第13話 噂と完全なる拒絶
翌日。
俺はいつも通りに登校し教室へ入ると、いつもとは違う視線と雰囲気を感じた。
なんだろうとは思ったが特に気にすることはなく、自分の席に座るといつも通り小説を読み始めた。
すると、これもいつもどおり他のクラスメイトと話をしていた坂上が近寄ってきたが、その顔はいつもとは違って深刻そうにしていた。
「なあ、
はっ?なんだそれ?
と一瞬思ったが、すぐに思い返した。
ああ、内容は滅茶苦茶だが、おそらく昨日の事か・・・と悟った。
ただ、昨日の夕方の事なのに噂が広がるスピードが異常に早すぎる。
これはきっと、彼女達が昨日あの後すぐに携帯で友人に伝えて、そこから拡散したと考えるべきだろうな。
しかも内容は、確かに彼女達からしてみればそう捉えられるのかもしれないが、俺からしてみれば酷い中傷となっている。
よほど俺にムカついたんだろう。
あの時は周りには人がいなかったし、俺の考えはおそらく間違いないだろう。
確かにあの時は俺が悪いと思ったが、ここまで悪者にされるのであれば、いっそ清々しい気がした。
怪我をさせた直後は自責の念しかなかったが、時間が経つにつれて他人を助けるという自分のした事の愚かさ、そして自分がされた仕打ちに対しての怒りというか呆れが強くなっていた。
中学の時もそうだったし、やはり人を助けるなんて事はするものではない・・・
そして、助けた俺がバカだったのだと・・・
だから今となっては、あの件で誰から何を言われようと、はっきり言ってどうでもよくなっている。
そのおかげで、今は平静を保つ事が出来ていた。
正直言えば学校で何がどうなろうと、俺にはもうどうでもいい。
だから別に弁解する気も起きない。
「ああ、うん・・・確かに、内容はどうあれ彼女達に怪我を負わせた事に関しては間違いない」
お前がそんな事するなんて嘘だよな、と顔に書いてあった坂上に対して、俺は言い訳する事も無く事実だと告げる。
「本当の・・・事なのか・・・?いや、それが本当だとしても、その口ぶりからして何か理由があるんだろ?」
「・・・理由なんてないさ。何を聞いたか知らんけど、坂上が聞いた噂どおりだ」
「なんでだよ・・・なんで言い訳すらしようとしないんだ!?」
「・・・言い訳して何になるんだよ?俺が何かを言えば、今のこの状況が変わるのか?坂上は俺の言葉を100%信じてくれると言えるのか?」
実際、それは難しいだろう。
坂上は、俺を少しでも疑っているから聞いてきたんだ。
なぜなら俺を疑っていないというのであれば、そんな事を聞いてくることはせずに、いつも通りに俺と接してくれているはずなのだから。
それが出来ない時点で坂上は俺を、俺は坂上を100%信じる事など出来やしない。
周りで俺達の話を聞いている連中に関しても同じ事が言える。
彼らにとっては、俺が言い訳をすればするほど面白おかしく話を盛っていく事だろう。
そんな状態で、言い訳なんてするだけ無駄というものだ。
それに、こういう状況での俺の言葉など・・・
今まで誰からも信用された事などないのだから・・・
俺は信用されない、だから俺は誰も信用しない、そんな俺に対して更に誰も信用するはずがない、だから俺も更に誰も信用するはずがない。
そんな悪循環の堂々巡りに陥り、もう完全に抜け出せない状態になっている。
それを理解しているからこそ、俺は信用してもらえるという期待を持つことはしない。
そう考えている俺に、坂上は・・・
「そ・・・それは・・・でも、お前は噂の様な事が出来る奴じゃない事くらい、俺はわかってる!」
と、そんな事をのたまいやがった。
「・・・坂上に・・・俺の何がわかってるって?」
わかっている素振りを見せる坂上に俺はイラっとして、睨むように坂上を見ながら問いかけた。
俺と真逆な坂上が、本当の意味で俺の気持ちなどわかるはずがない。
わかったフリを・・・わかったつもりでいるだけだ。
「い、いや・・・でも、俺はお前を・・・」
と坂上が言いかけた所で、教室の入り口がガラガラと開き教室がざわついた為、俺と坂上もそちらへ顔を向ける。
「おはよう・・・どうしたの?・・・何?この雰囲気・・・」
入ってきたのは杉並と結城で、先に入ってきた杉並は教室が異様な雰囲気に包まれている事に気が付いた。
そこにクラスメイトの女子がすかさず近づいて、ヒソヒソと2人に話しかけていた。
「・・・え?何でそんな話になってるの!?」
「本当よ!どうしてそんな・・・」
おそらく今の状況を聞かされたのだろう。
杉並と結城が驚いた様子を見せる。
(白々しい!!)
