どれだけ努力をしても完璧な親友に全く歯が立たない俺だったが、ついに報われた話

水島紗鳥@11/22コミカライズ開始

どれだけ努力をしても完璧な親友に全く歯が立たない俺だったが、ついに報われた話

 俺の名前は宮本勇気みやもとゆうき、高校2年生だ。

 世間一般的に見て俺は優秀と言われる人間で、勉強に関してもスポーツに関しても学年の中で自分はトップクラスであると自信を持って言える。

 だが、勉強においてもスポーツにおいても全く敵わない相手がただ一人存在する。

 それは……


「勇気、この後時間ある?相談したい事があるんだよね」


「大丈夫、帰る準備するから少し待っててくれ」


 今俺に話しかけてきた目の前に立つ身長の高い爽やかな笑顔を浮かべた男、クラスメイトであり、部活の仲間でもあり、俺の親友でもある、次期生徒会長となる事が確実視されている雨宮凉あめみやりょう、彼が俺の勝てない相手である。

 凉は定期テストや模試において常に一位の成績を叩き出しており、所属している水泳部においても校内一位の実力者だ。

 勿論、俺も血の滲むような努力は続けてきたが、どれだけ頑張り続けても涼の足元にすら届かず、大きな敗北感を常に感じさせられている。

 その上、涼は絵やピアノなどの芸術的な面においても凄まじ才能を持っているようで、俺の勝てる要素は何一つ無く、はっきり言って完敗だった。


「それで何の相談なんだよ、凉?」


 競泳用の水着から制服に着替え終わり、帰る準備が万端となったところで凉に尋ねる。

 全てにおいて俺の上を行くお前が今更一体俺に何の相談なんだ?――そんな事を頭の中で考えていると涼は話を切り出す。


「勇気ってさ、彩葉いろはの事好きだよね?」


 涼からの言葉を聞いた瞬間、俺の心臓の鼓動は早くなり、思わず叫びそうになる。

 なぜお前がそれを知っているのか――喉まで出かかった言葉をのみ込む。

 クラスのアイドル的存在であり、凉の幼馴染でもある綾川彩葉あやがわいろはの事が俺は好きだった。

 誰に対しても優しく微笑む綾川さんの姿に俺は完全に惚れてしまっていたのだ。

 凉の言葉を聞いていた俺が完全に固まっていると、その様子を見て全てを察した凉がゆっくりと話し始める。


「その反応を見るとやっぱりそうなんだな。実は俺も彩葉の事が好きなんだよ」


「……えっ?」


 その言葉を聞いた瞬間、今までの人生で感じた事が無かったほど大きな衝撃を俺は感じた。

 まさか凉も綾川さんの事が好きだったなんて――それが今の俺の正直な感想だ。

 衝撃を受けたと同時に絶対俺には勝ち目なんて無いと内心うなだれていると、とある事を思い出す。


「そもそも凉って生徒会長の伊吹先輩と付き合ってるんじゃ無いのか?」


 そう、凉はこの学校の生徒会長である伊吹葵いぶきあおい先輩と交際しているはずなのだ。


「いや、それは最近学内で流れ始めたデマだ。今俺は誰とも付き合ってない」


 なるほど、どうやらどこかの誰かが流した偽の情報だったらしい。


「……それで、俺にそれを伝えてどうしたいんだ?」


 俺が恐る恐るそう問いかけると、凉は意を決したように話し始める。


「……実は俺、明日彩葉に告白しようと思ってるんだ。だけど勇気は俺の親友だから抜け駆けも横取りするようなこともしたくないと思っている」


 凉からの突然のカミングアウトに俺は頭がついていかず、パニックになる寸前だ。


「だから恨みっこ無しで正々堂々勝負しよう、俺と勇気の二人で一緒に告白するんだ。それで付き合えた方が勝ち、もし二人とも振られたらその時は残念会でも開こうか」


 そう話す凉の視線はどこまでもまっすぐで、真剣な眼差しをしていた。

 一度も凉との勝負には勝った事は無かったが、今回ばかりは絶対に負けたくない。

 その場で大きく深呼吸して冷静を取り戻した俺は覚悟を決める。


「分かった、その勝負引き受ける。俺と綾川さんが付き合っても泣くんじゃないぞ」


「明日の昼休み、彩葉を屋上に呼び出すから遅れずに来てくれよ」


 こうして俺は明日、好きな人を巡って親友と勝負する事になったのだ。

 凉と別れて家に帰った俺は、綾川さんへの告白の言葉を必死に考えていた。

 だが、中々良い言葉が浮かんでこない。

 それもそのはず、先程は凉に対して威勢の良い言葉を言ったものの、俺は生まれてから一度も告白した事が無く、彼女ができた経験も無かった。

 今まで数人の彼女がいたらしい凉と比べて経験値は圧倒的に低いと言える。


「どうしよう、マジで……そもそも俺が本当に凉に勝てるのか?」


 俺がそんな弱気な発言をしていると突然部屋の扉がノックされ、いつの間にか大学から帰ってきていた姉さんが俺の部屋に入ってくる。


「さっきから一人でぶつぶつ悩んでるみたいだけど、どうしたの?」


「実は……」


 今回の経緯を目の前で心配そうに俺を見つめている姉に対して洗いざらい話した。

 俺の話を聞いていた姉さんは少しの間黙り込んで何かを考えていたが、すぐに口を開く。


「……なるほど、今まで一度も勝った事が無い親友と同じ人に告白する事になって勝てるか心配って事ね。ユウ君はその親友の子に一度も勝てた事が無かったのかもしれない、これは変えようが無い事実ね」


