第2話


 国道沿いのファミレスは早めの晩ご飯を食べる母親と子どもの組み合わせでそこそこ賑わっていた。男は少ない。なにより。

 わたしは男が嫌いだった。制服を着ているときは余計にそう。臭いしうるさいし制服を着ているわたしのことを女子高生って目で見てくるから。

 ガンガンに効いたクーラーで一気に体温が下がって、ようやく深い息ができる。身体の表面からいらない皮を一枚めくって捨てちゃったみたいに気持ち良い。


 店員に案内されたのは奥の六人がけのテーブルで、スクバを放り投げて座ると西宮が当然のようにぎゅうっと身体を寄せてきた。


「え、なに。向こう座ってよ」

「やー。えー、だめー?」


 ぶすっとした顔でメニューを手に取ると、西宮は媚びたような笑顔でわたしの二の腕をつついたあとすぐに腰を上げて対面のソファーに戻った。

 もう冷やされたわたしの右腕に、ぽっと灯るような丸い体温だけが残る。

 やけに未練がましくてそれにしてはむずむずしてわたしは硬いソファーに何度も座り直す。


 マンゴーフェアは一昨日に終了していた。来週から白桃フェアが始まるというお知らせを見て西宮は首を傾げる。


「これさー、今は無ってこと?」

「通常メニューにもパフェあるでしょ」

「そうだけどさー。じゃあ今はぁ、ハザマだよねー。ハザマ。期間限定無の無の期間」


 わたしはその言葉を無視して呼び出しボタンを押した。

 チョコレートパフェとポテトフライとドリンクバーが二つ。注文してすぐにドリンクバーに向かう。わたしはアイスコーヒーで、西宮はメロンソーダにちょびっとコーラを混ぜてきれいなエメラルドグリーンをわざわざ濁らせていた。そういう神経は全く理解ができないし情緒がないと思う。ファミレスのドリンクバーで情緒を求める自分もどうかしてるとは思うけど。

 傷がついても問題ないようにあらかじめ半透明の擦り模様が入った軽いコップは落としても割れない合理性のかたまりだ。ちょっとだけ、わたしに似てる気がする。

 席に戻ると西宮はすぐにストローを噛んだ。

 

「そういえば西宮のパパたち、元気?」

「うん。どのパパー? でも大体みんな元気ー」


 西宮が毎日違うオッさんに本番までヤらせて稼いでるというのはクラスの噂だけど、それはだいたい本当のことだろうなってわたしも思っていた。西宮はあくびをするみたいにするりと嘘をつく癖があるけど、それでもパパたちの話は比較的一貫性があった。比較的がつくのは、西宮のパパたちが固定された一人を除いて時々入れ替わっているからだ。


「なんかパパ最近、忙しいっぽくてー。追い込みがあるってあんまり会えないんだよね」

 

 西宮のパパたちの話を聞くたび、わたしは世界にたくさんの職業が溢れていることを知る。固定された一人のパパ――戸籍上と肉体のパパは無職兼土木作業員で、西宮のお母さんの恋人という意味のパパは印刷会社のけっこう偉い人で、西宮が個人的に作ったパパたちもまたそれぞれに違う仕事に就いている。

 でも西宮はパパたちの話をするときに一々どのパパが、という言い方をしない。尋ねれば教えてくれるけど、基本的に西宮にとってパパたちはどれもパパたちなのだ。


 西宮のパパたち。


 自分でも何故かわからないけど、わたしはその響きが嫌いじゃなかった。事実には反するだろうけど、やさしい感じがする。事実っていうのはつまり西宮がお金もらって色んなおっさんに抱かれまくってるってことでそれはクソ食らえとしか言いようがないんだけど。


「よくやるよね。わたしには無理」

「それって褒めー? できない人もいるから、わたしがお金もらえるんだよねー。人にできないことやれるって凄くない? すごーい。褒めて?」

「……西宮はすごいよ」

「やったー。ありがとっ」


 西宮は嬉しそうに首を前後に揺らした。かくかくとした動きはやらしいことを思い起こして嫌な気分になる。この制服はわざとかってくらいおっぱいが目立つ。


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