの優しいところに惹かれたんだよ」


 もう止まれないからか佐々木は顔をゆでだこと同じくらい赤くさせて言う。

 かっこいいことを言っても締まらないのは佐々木の惜しいところである。

 だが藤波はしばらく目を見開いて黙っている。


「…本当に私のこと好きなんだね」

「も、もちろん!」

「ありがとう…」


 この時佐々木は気づかなかった。

 藤波のいつもの笑顔が崩れて照れていたことに。








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