サウスレギア

第10話

 サウスレギア。王都より南にある大都市。高い塀に囲まれた中央街と、その周りに平民街という造りになっている。平民街は木製の柵と堀に囲われているのみ。安全性において、その差は顕著だ。

 と言っても、スラム化してるわけじゃない。中央街に住んでる住民は、平民街の人間が盾になってくれていることを強く自覚しているので、その分平民街に食料や医療品などを十分に供給している。王都の貧困層よりもよっぽど豊かな暮らしだ。中央街は肉壁を、平民街はマトモな暮らしを得られてるってわけ。Win-Winだね。

 ちなみに、この都市は魔物の肉を使った料理が有名だ。人の生存圏において、魔物の量と質はサウスレギアは何処よりも上だ。だからなのか、食べられる魔物の種類や部位の知識が豊富で毒抜き処理や調味料も日々研究されている。その『食』に対するこだわりと執着はなんなの?好きだよ、そういうの。

 ついでに言うと、ここで活動する冒険者や警備兵はかなり強い。王都の騎士団にも負けないだろう。魔物が強くて多いから自然とそうなるんだよな。


 さて、サウスレギアの説明も終わったし、まずは拠点を探さないとな。

 前に来たときに使ってた宿でもいいんだけど、あそこは3人以上で泊まれる部屋がない。つまり、俺かシャルティちゃんかセレーナちゃんがフォルテくんと同室ということになる。間違いがあっても困るし、男女で分けたいよね。


 え?中身が男なんだから俺がフォルテくんと同室?寝てる時におっぱい揉まれたらどうすんだよ。思春期真っ只中の少年を舐めるな。

 え?勇者なんだから部屋たくさん借りれるだろ?宿の人に迷惑なんだよ。金払えば何してもいいってわけじゃないぞ、バカタレ。


 というわけで、拠点にする宿を探しましょうか。









 馬車を2日走らせてようやく辿り着いた。ここがサウスレギアだ。

 アイリスの話では、この近辺では王都より強い魔物がたくさん出没するらしい。俺たちの修行の場としてはいい条件だ。


「早速ですが、拠点にする宿を探しましょう」

「宿か。アイリスは以前この街に来たことあるんだよな?その時使っていた所はダメなのか?」

「別にそこでもいいですが、中央街の宿です。ここでの活動を考えたら平民街にある3人部屋以上がある宿がいいと思いますよ」


 俺の質問にアイリスがそう答えた。前は中央街の宿を使っていたのか。

 あの強さだ。魔物を倒しまくって相当稼いでいたんだろう。


「それにしても、なんか嫌な感じよね。真ん中の街と周りの街で分けられてるなんて」


 唐突にシャルティがそう言った。


「初めてここに来た人はそう感じるのかもしれませんね。でも、中央街と平民街の人たちは上手くやっているんですよ」

「へえ、そうなの。まあ、何もトラブルがなければいいんだけど」

「ふふふ。シャルティさんのそういうサッパリしている所、私好きですよ」

「な、なによ、急に」


 シャルティが赤くなってそっぽを向いた。

 今度はセレーナがアイリスに質問した。


「ところで、平民街の宿にした方がいい理由って何ですか?」

「まず移動の時間です。魔法や剣術の練習ができるような場所は中央街には多くありません。魔物討伐も街の外なので、中央街に拠点を構えると、移動だけでかなり時間を取られます」

「なるほど。確かに鍛練や魔物討伐の後に中央街まで歩くのも気が滅入っちゃいますね」

「そういうことです」


 俺に剣術を教えてくれる人も平民街の住人ということか。アイリスが推すほどだから、弟子入り志願者が殺到して、中央街でも生活していけるくらいには稼げるだろうに。


「で、他の理由は?」

「…え?」

「まず、って言ったから他に理由があるんじゃないの?」


 シャルティの指摘にアイリスは目を逸らした。


「その…平民街の宿の料理は魔物を食材にしたものが多くて、すごく美味しいんですよ」


 料理目的なのが恥ずかしかったようだ。この人、意外とこういう可愛いところもあるんだよな。

 大丈夫、食い意地張ってるなんて誰も思わないよ。


「魔物料理…食べても大丈夫なんですか?」

「想像できないわね」

「私も最初はそう思っていました。ですが、ボア系の肉ともビーフとも違う、不思議な食感と味が絶品なんですよ。もちろん、食べても問題ない部位を使っていますし、有毒性を消す為の調理法や調味料なんかも開発されています。中央街でも食べられるのですが、やはり新鮮さと料理の種類は平民街の宿や料理屋の方が上です」


 すごい喋る、早口で。こういう所を見るのは新鮮だな。セレーナもシャルティもポカンとしている。

 しばらく魔物料理について語っていたアイリスは、俺たちの様子に気付いた。


「…失礼しました。魔物料理のような珍しいものになるとつい夢中になってしまって…悪い癖です」

「謝らなくていいよ。アイリスの好きなものが知れて、俺たちは嬉しいんだ」

「そうですか、ふふふ」


 アイリスの笑顔に釣られて、俺たちも笑った。


「さて、それじゃごはんの美味しい宿を探しに行きましょ。冒険者ギルドに行けば評判のいい所教えてくれるんじゃない?」


 シャルティの言葉に頷き、俺たちは冒険者ギルドを目指して歩きだした。



 しばらく歩くと冒険者ギルドに着いた。王都よりも質素な外観だが、中からは賑やかな声が聞こえている。


「よお僕ちゃん、冒険者ギルドになんか用か?」


 入り口のベンチに座っていた男が話しかけてきた。短く刈られた金髪に鍛えられた逞しい体が特徴的な男だった。腕なんてセレーナの腰周りくらいある。

 というか、ニヤニヤしてて嫌な感じのする男だな。


「俺たち、冒険者なんだ」

「へえ、依頼を見に来たってことか。ガキにこなせる依頼なんかねえけど?」

「いや、その前に拠点の宿を決めたいから、どこがいいかを知ってる人を探しに来たんだ」

「ハッ、かわいこちゃん3人も侍らせていい身分だ…な…」


 男の口調が急に歯切れの悪いものになった。驚いたように目を丸くして立ち上がっている。どうしたんだ?


「お前…ア、アイリスか…?」

「…私はアイリスですが?」


 アイリスの返答を聞いた男は愕然としている。彼女の知り合いなのか?

 一方、アイリスは人差し指をアゴに当てて小首を傾げていた。え、知り合いじゃないのか?

 どっちなんだよ…。

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