第5話

 食人ワームの生息域から王都までは安全な道が続く。ほとんど草原が広がってるだけだからな。

 魔物はいない。いるとしてもラビット系の草食魔獣か、それを餌にするウルフ系の肉食魔獣くらいだ。

 魔獣と魔物の違い?フィーリングだよ、フィーリング。


 で、フォルテだっけ?君たちはなんで王都目指してんの?

 ふむふむ、なるほど…って、お前も勇者なのかよ!そんなホイホイ勇者がいて堪るか!

 え、仲間は求めてない?美少女を2人も侍らせておいてよく言うわ!片方は顔に加えてめちゃくちゃスタイルいいし!

 というか、シャルティちゃん、マジでデカいっすね。年齢考えたらまだ成長するでしょ、それ。今の時点で俺よりデカいのに。すげえ。

 いや、俺が貧乳というわけではないぞ。ほら、エルフはスレンダーって相場が決まってるから。決まってるよな?


 まあ、いい。話を戻そう。王様に何をお願いするかだったな。

 魔王を倒すためのサポート?要するに、パトロンと師匠を探してるわけね。どっかのバカ貴族とは大違いで、至極マジメな勇者パーティじゃん。なかなか好感が持てる。

 自分に関係ないと変なストレスがなくていいね。路銀の工面とパワーアップ、是非頑張ってくれたまえ。影ながら応援しているよ、はっはっは。









「この辺りは魔物は出ません。安心してください。弱い魔獣はいますが、こちらから手を出さない限り大丈夫でしょう」


 歩きながらそう教えてくれたアイリスさんは、王都のギルドで活動している冒険者だそうだ。種族はエルフで、その美しさには同性の私ですら見惚れてしまう。


「ところで、皆さんはどうして王都へ?確かに仕事は多いですが、あの森を抜けられる実力があるなら、他の大きい街でもそこそこいい生活ができると思いますよ」

「ああ、それは国王様に会いたくて」

「国王様にですか。そう簡単に会える人ではありませんが」

「これが理由です」


 フォルテは革手袋を外した右手をアイリスさんに見せた。

 正直止めてほしい。彼女は私たちを助けてくれた恩人だ。だけど、むやみやたらに紋章を見せるのはトラブルを呼び込む。


「…勇者の紋章、ですか」

「はい。それで…」

「ちょっと、フォルテ。あまりそれを見せびらかさない方がいいって言ったでしょ」

「大丈夫だよ。アイリスさんはいい人そうだし」


 まだ会って数時間しか経ってないのに、彼女の何をわかったつもりでいるのか。絶対にあの見た目で判断している。綺麗な人だもんね!


「もっと強い仲間でも探しているんですか?それとも可愛い女の子メンバーを増やすのですか?英雄色を好む、とも言いますし」

「いやいや!俺はこの3人で旅するつもりですよ!ハーレムなんて考えたことも…」

「そうですか」


 アイリスさんの物言いに少し腹が立った。確かにフォルテにはがないとは言えないけど、まるで色ボケみたいな言い方しなくてもいいはず。

 私が口を開こうとした瞬間、アイリスと目が合った。まるで全てを見通すかのような眼差しだった。

 思わず言葉を飲み込んだ。私が文句を言うことを察知したとでも言うのだろうか。


 アイリスさんはしばらく私を見つめた後、フォルテに視線を戻した。感じていたプレッシャーは綺麗さっぱりと無くなった。


「まあ、信じましょう。それで、皆さんは何を望んでいるのですか?」

「魔王討伐のサポートをお願いしに行くんです」

「サポート?」

「ああ、えっと…」


 フォルテは言い淀んだ。簡単に言ってしまえば、お金をくれ、とお願いしに行くようなものだからだ。

 フォルテがそうしていると、今まで黙っていたセレーナが口を開いた。


「私たちには旅をする手段がないのです」

「手段…?ああ、なるほど。つまり、旅にかかる経費を国に負担して貰おうということですか」

「お金だけではありません。私とシャルティさんは魔法を。フォルテさんは剣術を鍛えたいんです」

「…魔王を倒す実力もまだない上に、それを身に付けるアテもない、と。前途多難ですね」


 アイリスさんは苦笑した。


「そういえば、アイリスさんはとても強い冒険者なんですよね?あの弓捌き、見事でした」


 フォルテが突然アイリスさんを褒め始めた。弓捌きって…ほとんど見えてなかったでしょ。私もだけど。

 しかし、だからこそ彼女が強い冒険者だということをなんとなく感じられる。


「それなりの強さはあると自負してます。あ、フォルテさんが仲間は集めてないと言っていましたが、一応言っておきます。勧誘は受けませんからね」

「わかってますよ。ついてきてくれたら心強いなとは思いましたけど」

「…フォルテ、鼻の下伸びてるわよ」

「え、嘘!?」

「嘘よ」


 私の小さな嘘に動揺するフォルテにみんなが笑った。アイリスさんもだ。

 それから私たちは王都までの道を楽しく歩いた。





 国王様との謁見も済ませ、私たちは冒険者ギルドへと立ち寄った。


「すみませーん」

「はい、ご依頼でしょうか?ご登録でしょうか?」

「登録をお願いします。あと、ギルド長さんに相談があるのですが、今から会えますか?」

「支局長にですか…失礼ですが、ご用件は?」


 私は言葉に詰まった。王都の冒険者ギルドのトップだ。そう簡単に会えるわけなかった。

 チラリとフォルテを見た。仕方ないな、というような顔をしている。

 フォルテが前に出て、受付の女性に小声で言った。


「実は俺勇者なんです。信じられないかもしれませんが」


 女性の目が見開かれた。


「またかよクソ」

「え?」


 今この人クソって言った?


「いえ、なんでも。支局長を呼びますのでしばらくお待ちください」

「あ、はい」


 女性が裏に引っ込んでからしばらくすると、大柄な男の人が小走りでやってきた。


「お待たせしました。私が当ギルドの支局長です」

「俺がフォルテで、一応勇者ってことになってます。こっちがシャルティとセレーナ。俺の仲間です」


 私とセレーナがペコリと頭を下げる。

 支局長はそれを何とも言えない目で見ていた。あの目はなんだろう?


「それで、冒険者ギルドに何の用なんです?強い冒険者を無理矢理旅のお供として連れていくおつもりで?」

「とんでもない。俺たちは仲間は求めてないです。ただ、魔王を倒す力を身に付けたいので、魔物討伐への同行を許してくれたり、鍛練を見てくれるような人を探しているんです」

「ほう」


 支局長は表情を緩め、腕を組んだ。


「それならば協力できそうです。討伐についていっても大丈夫そうな者に声をかけてみましょう。戦闘訓練をするのは冒険者ギルドの人間には少し厳しいですが」

「ありがとうございます!」

「ちなみに、どんな人たちが候補なんですか?」


 私はなんとなくした質問に、支局長は真面目に答えてくれた。

 同業者について全く知識の無い私たちには、聞いたことのない冒険者の名前ばかりだった。知らないだけでみんな凄い人たちなんだろう。

 しかし、最後に1人だけ知っている名前が支局長の口から出てきた。


「貴方たちが育つかはわからないが、強さだけならアイリスという女性を推します」

「「アイリスさん!?」」


 私たち3人の声が揃った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る