第18話 坂上との話し合い
俺はすでに待ち合わせ場所に来ていた。
俺はこの後バイトが入っているし早めに頼むと言うと、坂上は学校が終わってからすぐに向かうと言っていた。
待ち合わせ場所には、学校の誰にも会いたくないのと・・もちろん緑川なんて以ての外であるため、どちらにも遭遇する可能性の低い場所に位置するひっそりとした公園を選んだ。
俺がベンチに座ってしばらく待っていると、ザッザッと足音が聞こえてくる。
顔を上げて足音の方向を向くと、坂上がこちらに近づいてきていた。
「悪い、待たせたか?」
「いや、俺が早く来ただけだから、それは気にしなくていい」
学校が終わった時間から考えると、坂上はすぐに来た事くらいはわかる。
だからどうだということはないが・・・
「そっか、すまん。そう言ってくれると助かる・・・それで、いきなりで悪いけど・・・停学が解けたのに、学校に来ないってどういう事だよ?まさか・・・」
俺が緑川の事を尋ねる前に、坂上から先手を打ってきた。
よほど、緑川の事を話すのに
仕方がないから坂上の質問に答える。
「別に辞めるつもりなわけじゃないさ。ただ、停学だと言われて受け入れたのに、やっぱり違いましたと言われて学校に行く気になるか?」
まあ、確かに今の所は辞めるつもりが無いのは間違いないけど、辞める事自体は全然構わないのも確かだ。
ただ、そこまでは坂上に言う必要はないし。
「そ、それはそうかもしれないが・・・」
「行くにしたって俺には俺の思う所があるし、気持ちを整理して切り替える時間も必要なんだよ。だから当初の予定通り、2週間後から学校に戻るつもりでいる」
何度も言うように、いきなり停学取り消しと言われたって、素直に“はい、そうですか”なんて言えない。
そもそも、そこまでして行く理由なんてないのだから。
「そ、そうか・・・辞めなくてホッとはしたけど・・・でも、もっと早くに戻って来る事は出来ないのか?」
「・・・なんでそこまで、俺が早く学校に戻る事に拘る必要があるんだ?」
「い、いや、あいつら・・・杉並と結城も、
「・・・・・」
なるほど。
俺が立ち去った後に、野球部の誰かがボールを拾いに来て説明したという事か。
そして噂を流したのは、杉並と結城ではなかったと・・・
・・・それがわかった所で、今の俺にとっては特に必要な情報ではない。
揺らぐ気持ちが無いとは言わないが、ハッキリ言えば俺にとってはすでに終わった今回の件に関しては最早どうでもいい事。
そもそも杉並や結城、そして噂を流した奴の行動の結果が現状であり、それは全て自己責任なのだから。
そして、もちろん俺自身も停学を受け入れたのも取り消しを拒否するのも、全て俺が自身で招いた結果で自己責任だからである。
もっと言ってしまえば、真相が何だったのかという事よりも・・・
俺がクラスメイトと距離を縮めようとしなかった事が原因であるとはいえ、結局の所は俺の話を聞こうとせずに先に噂だけを次々に広め、それを信じている者ばかりである学校の連中に若干うんざりしてしまっている。
・・・
というか、そんな事よりも・・・
坂上の話を聞けば聞くほど、少しずつ苛ついてくる自分に気がついていた。
なぜなら・・・
「・・・なあ、坂上」
「な、なんだ?」
「俺に復学してほしいっていうのは、結局そいつらの為って事か?」
「――っ!!」
そう、坂上の言葉をそのまま受け取るのであれば、俺に早く復学してほしい理由は自責の念に駆られているそいつらの気持ちを救ってやりたいから。
そこに俺の気持ちは一切含まれていない。
俺は理由が何であろうと、停学そのものに対して不満を言うつもりなどない。
実際に杉並と結城を突き倒し、怖がらせた上に怪我もさせたのだから。
それに対する報いは甘んじて受けないといけない。
そう納得している俺に対して学校に来いというのは、俺の為ではなくそいつらの為という事になる。
「ち、違う!そうじゃない!!」
坂上は俺の言葉を聞いてハッとすると、すぐに強い口調で否定する。
「違わねえよ・・・」
「違うんだ!ちゃんと話を聞いてくれ!」
坂上は何とか言い訳しようとしているが、正直言って今の俺にはどうでもいい話。
そもそも、こんなくだらない話をしに来たわけではない。
俺には、それ以上に聞き出さなければならない話がある。
「いや、つーかさ・・・そんな事はもうどうでもいいんだよ。それに関しては勝手にそっちでやってくれよ・・・それよりも、俺がここに来た理由はわかってるだろ?話をそらして、これ以上俺を苛立たせないでくれ」
「話をそらしてなんか・・・い、いや、そうだな・・・」
