トゥーラ先生のためになる授業 1
中央都市ファーヒルの中央にある白亜の塔。その中にある最低限の装飾がほどこされただけの大広間に5柱の使徒が集っていた。
金の髪を団子状にまとめた使徒が口を開く。
「皆、そろいましたね」
分厚い本を腕に抱え眼鏡をかけた使徒は、きょろきょろと同胞の顔を見回したかと思うと隣に立っている仲良しにひそひそと何か耳打ちする。すると、その場の厳かな空気を打ち砕くように元気な声が上がった。
「はーい! サヌが、ニュサお兄様がいらっしゃってないって言ってまーす!」
金のおさげを揺らしながら快活に手をあげて報告してくるスーに進行役のリタは重々しく嘆息した。
この会合を開催する旨はきちんと報告したはずなのに、またしても無断欠席とは。何年顔を合わせていないのだろうか。
「あいつが来るわけねぇだろ。つうか、あんな変人にこられても迷惑だっつーの」
金の髪を逆立てた使徒が吐き捨てる。腕組みに仁王立ちという威圧感ある立ち姿のせいか、サヌと呼ばれた金の短い髪に花の髪飾りをつけた使徒が怯えたように身を震わせる。
「ユサ。滅多なことは言わないように。お兄様は重要な役割を担っておられるのだから」
ユサをたしなめながら、リタはうなずきたい衝動を必死に抑えていた。隣で素直にそうだねー、と頷いているスーを睨みつけながら咳ばらいを一回した。
「……お兄様は我らがアレらと関わらずに済むよう日々心を砕いてくださっている。そのように邪険にするものではないし、むしろ感謝すべきだと私は思う」
「えぇ、えぇ。存じてますとも、十分に。奇病だなどと理屈をつけて取り上げてしまわれた、私の元にいたあの姫を。〈人魚症候群〉。ヒトが徐々に魚へ変じる奇病で、発症者は長い歴史を紐解いても一人か二人。など、とんだでたらめを考えつくものですねぇ兄上は」
歌うようにしてそれに賛同したのは芝居がかった動作で動き回る使徒、ダユだった。人を小馬鹿にしたような笑みは見る者の神経をとがらせる特質を持っているのか、ダユが話し始めた瞬間その場の空気がとげとげしいものへ変わる。
「ウトとイラハの末裔もヒトの変異種として保護する名目を立てて軟禁しているんでしょ? よく考えるよね。私には無理!」
そんな空気の変化などものともせずにスーは元気に賞賛の流れに乗った。実際、スーからすれば学問都市の長など面倒そのものである。まさしく本音そのものだった。
「でも、外れもの集団、つくるの、危険。学者たち、気づく、かも」
眉尻を下げながらおずおずとサヌがスーの影から顔をのぞかせる。分厚い本にかけられた指は力の入れすぎで真っ白になっていた。
「心配ないでしょう、それは。この世にはもう存在しないのですから、新たに気づくべき真理など」
「おい、その妙なしゃべり方やめろっつってんだろうが! いちいちかっこつけてんじゃねぇぞ、鬱陶しいんだよ!!」
苛立ちまかせに吠えるように怒鳴るユサを横目にしながらダユはくるりとその場で一回転したあと、ぱちぱちと拍手をした。
「……あんだよ」
「知っているとは感心しました、鬱陶しいという言葉を」
「……テメェ」
「気に障りましたか? なにか」
「ぶっ殺す!!」
片眉を器用に持ち上げて見下すように笑う同胞にユサは顔を真っ赤に染めあげて拳を振り上げようとする。その拳をサヌが止めた。
「ケンカ、だめ」
一向に進まない会合にリタは額に手を当てる。
(お兄様、私にはこの会合の進行役は荷が重すぎます)
無言の嘆きがニュサに届くことはなかった。
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