よく似た双子の異なる恋

無月弟(無月蒼)

双子の姉のカミングアウト

 ※最初にお断りしておきますが、この物語はフィクションです。

 主人公が双子であることと筆者が双子であることとは、一切何の関係もありません。


 ◇◆◇◆



 学校が終わって家に帰ったあたしは、自室のドアを開ける。

 部屋の中にあるのは二段ベッドと、二つ並んだ勉強机。そして向かって右側の机には、頬杖をついた女の子が座っていた。


「あれ、牡丹。風邪引いたんじゃなかったの?」

「ああ菜乃花、帰ったんだ。風邪って何のことよ?」

「え、違うの? こんなメッセ送ってきたから、てっきり風邪だと思ったんだけど」


 そう言って開いたスマホの画面には、数時間前に送られてきたメッセージ。『調子悪いから今日は部活休む』が表示されている。

 こんなの見たら、誰だって風邪だって思うじゃない。


 だけど牡丹はまっすぐに私を見ながら、静かに「違うよ」と告げる。

 その顔はあたしととてもよく似ていて、まるで鏡を見ているみたい。



 あたしの名前は、八神菜乃花。ストレートな黒髪をした、中学二年生の女の子。

 そして今話しているのが、姉の八神牡丹。同じくストレートな黒髪の、中学二年生の女の子。

 まあ姉と言っても、歳は同じなんだけどね。

 あたし達は歳だけでなく身長や体重にも差が無い、顔もそっくりな双子の姉妹なのだ。


 学校の成績も同じくらいで、二人とも美術部に入っているという、何から何までよく似た姉妹。

 だけどいくら双子といっても、片割れの事を何でも分かっているってわけじゃない。友達からはよく「双子ってテレパシー使えるの?」って聞かれるけど、超能力者じゃないんだから、使えるわけないでしょう。


 だから当然、牡丹がどうして部活を休んだかも分からないだ。


「で、風邪じゃないならどうしてサボったりしたの?」


 どことなく元気がなさそうだし、もしかしてクラスで、何か嫌な事でもあったのかなあ?

 すると牡丹は合わせていた目を微かに反らして、小さくポツリ。


「告白されたのよ。一条君に」

「えっ?」


 それはやっと聞こえるくらいのか細い声だったけど、あたしはまるで雷にうたれたような衝撃を受けた。


 告白って、本当に?

 しかも相手はあの……あの一条君!?


「ちょっ、ちょっと待って。一条君って、一条遠矢君? あんたと同じクラスの!?」

「そう。あんたと同じ図書委員の、ね」

「そ、それで返事は? OKしたの!?」

「してないよ。一条君は良いやつだし、友達としてなら好きだけどそんな風に考えたことはないって、前にも言ったじゃん」


 依然として、目を合わせずに話す牡丹。

 そうか、そうだよね。牡丹、前からそう言ってたもんね。けどそれじゃあ、一条君をフッたってこと?


 いきなりのカミングアウトに動揺していると、牡丹が伏し目がちに言ってくる。


「……ごめん」

「なんで謝るのさ。あとフッたことをベラベラ喋るのって、どうかと思うけど」

「うん、分かってる。あたしだって他の誰かに喋るつもりはないよ。けど、あんたにだけは言っておいた方がいいと思って」


 牡丹が言わんとしていることはわかる。

 もしも告白されたのが他の男子だったら、たぶんあたしにだって話さずに、胸の奥にしまっていたと思う。けど、相手が一条君なら話は違ってくる。


 だって彼は……一条遠矢君は、あたしが好きな男の子で、牡丹もそのことを知っていたのだから。

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