第2話

 すると、カランカランと店の扉に付けられた鐘が音を立てた。

 母親に連れられて、小さな女の子が入ってきた。

 小学校低学年ぐらいだろうか。

「いらっしゃいませ」

「あのぉ~すいません、プレゼントを探しにきました」

 恥ずかしそうにしながらも、女の子は依音に話しかけた。

 店番はしょっちゅうしているが、プレゼントの相談となると途端にドギマギしてしまう。

 しかし、依音は女の子にそんな自分を悟られないようにしながら答えた。

「ど、どんなプレゼントなのかな?」

 依音は、背を屈めて女の子に返事をした。

「えっと、えっと。ピアノの先生が結婚するのでお祝いしたいんです」

 一生懸命な眼差しに、依音は目を細めた。

「そっか、そりゃあおめでたいね」

「でも、何をプレゼントしたらいいのか分からないから」

 そこまで言って、女の子はさっと母親の後ろに隠れてしまった。

「すみません、この子、照れてるんだと思います」

 母親はそう言って依音の方を見た。

 人見知りなのかもしれない。

 どちらかといえば依音も人見知りなところがあるため、親近感が湧いた。

 もじもじしている女の子を見て、可愛いなと思いながら依音は近づいた。

「君は、先生はどんなものをもらったら嬉しいと思う?」

 子供の目線で話そうと、依音はしゃがみ込み尋ねる。

 女の子は首をかしげながら一生懸命考えているようだ。

「う~んと、う~んと。先生は、ケーキ食べてコーヒーを飲むのが好きなんだって。前に言ってた」

「じゃあ、ケーキのお皿とか?コーヒーカップもいいよね?」

 依音は女の子の手を引いて食器のコーナーに案内した。

 お花の模様の描かれた可愛らしい食器が置いてある。

 カップとソーサー、そしてコーヒースプーン。

 縁取りは金色に輝いている。

 バラが施された角砂糖もある。

 女の子はそれらを見ながら目をキラキラさせている。

「うわぁ~!お姫様が使うみたい!可愛い~!」

「結婚のお祝いなら、旦那さんと一緒に使えるようにセットもいいかな?」

「うん!お姫様と王子様が使うみたいでいいよねぇ!」

 魔女である自分の母のようには上手に説明できなかったが、どうやら依音の提案はお気に召したようだ。

 母親も気に入ったようで、めでたくプレゼントは決定した。

 先生の住所を送り状に書いてもらっている間に依音はそれらを箱に詰めて見せた。

 不器用ではあるが、母親の見よう見まねで何とか出来るようになったのだ。

 配送での贈り物のため、ラッピングは今この場でしなくても良いのは助かった。

 実際にラッピングするのは依音の母なのだ。

「まなちゃん、良かったね。素敵なプレゼントが買えて。お礼言っときなさいね」

 母親が嬉しそうに娘に話している。

「うん!お兄さん、一緒に選んでくれてありがとう!」

 女の子が発した言葉に、依音は一瞬固まった。

「お、お、お兄さん!?う、うん。お兄さん頑張っちゃったよ!」

 肩を震わせながら、依音はその場の空気が悪くならないように必死だ。

「まなちゃん、お兄さんにありがとう言えて偉いわね~」

 母親までが追い打ちをかけてくる。

 その間中、依音は顔をピクピクと引きつらせたまま二人が店を出て行くのを見送った。

 

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