4
例の「MATSUZAKI TAKERU」の素性は、すぐに判明した。
つい最近、僕の町にコンビニエンス・ストアなるものが開店したのだ。スーパーよりも遥かに小さいけど、扱っている品物の種類はスーパーよりも多いかもしれない。そして、そこでアルバイト店員として働いている大学生の一人が、「松崎 尊」という名札を胸に付けていた。そいつと泰子が一緒にいるところを、僕は何度か見てしまったのだ。
はっきり言って、松崎は僕よりもハンサムだった。泰子の話によれば、彼女がその店で買物したとき、レジを担当した彼が差し出したレシートの裏に電話番号が書いてあったらしい。どうやらそれが、彼女が言っていた「いいこと」だったようだ。
なんというか……僕、キューピッド役をやっちまったのか……?
参った。こんなことになるなら、占いプログラムなんか作るんじゃなかった……
「一郎、最近あんまり元気ないね」
その日の放課後。泰子が僕に話しかけてきた。
「そんなことないよ」僕は笑顔を作って応える。
それにしても……
恋する女はきれいさ、なんて歌が昔あったような気がするけど、本当にその通りだと思う。元々美人だと思ってたけど、最近の泰子はそれに磨きがかかっている。
やはり、松崎のことが、本当に好きなんだな……
「ねえ、また占い、やってくれる? このコンピュータの占い、すごく良く当たるからさ」
「ああ。何を占いたいの?」
「今度デートなんだけど、どの服着てくか迷ってるの。お気に入りのブラウスに、セーターか、カーディガンか、それともワンピースにしようか、とか……」
「わかった。じゃあコーディネートを選択肢として書いて、番号を付けてくれ。名前を入れると番号が出てくるようにするから」
「うん」
彼女が紙に選択肢を書いている間、僕はPROモードで占いプログラムを手早く修正する。もちろん彼女の選択肢をチラリと見て、僕が一番彼女がかわいく見えると思うコーディネートの番号が出てくるようにしておいた。
「はい、出来たよ」
「ありがとう」
早速彼女は自分の名前を打ち込む。
「……3番……ってことは、やっぱブラウスに紺のカーディガンか」
そう。僕もそれがベストだと思う。
「わかった。一郎、いつもありがとね。また占わせてね。頼りにしてるから」
「ああ」
彼女がニコニコしながら手を振り、教室を後にしたのを確認して、僕は思いっきりため息をつく。
「……はぁ」
本当は、彼女がかわいく見えない方が良かったんじゃないか? 松崎に嫌われるようなコーディネートの方が……
いやいや。
そんなのはダメだ。彼女が悲しむようなことはすべきじゃない。つらいけど、彼女が選んだのは僕じゃなくて、松崎なんだから。
---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます