あり得ないモノ 3

「結論から言うと、てめぇは存在そのものがあり得ない。世界の理、常識から外れたところにある。文字通り外れものだな」


 半日かけてウルの体を隅々まで観察し、診察して検査したルガはその結果としての結論をそうまとめた。


 機嫌の悪さを隠しもせず、非常に認めたくないと言わんばかりの顔だったが事実は事実として受け止めているのだろう。

 はっきりとウルがあり得ないモノだと断言する声に迷いはない。


「もういい、帰れ。今度こそ変人どもの巣にでも放り込んでしまえ。……魔女の血、人魚変成、超幸運体質、狼人、リミッター崩壊、生きた人形。ったく、てめぇらは俺をバカにするために異常なんじゃねぇだろうな」


 俺の専門はヒトであり異常の化け物ではない、とぞんざいに手を振って出ていけと告げるルガに礼をしてローボはウルとともに研究所を後にした。

 

「……私は、異常なのですか?」


 うつむくウルにローボは何も言えなかった。





 ルガは全身を流れる冷や汗の不快さに眉間のしわを深くした。


 なんだあれは。あんなものは知らない。あんなものがこの世に存在していいはずがない。


 どれだけ否定しようと、調べれば調べるほどあれが生きた人形なのだという確信が深まるだけ。そして、予兆なくヒトの姿からまったく別のものへと変じた光景を見た瞬間、確信は確定された事実に変わった。


 あれは、決して世の理の中にあるものではない。あり得ないモノ、外れものだ。


 ヒトから獣に変じるだけならば、まだローボという前例がいたためここまで取り乱しはしなかっただろう。けれど、それはそういった次元とは隔絶していた。


 どうやればヒトが命なきもの、無形のものになるというのか。


 どんな理屈があれば命なきものが命あるもののように語り思考するのか。


 ルガは頭を一振りした。


 あれは異常だ。ウルも。ローボも。


 なぜ、目の前でウルの姿が変わっても違和感なく、初めからその姿であったとでもいうかのようにふるまえるのか。


 目を閉じてその時の衝撃を思い出す。そして、一つの気づきを得た。

 いや、あれは気づいていなかったのではないだろうか。と。


 ウルがヒトの姿から他の何かへ姿を変えてもローボには一貫してそれがウルだという認識があった。

 それはつまり、ウルがどのような姿かたちに変化しようとそれが異常なことだと気づかなかった。もしくはそれが平常であると知っていた、ということなのではないだろうか。


 懐から数種のハーブ類を紙で巻いたものを取り出して火をつける。独特な風味を持つ煙を肺いっぱいに吸い込んで吐き出す、と数回繰り返して立ち上がる。


「なんにしても気味がわりぃ。ニュサ様は何を思ってあんなのを集めてんだか」


 検査棟の前につくられた広場をゆっくりと歩いている外れもの二人を見下ろしながら、ヒトの医術士である学者は忌々しそうに吐き捨てた。

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