学習しない素人絵描き

添慎は、かれこれ10年以上『絵を描くこと』を趣味としている。

人一倍不器用なせいでさんざん回り道をしていたが、最近になってやっと自分なりのオリジナリティーや好きな絵柄が描写できるようになってきた。


しかし、もう一つ、壮大な壁が鎮座している。『デジタル画』だ。


どうしても違和感が生じてしまう。描いている途中には一切気が付かないが、完成品は驚くほど野暮ったい。均一な線が描けていないからか、絵柄がアナログ寄りで、デジタルとの相性が悪いからマッチしないのか。別の要因があるのだろうか。途方に暮れていた。自分だって、ツイッターやpixivでよく見かける素晴らしい絵師様のような、センスがある絵を描きたいのに。


色塗りやデザインが致命的になっていない。何も考えず、直感で選択しているせいで、同系色ばかり使ってしまったり、似たような加工がされている作品がずらずら量産されている。センスも、経験も、知識も壊滅的なのだ。


なんとかしなければ。添慎は重い腰を上げ、視覚的に要点がまとめられた分かりやすい参考書を購入した。しかし… ー本当に愚かだと思うがー 奴は絵を描き始めたら最後、参考書のことを一切合切忘れてしまう。全ての細胞が作品を仕上げることに注視してしまい、他のことが見えなくなる。


いやいや、これでは元も子もない!身体反応に逆らうために、メモを残したり、すぐ傍に本を配置するといった工夫を行った。すると、何とか本を手に取ることぐらいなら出来るようになった。小さすぎるが、確かな進歩だ。


……だが、またもや課題が押し寄せる。絵を描く前は理解できていたはずの理屈の要領が、一切掴めなくなってしまった。文字を何となく読むことはできるが、肝心の真意が殆ど頭に入ってこない。一体どうしたというのか……。半ば焦り、困惑しながらもイラストを完成させたが、やはり出来は微妙なまま。


デジタルで絵を描き始め五年は経つ。上手くなる兆しが見えてこないことに、添慎は半ば焦っている。絵を描き終えた後に打ちのめされる感覚を、もう数えきれないほど味わってきた。


素敵な絵が描きたい。暗中模索し続ける旅は、まだ始まったばかりだ。



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