元々、俺が坂上と話をしに来たのは別の理由。
俺が復学するかどうか、そいつらが救われるかどうかの話をするためではない。
それなのに、余計な事を言って苛つかせる上に、話が一向に進まない事が更に俺を苛立たせる。
「さて、じゃあいい加減に聞かせてくれないか?お前と緑川の関係、そしてお前が俺に近づいてきた理由を・・・」
俺は現状の話はこれで終いだとバッサリと切り、緑川との事を話せと告げる。
「わ、わかった・・・ただ、その前に聞かせてくれ・・・どこで俺と緑川が知り合いである事を知ったんだ?」
「・・・昨日、駅でお前と緑川が一緒にいただろ?それを目撃したんだよ」
「そ、そうか・・・あの時か・・・」
「もういいだろ?先を話せ」
「あ、ああ、わかったよ・・・と言っても、どこから話せばいいのか・・・」
「順を追って最初から話せばいいだろ」
未だに躊躇いがあるのか、少し渋る様子を見せる坂上に少しイラッとする。
それを抑えつつも、いいからちゃんと全部話せというニュアンスで告げる。
「あ、ああ、そうだな・・・俺と緑川の出会いは、電話でも言ったように学習塾での事だ。俺は1年の頃から通っていたんだが、緑川は2年の途中からわざわざバスで俺の地元にある塾に通い始めたんだ」
確かに緑川は勉強がそれほど得意ではなく、親に無理矢理塾に入れられて遊べない日が出来てしまったと嘆いていた時があったな。
しかも塾の前後で遊べないように、離れた場所にされたと言っていたのを思い出す。
「その当初、緑川がたまたま空いていた俺の隣の席に座った事で話すようになったんだ。そんな彼女は勉強が辛いと言いながらも、毎日が楽しくて仕方がないというような笑顔を見せていた。俺は正直、彼女のその笑顔に惹かれていったよ」
坂上は緑川が好きだという事を自ら吐き出した。
おそらく、2人が会っている所を俺が目撃したと言った事で、俺には坂上の緑川に対する好意がバレていると感じたのだろう。
「だから俺は彼女の気を惹こうと、塾の無い日に遊ばないかと何度も誘ったんだけど・・・緑川には他に一緒に遊びたい人がいるから無理と笑顔で言われて、ずっと断られ続けていたんだ」
「・・・・・」
間違いなく俺の事だろうな・・・
「そんないつも笑顔で楽しそうにしていた彼女は・・・珍しく塾を何日か休んだ事があり、その日を境に一切笑顔を見せなくなってしまったんだ・・・」
・・・
それは、あの事件の後か・・・
「塾には来ていたものの以前とは全く違う様子に驚いた。その理由を聞いても頑なに口を閉ざして何一つ答えてはくれなかった。余程辛い目にあったのか、その塞ぎこむ様子が見ていられないほど尋常じゃなかったのを覚えている。俺はそんな彼女に笑顔を取り戻して欲しいと思うのと同時に、落ち込んで何も話してくれない彼女にどう接していいのかわからなかった。それでも、根気強く挨拶したり一言二言声をかけてみたりし続けたんだ。それが功を奏したのか、2年の終わり頃には少しだけ笑顔を見せてくれるようになった・・・でも、それは以前の明るい笑顔ではなくて、陰りのある笑顔だった・・・」
・・・
もうその頃には、俺はクラスの誰にも目を向ける事はなかったから、緑川のみならず他の誰もどんな顔をしていたのかなんて知らないし興味もない。
ただ、確かに俺の知る緑川も笑顔だった記憶しかなかった・・・
だから陰りのある笑顔の緑川は想像出来ない。
「そして、そんな状態が続き・・・3年になってしばらくしてからの事。緑川が1人で抱え込むことに耐えきれなくなったのか、ポツリポツリと語って聞かせてくれたんだ・・・彼女が塞ぎ込んでいた理由は、辛い目にあったからというわけじゃなくて・・・」
坂上はそう言うと、緑川から聞いた話を語り始めた・・・
――――――――――
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
本当は1話で終わらせる予定でしたが、少し長くなりそうなのと構成を色々と考えた上で分けた方がいいと考えた為、一旦ここで区切ります。
それと、沢山の応援や評価ありがとうございます!
この作品がここまで応援や評価などを頂けると思っていなかったので、良い方向で予想外の結果となって本当に嬉しいです。
今後も自分の思う通りに書いていくつもりですので、色々と感じる方も居ることは十分存じておりますが、それでもお付き合いして頂けるのであれば、これからも是非よろしくお願いいたします。
応援や評価・感想などは励みになりますし、本当に嬉しいです。
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