第14話 杉並と結城の思い、そして星の取った選択




 キラが出て行った後、彼の言葉で呆然としていた杉並と結城に、坂上が一呼吸置いてから声をかける。


「なあ、ショックを受けている所悪いが、2人は自分達の流れている噂は聞いたのか?」

「う、うん・・・」

「さっき聞かされたよ。まさかそんな噂になっているとは思わなかった・・・」


 杉並は坂上の質問に頷き、結城が驚きを口にした。


「という事は、やっぱり噂は本当ではないという事だな?」

「確かに、ウチらが風見に突き飛ばされて怪我をしたというのは本当。だけどそれ以外は全部でたらめだよ・・・」

「うん、でも・・・私達を突き飛ばしたのも、理由があっての事だったらしいの・・・」


 結城が、噂は全部ではないが大半がでたらめだと説明する。

 それを補足するように、杉並がそれに続く。


「なあ、もしよければだが・・・昨日あった事を聞かせてくれないか?」

「・・・うん、実は・・・」


 危ないと声を掛けられ、振り向いた瞬間に突き飛ばされた事。

 その時の自分達は、驚愕や怒り・恐怖・悲しみなどの様々な感情に支配された事。

 その感情を、彼の言い分も聞かずに一方的にぶつけてしまった事。

 そして、結城が彼の頬を思いっきり叩いてしまった事。

 彼が去った後、自分達の所へ来た野球部員から、彼は自分達を飛んできた硬球から守ってくれたと知らされた事など。


 結城は要点だけを掻い摘んで、坂上に説明した。

 それを聞いた坂上は・・・


「そっか・・・」


 と一言呟いた。

 そして続けて・・・


「一つだけ確認したいんだけど・・・あの噂はお前達が流したわけじゃないんだよな?」

「なっ!そんな事するわけないじゃん!」

「さすがに・・・それはないよ・・・」


 坂上は別に、彼女達が自分で噂を流したとは思ってはいない。

 それでも、その件に関しては確認しないわけにはいかなかった。


 質問された結城は怒るように否定し、杉並も悲しそうに否定した。


「ウチらがそんな事をするような奴だと思ってるわけ!?」


 疑われた結城は怒りが収まらない。

 それに対して坂上が・・・


「いや違う・・・そういう事じゃないんだ・・・」


 と、疑っているわけじゃないと告げる。


「じゃあ、どういう事だっていうの!?」


 結城はさらに詰め寄る。


「間違い無くキラは・・・噂を発信したのがお前らだと思っている」

「・・・はっ!?」

「・・・え?」


 坂上はキラを見ていた事で、それは間違い無いと確信していた。


「お前達が近づいてきた時に、キラが最初に発言したあの言葉、そしてその後にお前達が許す気ないと星の口から出た事が証拠だ」


 キラは当事者なのだから、あの時何があったのか一番わかっているはずだ。

 それなのに彼女達に向って、自分が襲ったと言う言葉を使った。


 さらに言えば小声で話していた時に、星が2人は自分を許す気が無いと言っていた事からもわかる。


 怪我をさせられた彼女達が頭にきて、星に襲われたと自分達で吹聴したのだと考えているのだろうと坂上は思った。


「確かに昨日は、ウチも頭に血が上っていたけど・・・だからといって、そこまで酷い事をするわけないじゃん!」

「俺に熱弁されたところで、はっきり言ってしまえば俺もお前達が本当に流してないのかは現状では何とも言えない・・・どちらにしろ、おそらくお前達の怒りが収まらなくて嘘の噂を広めたとキラは考えているんだよ」


