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 例の「MATSUZAKI TAKERU」の素性は、すぐに判明した。


 つい最近、僕の町にコンビニエンス・ストアなるものが開店したのだ。スーパーよりも遥かに小さいけど、扱っている品物の種類はスーパーよりも多いかもしれない。そして、そこでアルバイト店員として働いている大学生の一人が、「松崎 尊」という名札を胸に付けていた。そいつと泰子が一緒にいるところを、僕は何度か見てしまったのだ。


 はっきり言って、松崎は僕よりもハンサムだった。泰子の話によれば、彼女がその店で買物したとき、レジを担当した彼が差し出したレシートの裏に電話番号が書いてあったらしい。どうやらそれが、彼女が言っていた「いいこと」だったようだ。


 なんというか……僕、キューピッド役をやっちまったのか……?


 参った。こんなことになるなら、占いプログラムなんか作るんじゃなかった……


「一郎、最近あんまり元気ないね」


 その日の放課後。泰子が僕に話しかけてきた。


「そんなことないよ」僕は笑顔を作って応える。


 それにしても……


 恋する女はきれいさ、なんて歌が昔あったような気がするけど、本当にその通りだと思う。元々美人だと思ってたけど、最近の泰子はそれに磨きがかかっている。


 やはり、松崎のことが、本当に好きなんだな……


「ねえ、また占い、やってくれる? このコンピュータの占い、すごく良く当たるからさ」


「ああ。何を占いたいの?」


「今度デートなんだけど、どの服着てくか迷ってるの。お気に入りのブラウスに、セーターか、カーディガンか、それともワンピースにしようか、とか……」


「わかった。じゃあコーディネートを選択肢として書いて、番号を付けてくれ。名前を入れると番号が出てくるようにするから」


「うん」


 彼女が紙に選択肢を書いている間、僕はPROモードで占いプログラムを手早く修正する。もちろん彼女の選択肢をチラリと見て、僕が一番彼女がかわいく見えると思うコーディネートの番号が出てくるようにしておいた。


「はい、出来たよ」


「ありがとう」


 早速彼女は自分の名前を打ち込む。


「……3番……ってことは、やっぱブラウスに紺のカーディガンか」


 そう。僕もそれがベストだと思う。


「わかった。一郎、いつもありがとね。また占わせてね。頼りにしてるから」


「ああ」


 彼女がニコニコしながら手を振り、教室を後にしたのを確認して、僕は思いっきりため息をつく。


「……はぁ」


 本当は、彼女がかわいく見えない方が良かったんじゃないか? 松崎に嫌われるようなコーディネートの方が……


 いやいや。


 そんなのはダメだ。彼女が悲しむようなことはすべきじゃない。つらいけど、彼女が選んだのは僕じゃなくて、松崎なんだから。


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