緑色の薫風・赤い色の花
スカッと晴れた、五月四日・火曜日。午前十時。ちょうど良い暖かさ。
五月の一日から三日まで曇りか雨で、ずっとのびのびになっていた。
今日は待ちに待った、ピクニック日和。
「よかったなあ。ゴールデンウィークはずっと雨かと思った」
ウッキウキの
「これだけ待たされたもの。お弁当、張り切って作っちゃった」
肩から下げたバッグをポンポンたたく
「なに作ってくれたの?」
「お昼になってからのお楽しみ」
もらう気マンマンの
「私はアメ〜リカンな lunch (ランチ)」
「ステキなステーキ!」
声はずむ
「そんなバナナな。ハンバーガー、
「ぼくは自分で作ったおにぎり。おかずも全部、おにぎりの中」
不敵な笑みの
「や、闇鍋じゃなくて闇おにぎり?」
「チッチッチッ。ま〜だまだ若いな、
人差し指を立てて左右に振る
「
両肩から、おもいっきりはみ出したクーラーボックス。見るからに重そうだ。
「あー。なんか母さんが張り切っちゃって」
「みんなの分の弁当と、おやつとかおやつとかオヤツとか……」
『うわぁ……』
絶句する三人。おやつがメインディッシュか?
「そんなにいっぱい、どうすれば……」
途方にくれるみんな。
「だ、大丈夫。私は
「お、おう」
「とにかく出発!」
号令をかける
「
みんなで手を振り返す。そして
「みなサン、行ってらッシャイ」
「ピュリリリリ」
突然、
「アレ? ナンでしょウ。コノ、急なモヤモヤ」
「イヤな予感が……。みなサンは、行ってはイケナイかも」
この姿では外に出て追いかけられない。と、なると。
「早ク知らせナイと」
「うわあ。
四人は
五月の下旬に満開になる、藤の花がちょうど咲き始めていた。
学校から見えた大きな木は公園の中心に。幹の直径は2メートル、高さは30メートルくらい。
「
「この赤いのは、新芽?」
小さい細長い葉っぱにも見える。
「これが花なの。ちょうど今が咲く時期ね」
「花びらがないから花には見えないけど。六月には葉っぱがたくさん茂るわ」
「葉っぱの形は丸っこいハート形だよ」
「秋には黄色になるんだ。落葉を踏みながら歩くと、甘い匂いがするよ」
「
「初めて本物を見たわ」
「夏と秋にもまた来ようぜ。葉っぱの色を見るのも楽しいし」
「……。この
幹に耳をあてていた
〝
他には、伐採できない木、言い伝えなどで特別にいわれのある木のことも指す。
〝
「あー。気づくか、やっぱ」
「上の方、見てみ?」
「あれは? 穴をふさいだあと? いくつもある」
「平成の始めまであったんだよ。ここで〝
「当然知ってるよな。夜中の一時から三時までの間に、
「こんな開けたところで? 丸見えじゃない」
おどろく
「その時はまだ、公園になってなかったからさ、他の木が茂ってて真っ暗。見えないよ」
「父さんがおれたちくらいの歳で、よく釘を抜く手伝いをさせられたって言ってた」
言い終わった
「それに——」
「まだあるの?
「もうちょっと聞いてくれよ」
「幹のもっと上に、いくつか縦にくぼみがあるだろ?」
「あれも
この木が生まれて百年過ぎた頃だろうか。
そして、
しかし。誰一人、成功したものはいなかったと伝わっている。
この木は、
ずっと、この地と人を
「だから小さな
「うん」
ちょっとのお供え物も置いてある。〝ありがとう〟を伝えに来る人もいるようだ。
「それ、わたしも始めて聞いた」
「あんまり、人に言う話しじゃないし。暗い話しだろ?」
町の憩いの場として、多くの人がここを訪れる。この木はじっと、今も
「この町は
はっきり声に出す
「私がこの町に来た理由、聞いてくれる?」
四人は、
「
「私が日本に帰ってきたのは〝紫色のあいつ〟、
「と言っても、
転校初日に理科準備室で、
「ただ、昔から伝わってたことなの。敵をやっつけるためだけって」
「昔? いつから? 伝わってるって、なんで?」
「
「一部の神様の反乱があったの」
「反乱? 誰に……まさか、神様?!」
信じられない顔をした
「神様が神様に、反乱?!」
「その神様が〝紫色のあいつ〟?」
「でも、あれはお
「正確には神様じゃないはずだよね?
