【第2章】魔女のお店のサプライズ
第1話
ぱらぱらぱら、さっさっ。
机の上で、時計回りにカードがシャッフルされていく。
おぼつかない手つきではあったが、依音は丁寧にゆっくりとカードを集めてひとつに束ねた。
高校から帰ってから、部屋でタロットカードの自主練習をしているのだ。
魔女である母親が経営している小さなお店。
自分はまったく興味もなく、継ぐ気もなかった。
何より、身長が高くて見た目が男っぽい自分が魔女を名乗るだなんておこがましいと思っていたからだ。
だが、そんな母の自分に対する愛情やお店への気持ちが分かってからは、依音の心も少し変わった。
だって、自分もそんな母の血を受け継いでいるのだから。
部屋から出て、依音は一階にある店にやってきた。
そろそろ母親と交代して店番をする時間なのだ。
「ありがと、じゃああとはお願いね」
「うん、分かった」
依音は、タロットカードを入れたケースと教本を手に持ったまま椅子に腰掛けた。
店番と言っても、そんなに店は忙しくない。
合間にちらっとでも本を読もうと思っていたのだ。
「あら、勉強熱心ね」
「別に~」
つんとそっけない態度をとる依音だったが、母は相変わらず嬉しそうだ。
あんなに魔女についてや占いなどに興味を示そうとしなかった娘が、やる気になってくれたのだ。
嬉しくないはずがない。
それというのも、ひとつの出逢いがあったのが大きかった。
「あの子も、頑張ってるのかな?」
「え?あの子って?」
「イケメン王子よ!」
母の言う「あの子」とは、数日前に店にやって来た男の子のことだ。
依音と同じく高校生のようで、目を見張るほど整った顔をしていた。
「さぁね。そうじゃない?」
「キレイな顔してたよね、あの子」
「そうだね」
それがどうしたという表情で依音は答えたが、内心気になっていたのは嘘ではない。
「あんなにキレイな男の子、なかなかいないよね」
「まあね」
先日、会話したときのことを思い出しながら、依音は自分の胸が高鳴るのを感じた。
顔以外にも優しい口調や甘ったるい声が心地良く耳に蘇る。
「あんなキレイな子がタロットカードの勉強をしてくれるんだもん、嬉しいよねぇ」
「偏見じゃん、誰が勉強したっていいんじゃない?」
「そうよ、その通りよ。あんたがその気になってくれたのが一番嬉しいのよ」
言いながら母は、冗談交じりに依音のことをギュッと抱きしめた。
母が夕飯を作るために店の奥に引っ込んだ後も、依音はぼんやりと考えていた。
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