それが俺の素直な感想だ。
周りには今初めて知ったように見せ、自分達が流したわけではないとパフォーマンスをしているだけなんだろ!?
周りからしてみれば、それは効果的だろう。
被害者である本人達が、そんな噂を流すなんて思うわけがないのだからな。
そう思っていると、彼女達がふとこちらを見た事で俺と目が合う。
その瞬間に、俺はフンと鼻を鳴らすように顔を背けた。
彼女達は話しかけてくるクラスメイトの女子たちに、「ちょっとごめんね」と言いながらこちらに近づいてくるのがわかった。
あんな事があっても、俺に近づいてくる理由なんて一つしかない。
怪我を負わせておいて逃げ去った俺に、怒りや嫌味をぶつけようとしているのだろう。
噂を流した事から考えて、俺を徹底的に叩くつもりなんだな?
いいだろう。
だったら、俺は俺らしく受け入れてやるよ。
2人が俺の横に来た事がわかると、俺は昨日の様に逃げる事はせずに再び彼女達に目を向ける。
「あ、あのね・・・昨日は・・・」
と杉並が言いかけた所で、俺はそれを遮る。
「ああ、俺が悪かったよ・・・でも俺に近づいたら、また昨日みたいに俺に襲われるから近づかない方がいいんじゃないか?」
俺は周りにも聞こえるように、そう言った。
最低限の謝罪だけはして、噂を流しただろう彼女達に対して皮肉を込めた上で、俺に2度と近づくなという意味を含ませて。
周りからしてみれば俺の言葉の表面だけを受け取るだろうから、昨日の件の噂が間違いないと思われるはずだ。
これが・・・
お前達の望みなんだろう?
「なっ!なんなのよ、あんた!昨日の事反省してないの!?」
「(ちょ、ちょっと亜沙実!違うでしょ!?)」
俺の言葉を聞いた結城は怒りだした。
その時に、杉並が結城に小声で何かを言っていたようだが、俺の耳には届かない。
そして俺は立ち上がり、周りには聞こえないほどの声で2人に話しかける。
もちろん、近くにいる坂上には俺の声は聞こえているのだろうが・・・
「いや、俺なりに反省は十分すぎるほどしたさ。自分の愚かさも含めてな・・・それに今更、許してもらえるとも許して欲しいとも思わない・・・事実、お前達は俺を許す気ないらしいし。だから俺は金輪際・・・何があろうと誰とも近づかない・関わらないつもりでいる。それが俺の2人に対する贖罪のつもりだから、2人も俺に二度と近づかないでくれ」
本当に・・・
学校で関わる人間を、助けようとなんてするんじゃなかったよ・・・
碌な事にならないのに・・・
俺は中学の頃から、何も学んでいないんだな・・・
「え・・・な、何を・・・言って・・・」
「わ、私達が許す気ないって・・・どうして・・・」
俺は言いたい事だけ言うと、俺の言葉を聞いて呆然とする結城と杉並、そして坂上を横目に・・・
「少しでも歩み寄ろうとした俺がバカだったよ・・・」
そう一言だけ残して、足早に教室を出て行ったのだった。
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