「いや、神様だよ。人が神様として
「
「そうね。記録として紙とかに書いて無かったから、最初は敵がわからなかった。言い伝えだけだったもの」
「で、続きだけどその時代の
「最後は〝紫色のあいつ〟に勝ったのね?」
「どうして反乱したかまでは、今ではわからない。ただ、遠い未来に復活するって予言があっただけ。〝
「予言って、
また
「
「日本に
だから
実際、明治に入ると日本政府は
そして令和の現代、
「
「だから、今だってわかったんだ」
「
ただ、その目的のためだけに日本を離れ長い旅に出た。つらく、苦しく、くじけそうになることもあったに違いない。命の保証もない、日本に帰れなかったかもしれない……。
そんな旅を六百年間も続けてきたなんて。
「あら、その言葉、知ってたのね。ご先祖様がほめられると嬉しいわ
「いやあ、それほどでも〜」
「さて。もうお昼だし、お弁当を食べましょう」
全員でシェアするために持ち寄ったから、量はハンパなく多い。
「あれ? どのおにぎりに何を入れたか、わかんなくなっちった」
まさに闇おにぎり。
『うわあ……』
ご飯は梅の形にしてある。おやつもチーズケーキ、スフレ、シフォンケーキ、ロールケーキ、どんだけケーキ。
『うわあ……』
絶望の三人。やっぱり食べきれない。
「おお! 保冷剤がマイナス16度になるやつだ。食べきれない分は一日もつぜ」
「さすがおれの母さん。愛してるよー、マミー!♡」
「その言葉は本気で言わなきゃならない人が、いるんじゃあないですかねえ
ニヤニヤ顔の
「あ、
「ヒエスギテ、ベントウガカタイナー。コノママダシテオケバ、ダイジョウブサー」
ガっチガチにしゃべる。顔から炎が上がってんぞ。
「ププッ」
思わず吹き出してしまった
そして四人は和気あいあいと、お昼を楽しんだ。
「サンドイッチ、おいしいよ。
「おお。おにぎりの中に焼肉だ」
「こっちはAvocado(アボカド)が入ってる。おいしいわ、
「ハンバーガーはすごいボリュームね、
「
「だから、
また笑いがおこる。平和なゴールデンウイークだ。
「お昼の後はどうする?」
「ファボミンボン、ふぃようで。ゴックン」
ほうばりながらしゃべる
「ほら、ラケットとシャトル。キンキンだぜい」
「バドミントンの道具、凍らせてどうすんのよ
あきれ顔の
「ああ !! でもお腹いっぱいじゃあ運動はすぐには無理だよ。ぼくは散歩してから」
「わたしも行く行く!」
グッジョブ
息、合ってんなーこの二人。
「じゃ、よろしくー」
食べきれなかった弁当をいそいそとクーラーボックスにしまい込んで立ち去る。
結局、愛を育むのだね君たちも。知らんけど。
「ふふ、ますます仲が良くなったわね。あの二人」
「うん。おれは蚊帳の外だ。
!! 言葉を選べ少年! これだから小学生男子は!
「ぅああぁぁ! ゴゴゴごめん。おれ今、変なこと言ったよね。ね、ね ?!」
真っ青で汗タラタラ。気づくのが遅い。
「別に怒ってなんかいないわよぉぉぉおおお?」
ピキピキな
日本の反対側、ブラジルに届きそうなくらい頭を下げる
これを平身低頭と言う。
「……」
「……」
二人のまわりに、やさしい風が流れた。五月の、
芝生の上に大の字で寝転ぶ
横で、
「おれ、今思ったんだけど。
「子供がこんなことやらなきゃならないって、大人たちは何をやって来たんだろう」
「……けっこう
「うーん、でも」
「本当にやらなきゃいけない事、いっぱいあるんじゃ……。大人は忘れたのかな」
「あ。子供のおれたちも、もしかして忘れているのかも」
ずいぶん大人びたことを言う。
「
ゆっくりと話す
「あいつは、私たちがまだ子供だから復活したのかもしれないわ」
弱いうちに叩きつぶす。戦う方法の一つ、ではある。
「私ひとりじゃ、だめだったかも」
きっと大丈夫だ。今は、
「
「この町に帰って来れたのは、やっぱり私の
「……」
「眠っちゃったのね」
葉っぱを取り、そっと髪をなでる。やさしいまなざしで、
膝に顔をうずめる
(
(それでもやっぱり)
ゆっくり目を閉じた。
(きっと、あなたのことを……)
「あらら。勝手に昼寝してるよ、
「もう!
茂みから顔だけニョッキリの咲子と守。ずーっと二人の様子を
のぞいちゃイヤん。
「仕方ないなあ。あとは若い二人にまかせて、もうしばらく歩こう
「
落ち着いた
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