第6話

 以前は勇者もどきに脅されてた支局長が不憫だったから頼みを聞いてやった。多少なりとも恩もあったし。

 今回はそんなことは一切ない。面倒な頼み事なんかは一蹴してやってもいい。

 しかし、俺の目の前には不安そうにしながらも健気にお願いしている美少女が2人。あとついでに勇者の男が1人。こっちはどうでもいい。

 勇者フォルテ御一行様の頼み事というのは、魔物討伐に同行させてほしい、というものだった。




 美少女の!

 頼み事は!!

 断れないでしょうが!!!




 そんなこんなで渋々承諾。俺1人でやった方が絶対早く終わるんだけどね。依頼主さんごめんなさい。


 というか、往生際悪いけど、やっぱり俺じゃなくてもよくない?

 え?もう既にいくつか他の冒険者パーティと会ってみたって?じゃあ別にそいつらでも…あっ(察し)

 うん、まあ、そんな美少女2人も連れてたらそうなるわな。仕方ない。


 とはいえ、頻繁に足手まといを魔物討伐に連れていくのは御免だ。怪我されたら後味悪いし、討伐が遅れて魔物被害が大きくなる可能性もあるからな。ピクニックじゃねえんだぞ!

 まあ、ちょっと厳しくすれば、俺についていきたい、と言うことも少なくなるだろう。幸か不幸か、今回の依頼はいい感じの難易度の相手だ。

 俺の討伐に同行することがどういうことなのか、たっぷり思い知るがいいわ。



 ところで、スパルタドS女教師のアイリスちゃんって結構性癖に刺さると思うんだけど、これって俺だけだったりする?









「今から討伐しにいくのは、アシッドワイバーンです。亜龍とも呼ばれている種族ですね。非常に強力な酸を吐き出すのが特徴で、これを浴びると大変なことになります」


 前を行くアイリスさんが、こちらを見ることなくそう言った。山を登っているというのに、息はちっとも乱れていない。

 今回、俺たちは見学だけだろうから依頼の詳細は知らないし、アイリスさんに訊くこともなかった。直前ではあるが、獲物の情報をくれるということは、俺たちを戦いに参加させてくれるということだろうか?

 しかし、次の彼女の言葉に、俺たちは戦慄した。


「このターゲットと、3人だけで戦ってもらいます」

「…え?」

「…?アシッドワイバーンと3人だけで戦ってもらいます」

「聞こえてます」

「本気で言ってるんですか?」

「俺たちには荷が重いですよ」


 アイリスさんが小首を傾げる。可愛い。いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだけど。


「まずは皆さんの実力の把握と、単独行動する中型以上の魔物の倒し方を知ってもらおうかと」

「倒し方?」

「簡単に言えば、大人数で囲んで叩け、ということです」


 そして、アイリスさんはにこやかにこう続けた。


「ワイバーンくらいは簡単に倒せないと、魔王の首を狙うことはできませんよ」


 この時、確信させられた。俺たちに拒否権はない。


 それからしばらく歩くと、木が生えていない開けた場所に出た。いや、生えていないというのは語弊がある。全て薙ぎ倒されているのだ。

 その場所の中心には、黒い何かがいた。


「…あれがアシッドワイバーンか」

「想像よりデカいわね」

「た、倒せるでしょうか?」


 シャルティとセレーナの表情は緊張と不安でいっぱいだった。当然だ。俺だって剣を握る手が汗で湿っている。

 アイリスさんはそんな俺たちを見守ってくれている。が、若干笑っている気もする。まさかそういう趣味が…いや、考えるのはよそう。


「まず俺が突撃する。奴が飛び上がったら、シャルティが魔法で撃ち落としてくれ」

「わかったわ」

「セレーナは俺たちの支援だ。身体強化と魔力強化を頼む」

「任せてください」


 作戦は決まった。


「剛強なる肉体をの者に与えよ"フィジカルストレンジ"。の者を神聖なる魔で満たせ"マジカルパワーストレンジ"」


 体に力が宿った。俺は一気にワイバーンとの距離を縮めた。

 奴は顔だけこちらに向ける。そして、口を開いた。ブレスが来る!


「火炎のきゅうにて我が敵を討て"ファイアボール"!」


 シャルティの放った魔法がワイバーンの顔面へと放たれた。奴は、構うものか、と言わんばかりに酸のブレスを吐く。

 液体が蒸発する音と強烈な臭いが広がった。


「2発目すぐ来るわよ!」

「俺が止める!」


 あと1歩で間合いに入る距離だ。ワイバーンの首を狙い、剣を横薙ぎに振り切る。確実に致命傷を与えられたと思った。

 しかし、甘かった。俺は魔物の身体能力と野生で培われた勘を侮っていたんだ。

 ワイバーンは両翼を羽ばたかせながら後ろへ飛んだ。俺の剣は空を切る。

 次の瞬間には、俺は横に体を投げ出していた。頭で考えるよりも先に体が動いた。

 その行動は正解だったようだ。俺がついさっきまで立っていた場所は、異様な音と臭いを出しながら溶けている。ワイバーンのブレスだ。


「身体強化がなかったら死んでたな」

「フォルテ、一旦下がって!火炎のきゅうにて我が敵を討て"ファイアボール"!」


 シャルティの魔法をワイバーンは難なくかわした。俺はその間に少しワイバーンとの距離を取る。


 さて、どうするべきだろうか。

 今の俺では身体強化があったとしても、あのワイバーンに攻撃を当てられる気がしない。シャルティの魔法も簡単に避けられるか相殺されてしまう。セレーナは攻撃的なスキルに関しては論外だ。

 つまり、打つ手がない。


「アイリスさん!俺たちじゃやっぱり無理です!手を貸してください!」

「悔しいけどフォルテの言う通りね」

「ワイバーンってこんなに強いんですね」


 アイリスさんは倒木に腰を下ろしていた。


「余所見をすると危ないですよ」


 その言葉と共に、アイリスさんはワイバーンに指を向けた。

 見ると、奴はまさにブレスを吐こうとしているところだった。それも、先ほどより強力なものだ。


「火炎の障壁にて我が身を守りたまえ"ファイアウォール"!」


 シャルティが作った炎の壁が俺たちの前に現れた。

 それとほぼ同時にブレスが放たれる。それは未完成の炎の壁を貫通してしまった。

 そして、ブレスの先にいたのはセレーナだった。


「セレーナ、危ない!」

「ひっ…!」


 俺が動く間もなく、酸のブレスは、無情にもセレーナが立っていた場所に降り注いだ。

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