 結城の弁明を坂上はバッサリと切りながら、星が思っているだろう事を伝える。


「そ、そんな・・・」


 その事実に対して、結城だけでなく杉並もショックを隠せずにいた。


「・・・なあ。キラはああ言っていたけど、お前達に星を許す気はあるのか?」

「う、うん・・・だって、許すも何も・・・さっき話したように勘違いだっただけで・・・私達の怪我に対しては既に風見君は謝ってくれているわけだし・・・」

「・・・ウチも勘違いとはいえ、叩いちゃったわけだし・・・謝らないといけないのはうちらの方かなぁって・・・」


 2人の話を聞きながら、坂上はため息を吐いた。

 特に結城の対応が悪すぎたからだ。


「はあ、だったら・・・結城の高圧的な態度はなおさらまずかったな」

「う、うん・・・ごめん・・・」


「俺に謝っても仕方ないだろう?」

「そ、そうだよね・・・ちゃんと風見に謝るよ」


 結城はそう言ったが、キラの性格を考えると色々と難しいだろうなと坂上は思った。


 そして、去り際にキラが残した言葉・・・


キラは、クラスメイトに少し心を許し始めていたのか・・・」


 せっかくキラが歩み寄ろうとしていた。

 それなのにこんな事が起こるなんて・・・


 それに気がついた時には、全ては後の祭り。

 キラの為に出来ることはしようと思いつつも、もう難しいのかなと坂上は思ったのだった。



 ・・・・・



 俺は朝のホームルーム開始のチャイムが鳴ってから教室に戻った。

 クラスメイトの誰にも声をかけられたくなかったから。


 そのおかげで、俺が教室に入るのと同時くらいに担任の女教師である後藤先生が入ってきたため、誰からも声をかけられることなくSHRが行われた。


「・・・以上が今日の連絡事項です。・・・あ、あと風見君。この後、職員室にいらっしゃい」


 そしてSHRの最後に、俺は後藤先生に呼ばれた。

 おそらく、例の噂の件だろうと俺は考える。


 あれだけの噂の広まり方なのだから、朝一で教師にまで噂が伝わったのだろう。



 後藤先生が教室を出ると、坂上が心配そうな顔を俺に向けていたが、それを無視して俺も教室を後にする。


 職員室のドアをノックして開け、職員室内を見渡して後藤先生の姿を見つけると、俺はそこへ向かった。


「先生、何の用ですか?」


 用件はおそらくわかってはいるが、わざわざ自分から言う事はない。


「来たわね、風見君・・・今、貴方の噂が学校中に広まっている事は知っている?」


 やはり、俺の思ったとおりだった。


「はい、知っています」

「そう・・・じゃあ、単刀直入に聞きます。あの噂は・・・風見君が杉並さんと結城さんを襲ったと言うのは、本当の事なの?」


 この質問も想定内の事だ。

 噂の事を質問されるのであれば、当事者である俺に本当かどうか尋ねる事は明白だ。


 だから質問の答えも用意してある。


 それはあいつらが望んだ事なんだ・・・


 だから、俺の答えは・・・


「はい。俺が彼女達を乱暴しようとして、彼女達を襲いました」



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 俺は今、学校では授業中にも関わらず自宅へと帰り、ベッドへ身を投げ出していた。


 結局、2週間の停学となった。


 面白い事に、俺が真実を話しても信じてもらえないが、自分にマイナスとなる嘘は疑われず信じてくれる。

 本当、皮肉もいいところだよな。


 まあ、それはいいとして・・・


 だから俺は正直、退学と言われる覚悟もしていた。

 もう別に退学しても構わないと思っていたので、若干肩透かしを食らった気分でもある。


 俺はあの後、「杉並さんと結城さんに聞いても、俺に襲われたとしか言わないでしょう」と付け加えていたので、加害者である俺の言葉のみを受け止め、急遽職員会議が行われた。


 職員会議の中でも、被害者である2人からも話を聞くべきだという意見があったようだが、さすがに心に傷を負った女子生徒からすぐに話を聞くのは難しいだろうという事になったようだ。

 そして、加害者である俺が事実を認めている為、どのような処分が妥当であるかが話し合われた。


 一部では退学と言う話も出たようだが、後藤先生が庇ってくれたようで、退学はマヌガれ停学処分で落ち着いたという事らしい。


 職員会議中、俺は別室で一人待機をさせられていて、結果が出るとすぐに後藤先生が知らせに来た。


 その後、俺は移動教室のおかげで誰も居ない自分の教室へと戻り、荷物をまとめて自宅へと帰ってきていたのだ。


 停学処分を受けてから、学校では誰とも会う事なく帰ってこられたのは僥倖である。

 誰かに会っていたら、色々と面倒だっただろうし。


 退学になっても全然構わない俺にとっては、停学中だろうと特に関係無いと思っている。

 だから素直に自宅謹慎なんてしているつもりはない。


 そんな中、今日はバイトがあるから早めに出勤しようかなぁと考えていると、マナーモードにしていた携帯のバイブがブブブッと鳴り、メッセージの通知を知らせていた。


 正直、携帯を見る気力がなかった俺はそのまま放置する事にして、バイトに早めに出勤するとしても今はまだ午前中で時間までは大分あるので、とりあえず少しだけ昼寝をしようと目を瞑ったのだった。


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