第一章 ここは百年後の世界①
いつの間にか時は過ぎ、悲劇から百年以上もの月日が流れていた。
この国には『
とはいっても、転生が許されるのは条件を満たした魂だけ。
その条件には、転生をつかさどる精霊に差し出せる対価があること、死ぬ
しかし、そのどれもが
さらに、転生した魂は前世の記憶を持っているとは限らなかった。
例えば、この世界では魔力を持って生まれた者には必ず一つ固有魔法が与えられる。それは不思議と転生しても受け
本人には記憶がないのに、固有魔法がかつての
アレクシアの場合、前世の記憶が
(……あ……あつ……い)
目を覚ました時、アレクシアは熱にうかされていた。
(身体が……動かない……ここは……どこ……?)
火のように熱く、
(
おでこにのせられた、ぬるいタオルの感触。ぼんやりと視界に入った室内を
(あれに……似ているわ。この前……異国の科学者が大量に生産して
ぼうっとする頭でここがどこなのかを考えていると、キイと部屋の
「シェイラお
(……シェイラ?)
その瞬間、頭の中にたくさんの光景がぶわっと流れ込む。
小さな町の風景。その真ん中に
決して豊かではない町。そして、天気はいつもどんよりとした
(ここは……この地を治めるキャンベル
きっと自分はあの森で死んだのだ。そして『輪廻転生』に従って転生してしまったらしい。その事実が、すとんと胸に落ちた。
(あんな
記憶を取り戻したばかりの自分には、シェイラとしての記憶が不足している。頭の中にあるのは分かるけれど、熱に
「まだお熱が下がりませんね。おでこのタオルを取り
(彼女は……そう、パメラだわ)
まるで子ども
(薬ぐらい……
クラウスは無事だろうか。いや、無事、という表現はおかしい。うっかり転生してくれていたりはしないだろうか。彼に会いたいと思うと同時に、ひどく大きな不安が
なぜなら、生まれ変わりを意味する転生はただいいことばかりではない。精霊に対価を差し出したうえで、さらに大きな代償を
──伝承の通りならば、転生者は、前世での
それを
(私は……きっと『記憶を持たない転生者』として『シェイラ』の人生を過ごしていたんだわ。この熱は、恐らく寿命を
『シェイラ』の最期を
前世、アレクシアは身体が
ちなみに前世、アレクシアのせいで『魔力の強い者は
というわけで、熱にうかされるというこの初めての感覚が
「お嬢様。お水を」
パメラが差し出してくれたコップをシェイラは身体を起こして受け取る。
やっと、異変を感じとったのはその時である。
(……小さい)
「こどもみたい……」
「ふふ。シェイラお嬢様は子どもではなく立派なレディですわ。六歳のね」
(え)
シェイラの驚きは声にはならず、喉の奥に吸い込まれていった。
次に目が覚めると、夕方だった。
(身体が軽いわ……)
熱はすっかり下がったようである。けれど、パメラが水を運んでくれてから数日が
窓の外に見える、赤い空。この色は最近見たばかりだ。そう思った
「あの後……!」
この身体が持つ
(キャンベル伯爵家の書斎には、歴史や政治の本がたくさん保管されているはずだわ。この、シェイラはお父様と
自分にとってはまだ数日前の、あの
そこから一体どれぐらいの時が流れているのか。国はどうしたのか。
──自分が愛した人はどうなったのか。
とにかく、その答えが知りたかった。
「今は、プリエゼーダ
書斎の新聞と近代史の記録を前に、
城が
「八五二年のクーデターによって命を落としたのは、女王・アレクシアと一人の従
目覚めた時点で、自分はあそこで死んだのだろうということは分かっていた。だから、アレクシアの結末についてショックはない。
それよりも、魔法で
「……『次期王位
失望を何とか
それは、プリエゼーダ王国に存在した貴族をすべてまとめた
「ワーグナー侯爵家の家系図は……。クラウスではなく彼の弟から続いているわ。……現在も名門として存在している」
家系図の中で一つ、
もう会えない彼の顔が頭をよぎる。視界が
(本当の最期までは覚えていないけれど)
クラウスは絶対に、アレクシアの側を
自分が転生したということは、最後に
「私と一緒にいたクラウスも転生している可能性があるわ。……でも、どの時代かは分からない。……普通に考えて、もう会えるわけがない」
自分が転生したのはあれからほぼ百年後。けれど、クラウスが生まれ変わったのは三日後だったかも知れないし、もしかしたら千年後になるのかもしれない。
それは
(私たちはあの森で死んだ。生きて会えるはずがないのだわ)
彼が生きているかもしれないと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます