第12話
フォルテくんに剣術指導してくれる人の所に来たぞ。ディアンくんとの決闘?そんなもん後回しじゃ。
やあやあ、久しぶり。すっかりお爺ちゃんになったね。え、その腕どうしたの?肘から先が片方失くなってるじゃん。へえ、魔物の大襲撃があったんだ。大変だね。
あれ、もしかして剣術指導は引退してる?してない。パワフルお爺ちゃんだ。
それじゃフォルテくん鍛えてあげてね。よろしく。
さて、シャルティちゃんとセレーナちゃんは魔力増大の鍛練を最初にやるよ。魔力量少なかったらお話になりませんからね。
やり方はシンプル。魔力枯渇するまで魔法を使いまくるのだ。筋肉鍛えるのとだいたい一緒。
シャルティちゃんは最大火力魔法をぶっぱなしてみよう。セレーナちゃんは強化魔法をかけては解除するのを繰り返し。
しかし、暇だな。見てるだけだし。この時間使って新しい魔法でも作ってみるか。
この前の風魔法と炎魔法の組み合わせはなかなか派手でよかったからな。次は何を組み合わせてみようかな?
あ、うってつけのがあるじゃん。開発するの放り投げちゃった飛行魔法。
よし、早速取り掛かるぞ。
※
平民街でも中心から外れた郊外。そこに建っている小屋が剣の師になってくれるかもしれない人物の家だという。
俺たちはその小屋の前に立っていた。
「どんな人なんだ?口が悪いとしか聞いてないけど」
「会ってみればわかりますよ」
アイリスはそう言って小屋の扉をノックする。しばらくすると、中から高齢の男性が顔を出した。
背丈はシャルティと同じくらいだが、がっしりとした体格だ。そして、白髪を後ろで纏めている。
「お久しぶりです、グランさん」
「お前さん、誰だ?」
「アイリスです。覚えてませんか?」
グランと呼ばれたお爺さんが少し目を開く。
「ああ。ああ!覚えているとも。変わらず美人だな、お前。変わらなさすぎだぞ」
「貴方はすっかりお爺さんですね。それに…」
「ん?ああ、この腕か。5年前にあった魔物のスタンピードでな。歳には勝てんかったわ」
グランさんの左腕は肘から先がなかった。それで剣の指導者は務まるのだろうか。
どうやらアイリスも同じことを考えていたようだ。
「…剣はまだ振れますか?」
「誰にモノ言ってんだ、クソガキ。現役だ」
「私は子供ではありませんよ。生まれてからもう40年になります」
「俺はその倍近く生きてる。お前なんかまだまだガキだ」
なるほど、口は悪そうだ。
というか、アイリスってもうそんなに生きているのか。エルフって不思議な種族だ。
「で、何の用だ?お前ほどの戦士が今更剣の修行がしたいわけじゃないんだろう?」
「ええ。実は彼を鍛えてあげてほしいのです。私は剣術の指導ができないので」
グランさんは、ほう、と初めてこちらを向いた。
「またえらく若いのを連れてきたな。お前、名前と歳は?」
「名前はフォルテ。歳は15…です」
「貴方から見て、彼はどうですか?」
「才能があるかは…わからねえな。まあ、なくても俺ならそれなりの剣士にはできるが」
「それなりでは困ります。彼は勇者なので」
「勇者、ねえ。魔王を討つってか?この小僧が?その頃には俺はこのボロ小屋じゃなく墓の下で寝てるだろうよ」
グランさんはニヤリと笑って続けた。
「まあ、いいだろう。鍛えてやる。来る者拒まず去る者追わずってな」
「よろしくお願いします、グランさん」
「フォルテだったか?俺のことは師匠と呼べ」
「わかりました、グラン師匠」
アイリスとシャルティたちが、魔法の練習をしてくる、と小屋を出ていった後、師匠から木でできた剣を渡された。
「今の実力を見る。まずは素振りを100回してみろ」
「はい!」
俺は剣を握り、振り始めた。
師匠はそれをジッと見ていた。そして、口を開く。
「急いで早く振らなくていい。キチンと丁寧に振れ」
「しっかり握れよ。それじゃ受けられた時に剣を落とすぞ」
「下半身もしっかり使え。腕だけで振るな」
「体力ねえな。もうバテたか?」
「疲れたからって喘ぐな。気色悪い」
「顔が悪い」
最後のは関係ないだろ!
そんなこんなで素振りはやり終えた。木剣とはいえ、しっかりと振ればかなり疲れるものだ。
肩で息をしている俺に師匠が近付いてきた。どんな評価を下されるのだろうか。
「お前、マトモに剣術教わったことないだろ」
「…はい」
「やっぱりな。冒険者特有の力任せの振りだ。大方、他の冒険者が戦ってる所を見て、何とか真似をしようとした、って所だろう」
「仰る通りです」
「まあよくある落とし穴だな」
師匠はため息をついた。
「才能がねえわけじゃねえが、そんなやり方で戦えるのはアイリスみたいな規格外だけだ」
「アイリスってそんなに…?」
「ああ。剣だけに絞って鍛練してりゃ今頃…そうだな…神話級とは言わんが伝説級の剣士になってただろうな」
「伝説級…」
「カッコつけたいのか飽き性なのか、得物をコロコロと変えていやがったからな、アイツ。おかげでどの武器でも一流の使い手止まりだ」
カッコつけたがりのアイリスは想像できない。きっと好奇心から色んな武器を触っていたんだろう。彼女のそれは、世界を見たいという理由でエルフの国から出てくるほど強い。
「よし、休憩は終わりだ。次は俺と模擬戦をしろ」
「模擬戦ですか…」
「あ?なんだその顔は?」
師匠はもう高齢だし、腕も片方失っている。
その状態の人と木剣とはいえ、剣を合わせるのは気が引けた。
「おい、何考えてるかわかるぞ。歳かこの腕のことだろ?」
「両方です」
「…よし、そんななめたこと考えてる小僧には仕置きをしてやらんとな」
師匠は青筋を浮かべながらニンマリと笑った。その笑顔は圧倒的な強者の自信を含んでおり、その雰囲気だけで俺は押し潰される感覚に陥った。体が重い。
シャルティ、セレーナ、アイリス。ごめん。今日で死ぬかも。
遠くに輝くシャルティの魔法と思われる火柱を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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