第4話

 nanaさんと最後の飲み会から1ヵ月。

 会社の新年会、2次会に出席した後、同じ独身の同僚中西に、nanaさんのことを相談した。最初笑って聞いてくれていた中西の顔が、だんだんと曇っていく。

「それさあ、怪しくないか?」

「やっぱそう思うよな……」

 喉を潤すように、ハイボールを一口飲む。

「全然顔見せてくれなくてさ……かろうじてメッセージのやり取りには応じてくれてるけど、その内、返事が来なくなって、ブロックされるんじゃないかなって……」

「いや、俺が怪しいって思うのは、そっちじゃなくて……」

「なんだ?」

 聞き返す俺に、中西は深刻そうな顔で続ける。

「大部屋に移ったからって、全然顔見せなくなるのは、おかしいだろ?」

「やっぱり、嫌われたんだ……」

「だから! おまえがどうこうじゃなくて……」

 中西は苛立たしげに頭を掻いた後、真っ直ぐに俺を見て言った。

「その子、容体はどうなんだ?」

「えっ? 容体?」

「よく考えてみ。ずっと入院してんだろ? 良くなったんなら退院して、それこそオンラインでもオフラインでも会えるはずだ。大部屋に移ったとしても、少しくらい顔を見せれる。それこそ、喋んなければ周りに迷惑かけねえし」

 俺は返す言葉もないまま、話す中西の顔を見る。

「それが、全く顔を見せなくなったってのは……」

 衝動的に飛び出そうとした俺の腕を、中西が掴んで止めた。

「おまえ、どこ行くんだよ」

「どこって、nanaさんの病院に!」

「どこに入院してんだ?」

「あ……」

 入院先は教えてくれなかった。それどころか、病名すら教えてもらってない。

 脱力した俺が席に戻ったのを確認すると、中西は鞄からノートパソコンを取り出した。

「入院してんのは、都内で間違いないんだよな?」

「あ、うん」

「年齢は?」

「25歳って、プロフィールに書いてた」

「入院期間は4ヶ月以上?」

「ああ。もしかしたら、もっと長いかも……」

 nanaさんとの会話を思い出しながら、中西に知りうる限りのことを話す。中西は俺の話を聞きながら、キーボードを叩く。

「この辺りだろうな」

 こっちに向けたノートパソコンには、幾つかの病院の名前。

「一番条件にあうのは、ここ。後は、地域が少し違うけど、誤差の範囲内」

 呆然とする俺に、中西は糸のように細い目をさらに細くして

「行って来いよ。後悔のないようにさ」

 と笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る