 そうはっきりと言われてしまった事で俺は落ち込みそうになるが、そのまま姉さんは言葉を続ける。


「でもね、その頑張りを評価してくれる人だって必ずいるはずよ。確かに一位にはなれなかったかもしれないけど、今まで勝つためにユウ君は挫けそうになりながらも必死に努力してきたじゃない」


 その優しい言葉に俺は俯きかけていた顔をあげて姉さんの顔を見つめた。


「私はユウ君が陰で必死に頑張っていた事をよく知っているし、他にもあなたの頑張りをみていた誰かはきっといるはずよ。自信を持ってユウ君は私の自慢の弟なんだから」


「ありがとう姉さん。俺頑張るよ!」


 姉さんから励まされて一気に明るい気持ちになった俺は、どう告白しようか色々と考えた挙句シンプルな言葉で気持ちを伝える事に決める。

 大丈夫、きっと明日はうまく行くはずだ――俺は自分自身にそう強く言い聞かせて眠りについた。

 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 部活の朝練で部室に着くと先に到着していた涼が俺の元へ近づいてくる。


「お互い後悔しないように頑張ろう、昼休み屋上で待ってるよ」


「ああ、今回ばかりは勝たせてもらうぞ」


 自信満々な表情で俺はそう宣言した、これは凉に対する戦線布告だ。

 それから時間はあっという間に過ぎていき、気づけば決戦の昼休みとなっていた。

 俺は緊張する気持ちをなんとか抑えつつ凉と共に屋上へ向かう。

 その間、俺も凉も黙り込んでおり、たったの一言すらも会話は無い。

 しばらく二人で佇んでいると、綾川さんが屋上へやってきた。

 呼び出された理由を薄々感じているような雰囲気の綾川さんは俺達に向かって話しかける。


「私を呼んだのって宮本君と涼だよね。何の用かな……?」


 冷静を装っているように見えるが、ほんのりと顔が赤く染まっている事を俺は見逃さなかった。

 俺と涼はお互いに無言で向き合うとアイコンタクトを取ると、涼から話し始める。


「彩葉まずは呼び出しに応じてくれてありがとう。今日は俺達から君に伝えたい事があったから来てもらったんだ」


 一息呼吸を入れると涼は覚悟を決めたような表情となり、次の言葉で想いを伝える事を俺は察した。


「俺は君の事が好きだ、ただの幼馴染じゃなくて一人の女の子として。付き合って貰えないだろうか?」


 綾川さんは涼からの告白を黙って聞いた後、今度は真剣な眼差しで俺の顔を見つめてくる。

 どうやら覚悟を決めるしかないようだ――俺は勇気を奮い立たせ声を絞り出す。


「綾川さんの事が好きです、付き合ってください」


 ついに言った、いや言ってしまったと言うべきだろうか。

 涼は過去の経験からなのか余裕そうな表情をしているが、恐らく俺の顔は今まるでゆでだこのように真っ赤に染まっているに違いない。

 俺からの告白後、しばらくの間下を俯いて黙り込んでいた綾川さんは顔をあげると涼を見つめる。


「涼、ありがとう。とっても嬉しいわ」


 その短い一言を聞いた瞬間、俺は完全に負けを悟った。

 悔しい、本当に悔しかった、今すぐ消えて無くなりたい気分だ。

 だが次の一言を聞いて俺は自分の耳を疑う事になる。


「でも、残念ながらあなたとは付き合えないわ……」


 なんと涼からの告白は断られてしまったのだ。


「なっ……どうして!?」


「実は私、前から好きな人がいるの。だからごめんなさい、涼とは付き合えない」


 先程まで余裕そうな表情を浮かべていた涼は誰の目から見ても明らかに分かるレベルで落ち込んでしまった。

 そんな中、綾川さんは一人で話し始める。


「確かに涼は運動も勉強もできて本当に凄いと思うよ、それこそ幼馴染の私が涼に嫉妬しちゃうくらいにね。でも私はそんな涼に追いつこうと必死に頑張って、努力を続けているあの人の一生懸命な姿に強く惹かれちゃったの、だから……」


 綾川さんは恥ずかしそうに顔を赤らめると、俺の方を向き震えた声で口を開く。

 

「私も宮本勇気君の事が好きです、付き合ってください」


 17年間の人生の中で俺は今一番驚いているかもしれない。

 今まで何をしても勝つ事が出来なかった相手に遂に勝ち、そして好きな相手を彼女にする事ができたのだ。


「俺で良ければ喜んで……!」


 俺は泣きそうな、嬉しそうな、色々な感情がごちゃごちゃに入り混じった表情でそう答えた。

 本当に悔しそうな表情をしていた涼だったが、俺に祝福の言葉を投げかる。


「……勇気、おめでとう。今回は完敗だったよ、色々と大変な事もあるだろうけど、お幸せに」

 

 そう言い残すと俺達2人を気遣って涼は屋上を去っていった。

 もし逆の立場であれば、俺は絶対に同じ事はできなかっただろう。

 本当に涼は凄い奴だ――それが俺の今思った正直な感想だ。

 どれだけ努力をしても今まで涼に対して全く歯が立たなかった俺だがようやく一勝する事ができた。

 今までは負け続けていたが、俺の努力は決して無駄では無かった事が証明されたのだ。

 だが、逆に言えばまだ一勝しかできていない。

 俺は今後も努力を続けていき、親友であり高い壁でもある涼に挑戦してやると心に誓った。

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