第6話

「よし、頑張るぞ!」

「頑張ってください!」

「はいっ!タロットカードの勉強頑張る……えっ!」

 後ろから不意に聞こえてきた声に反応して振り返ると、そこにいたのは見覚えのある人物ではないか。

「お、おおお王子!?」

 思わずおかしな声を出してしまった依音に、王子は不思議そうな顔をしている。

「え?」

 柔らかく微笑む彼に、依音はふたたびあたふたおかしな動きをしてしまった。

 不意打ちはずるい。

 せめて予告をしてくれないと、心の準備が出来ないではないか。

「お久しぶりです」

 ゆったりとした微笑みを向けてくれる王子の周りには、柔らかな春のオーラが漂っている。

 さらさらの焦げ茶色の髪がなびいた。

「お、お久しぶりです!」

 上ずった声で返事をした自分がとても恥ずかしい。

 依音は急に自信なさげに目を逸らしたが、もう一度彼の方を見た。

「タロットカードの勉強、頑張ってるみたいですね?」

 甘い声で話しかけてくる王子。

 依音は、その声を聞いているだけでとろりとしてしまった。

「あ、が、頑張ってます!あの、えっと、そちら様は……」

 そういえば王子の名前を知らない。

 依音の言葉に、王子はにっこりしながら答えた。

「まだ名乗ってませんでしたね。僕は、東郷伊織といいます。よろしくお願いします」

「は、はひっ!よろしくお願いします!わわ私は、二階堂依音です!」

 自己紹介をするだけで心臓がバクバクしてしまっている。

「依音さんていうんですか?僕の名前と似てますね。伊織という名前なので」

「ほ、ホントだ!」

「せっかくなので、名前で呼び合いましょうか。依音さん」

 王子に名前を呼ばれ、依音は舞い上がってしまった。

「じゃ、私も呼んでいいですか?い、伊織さん」

「はい。あ、でも伊織『くん』でいいですよ」

 伊織は、ふふっと笑っている。

 名前を呼び合い、何だかぐっと距離が近づいたように思えた。

「僕は高校一年生なんです。依音さんは?」

「私は高校二年です!じゃあ、私の方が年上?」

「そうなんですね。でも、タロット占いでは同級生なので、一緒に頑張りましょう」

 言いながら、すっと右手を差し出す伊織。

 ドキドキしながら依音は彼と握手をした。

「あら!いらっしゃい!誰かと思えばあなただったの~?」

 手を取り合っているところへ母が現れた。

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