第3話
注文した品物は可愛い制服を着たパートのおばさんによって運ばれてきた。ストライプの半袖シャツとモスグリーンのタイトスカートはおばさんにも西宮にも似合わないけど、多分わたしならそれなりに似合う。傲慢じゃなくて、多分真実として。
「来たぁー。パフェー。盛り盛りぃー」
「毎回思うけど、なんで山盛りポテトを平たい皿に載せるんだろうね。落ちそうじゃん」
「えー? 落ちるくらいのってます、みたいなアピールかな? ほらー、なんだっけ、アゲゾコ、みたいな」
「なにそれ、深海魚?」
西宮は魚のように大きく口を開けて笑う。
チョコレートパフェはメニュー表の写真そのままで商業主義の権化のように見映えが良かった。
真っ白な生クリームの上に艶のあるチョコレートシロップ。てっぺんにはななめ切りのバナナ 。どうせすぐにスプーンを差し込まれてぐずぐずに崩されるのに、グラス越しのコーンフレークとブラウニーの層が美しい。
西宮は案の定細長いスプーンを上から下まで一気に突っ込んでぐちゃぐちゃに掻き回した。
わたしは何故か自分の心臓にそれをされたように簡単に傷つく。
「甘いー。さいこー。今日きて良かったぁ。マンゴーの不在に感謝ー」
「感謝はおかしくない?」
「……ん、おかしくないよぉ」
ぱくぱくと良い音がしそうなくらい西宮は小気味よくチョコレートパフェを平らげていく。
どうせ最初だけだよ、とわたしはポテトをつまんで指を汚しながら思う。振りかけられた塩粒のかすかなざらつきを指紋で感じるのはわりと心地よくて食べているうちに傷ついたのと同じ早さでポテトフライの塩気と熱さがわたしの感傷をあっけなく押しつぶす。油と芋はどんな時でも問答無用に美味しくて効くから良い。
「あー、冷えたかも。うん、ちょっと休憩ー」
だけど想像していた通り、西宮は半分ほど食べたところでスプーンを置いて伸びをしだした。だらしなく上半身を倒してテーブルに頬をひっつける。グラスからしたたった水滴が無雑作に広がった西宮の髪をいくらかだけ濡らす。
「パフェ食べるのに休憩って、なに?」
「味の濃いぃもの食べてると、口が飽きるくない? あとさー、舌がすごーく冷たい」
んべ、と西宮が舌を出した。
チョコレートで汚れた舌を躊躇なく晒す西宮の根性が信じられない。信じられないけど、結果としてそこには西宮の舌があった。ぬめぬめして柔らかそうでちょっとぎょっとするくらい大きい。
「なんか話してー?」
「西宮はなんかないの?」
「なんか? わたしにはなんもないなぁ……なんか……あ、あー、そうだ」
――わたしねえ、ちょっとだけ世界を戻せるんだよね。
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