5

 日曜日。


 電機屋から、注文していたカセットインターフェース付きプリンタ CE-126P が届いた、という電話が来たので、僕はそれを買いにバスで市街地の商店街に赴いた。


 12月も中頃。4日前に初雪が降ったが、今はもう消えている。だけどやっぱり寒い。


 ふと、駅前の時計台広場に、見知った人影があるのに気づく。


 泰子だ。例のカーディガンを着て人待ち顔だった。間違いなくデートの待ち合わせだ。心がズキンとうずく。


 だけど……この気温でその格好は、ちょっと寒いんじゃないか? しまったなあ。こうなるなら、もっとあったかい格好のコーディネートを選ばせれば良かった。まあでも、デートなんだから、あまり厚着はしたくないのかもしれないが。


「あ、一郎」


 気づかない振りを決め込もうかと思ったが、彼女の方が僕を見つけてしまった。


「やあ」


「どうしたの?」


「買物だよ。泰子は、デート?」


「うん。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』見るの」


「へぇ」


 それ、僕も見たかったんだよな。


 ふと、泰子が咳き込む。


「大丈夫か? 寒いんじゃないのか?」


 そう言えば、心なしか彼女の顔色が青ざめているようだ。


 泰子は決して体が強い方じゃない。子供の頃からよく熱を出して寝込んでいた。


 だけど、彼女は笑顔で首を横に振ってみせる。


「大丈夫。もうすぐ『彼』も来るはずだから」


「そうか。じゃ、邪魔者は退散した方がいいな」


「もう……」泰子が苦笑する。


「じゃあな」僕は手を振り、彼女に背を向ける。


「うん。じゃあね」


---


 CE-126P を手に入れた僕は、ちょっと古いがルンルン気分というヤツだった。これがあれば、作ったプログラムをカセットコーダーに録音して保存出来るし、プログラムリストを印刷することも出来る。プログラミングが大幅に捗ることになる。


 ふと、映画館の前を通りかかる。バック・トゥ・ザ・フューチャー2か……僕も見てみようかな。うん。そうしよう。決して泰子カップルが気になるからじゃない。もともと見たかった映画だし。


---


 映画は面白かった。だけどラストが尻切れトンボで、来年夏の第3作に続くという。


 公開されて一週間ほど経ってるので、館内にそれほど人は入っていなかったが、その中に泰子カップルの姿は見つからなかった。まあ、僕が見落としているだけなのかもしれないが。


 余韻に浸りつつ映画館を出た僕は、駅前に差し掛かって……思わず目を疑った。


 時計台の前に、泰子がいたのだ。


 バカな……あれからもう3時間以上経ってるのに……


「泰子!」


 僕が駆け寄ると、泰子は弱々しい笑みを浮かべる。


「一郎……」


 顔が赤い。僕の方に歩き出そうとした彼女の体がふらつき、倒れそうになる。


「危ない!」


 咄嗟に泰子の体を抱き止める。なんだか彼女の体が火照っているようだ。嫌な予感がした僕は、彼女の額に手を当てる。熱い。まさか……熱を出したんじゃ……


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