第3話

しばらくすると、また一人店にお客さんが入ってきたようだ。

ドアが開いた合図の鐘の音がカランカランと聞こえた。

顔を上げると、そこにはキラキラのイケメン男子。

依音と同じ年くらいだろうか。

学校帰りのようで、ブレザーを着ている。

県内でも成績の良い生徒が通う高校だ。

目を見張るほどに整った顔立ちをしており、依音は思わず彼に見惚れてしまった。

きょろきょろしながら店内を歩いており、ふっと立ち止まったのは魔女のコーナーの前。

何やら真剣に品定めしているようだ。

(こんなイケメンが、魔法グッズを見てるなんて変な感じ)

依音はカウンターから彼の方を見つめながらそう思った。

ぼんやり見ていると、不意にその彼が依音の方に振り返って言った。

「あの~、すみません。アドバイスいただきたいのですが」

「は、はいっ!」

イケメン高校生の隣に慌てて走って行き、依音は何を聞かれるのか不安に思いながらも彼の方を見た。

にっこり笑うイケメン。

近くで見ると品があり、キラキラオーラがますます眩しく感じる。

背丈は自分よりも少し高く、175センチぐらいだろうか。

依音はドキドキしながらも次の言葉を待った。

「彼女にプレゼントがしたいんです。どれが人気がありますか?」

「あっ……か、彼女、さん、ですか。あはは、そうですよね、あははは」

自分が何を期待していたのか分からないまま、「彼女」という言葉にショックを受けつつ依音は顔を引きつらせて答えた。

「彼女さん……にプレゼントなら、魔女コーナーも良いですけど他にもたくさん可愛いものありますんで……」

依音が自信なさげに言うと、そのイケメンはにっこり笑いながら返事をした。

「いいえ、このコーナーがいいんです。こういうのが置いてあるお店を調べてここに来ましたもので」

「は……そ、そうですか。それはそれは……」

ぎくしゃくしながら会話を続ける依音に、イケメン高校生は続けた。

「女性の目から見て、オススメがあればと思ってお尋ねしてみたのですが」

「えっ!?じょ、女性の目!?ですか!?」

「はい」

にっこり笑いかけるイケメン高校生は本物の王子かもしれないと思えるほどの光を放っている。

自分のことを女性だと思って尋ねてくれたというのが、先ほど告白されたショックを何重にも上書きされるほどの感動を呼び起こした。

「そ、それならこのペンダントはいかがですか?水晶が使われていてとってもきれいです。見た目は魔女グッズっぽくないから使いやすいと思いますし!私なんかは男勝りなので似合わないですけど、女の子ならきっと喜びます!」

依音はガラスケースに入れられたペンダントを指さし、興奮した様子でまくし立てた。

高校生には少しお値段はお高いかもしれないが、オススメしてくれと言われたからオススメしているのだと依音は思った。

「なるほど、素敵ですね。あと、僕タロット占いを勉強しようと思っているんですが、どのカードが良いのか分からなくて迷っているんです」

「えっ!タタタタロット!?」

依音は急に焦った様子を見せた。

タロットなんて全く知識が無い。

母親から覚えてみないかと言われても、拒み続けているからだ。

真面目にアドバイスを請うている人間を前に、適当に薦めるのも良くない。

どうしようと冷や汗をかいていると、後ろから声がした。

「初心者なら、ウェイト版かしら。78枚で1組になっていて基本を学ぶにはピッタリですよ」

振り返ると、そこにいたのは母だ。

依音の慌てた声が聞こえたので来てくれたようだった。

「それなら、それにします」

母が丁寧に説明してくれることをひと言も聞き逃すまいと、イケメン高校生は真剣な眼差しで立っている。

「サイズは?大きい方?それとも小さい方?」

「持ち運びがしやすい方がいいので、小さい方で」

(た、助かった……!)

依音が胸をなで下ろしていると、イケメン高校生は先ほどの水晶のペンダントとタロットカードを購入することに決めたようだった。

「僕の彼女、好きだった占いをやめちゃったんです。だけど、僕も彼女の見てきた景色を見たいですし、意思を引き継ぎたいなって。それで勉強してみようかと思ってここに来ました」

この店なら購入時に専門的な話を聞けるだろうと思ったのだそうだ。

目を細めながら丁寧にラッピングをし、母はイケメン高校生に包みを入れた紙袋を手渡した。

「ありがとうございます。また何か分からないことがあればいつでも来て下さいね。相談にも乗りますので」

「どうもありがとうございます。こちらの魔女さんにもお礼を言わせてください」

そう言って、イケメン高校生は依音の方にもにっこりと笑いかけて深々とお辞儀をした。

キラキラ王子オーラが依音を直撃し、それと同時に少し胸が痛んだ。

自分は、魔女ではない。

魔女になることを拒み、店番すら嫌々引き受けている。

それなのに、こんなに感謝されてしまった。

罪悪感でいたたまれなくなった依音は俯きながら口を開いた。

「わ、私は魔女では……ない、です」

「そうなんですか?あ、そうか。まだ修行中の身ということですね」

にっこり笑う彼の笑顔を見た依音は困った表情を向けたが、そのままイケメン高校生は店を出ていった。

あんな王子のような男子が、占いをするなんて。

ギャップも甚だしい。

しかし、それなら自分のような男っぽい女子でも魔女になることは許されるのだろうか。

今まで男子みたいだとからかわれ続けたことがコンプレックスとなっていた。

そんな自分が魔女なんて出来ないんだと思い込んでいた。

本当は、母の大好きなこの空間を、そして魔女の血を次の世代に繋げていきたいとも思わなくもない。

依音は黙ってそんなことを考えた。

すると、母がぽんと依音の方を叩いた。

「別に、無理にとは言ってないからね」

依音が考えていたことを察したのか、苦笑いしながら母はこちらを見ている。

胸の奥が少しズキンと痛む気がした。

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