黄昏色の帰り道・夕焼け色の、あまちゅっぱい二人


 大騒ぎの後の、夕方。はじめは一人、校門へ向かって歩いていた。

「今日は一日が長かったー」

 大きく伸びをするはじめ

 学校は午前で休校になり、生徒たちはすでに帰っている。

 咲子さくこまもるは救急車で病院へ運ばれ、五年一組のクラスメイトは警察に事情を聞かれた後に帰って行った。

 はじめ櫻子さくらこも、別々に警察の人に説明をした。ありのままを。当然、信じてもらえない。

 同じことを、何度も何度も何度も聞かれてHP(ヒットポイント)も時間も取られた。

クラスのみんなも、きっとそうだったのだろう。かなり疲れた。

 櫻子さくらこも、もう帰っているに違いない。

(明日も、咲子さくこまもるに会えるといいな。クラスのみんなに、もう一度お礼を言わないと。あ、土御門つちみかどにも……)

 黄昏色の校庭で、あれこれ考える。

(今日の咲子さくこまもるの事、父さんと母さんには言わない方がいいかな? 言ったら心配するしなあ。あいつらが言いたくなるまで黙っとこうか)

 壱はピタッと足を止めた。校門に誰かいる。

土御門つちみかど……」

 櫻子さくらこだった。はじめが来るのをずっと待っていた。

 はじめの顔を見て微笑ほほえんでいる。〝青い惑星ブループラネット〟の目は懐かしむような、やっと会えた、とも言っているような。

〝ドッキン〟彼の心臓が……。

「おかえり、はじめ。今日は疲れたでしょ?」

「そんな、土御門つちみかどのほうこそ。今日はありがとう」

「一緒に帰りましょ。途中まで、送って。ね?」

「う、うん。いや、家まで送るよ。もう遅いし」

 ギンギンギラギラの夕日はまだ十分、明るいし。これは彼の言い訳だ。はじめは今、どうしても櫻子さくらこを送って行きたくなった。正直に言えば、もっともっと、一緒にいたい。

 彼は、気づいたのかもしれない。

 並んで歩く二人。その姿が、夕焼け色に染まる。

「……」

「……」

「今日は、すごかったな」

「……」

「ヒヤヒヤだったわ」

「……」

「私たちの言ったこと、警察の人は信じてくれるかしら?」

「……」

「うーん。普通は信じられないよな。だって、同じこと何回も聞いてきたから」

「……」

「ふふ。あの顔は絶対、信じてないわね」

「ハハ。確かに」

「……」

「……」

 はじめの作戦。たわいもない会話をしながら、帰り道をダラダラのろっと。少しでも長く。

 しかし、会話のネタが尽きてしまった。お互いに黙って歩く。

 櫻子さくらこがちょっとはじめのそばに寄った。肩が触れそうだ。

 彼にチャンスが来ているかも。言うのか? 言えるのか? 

「その、なんだ……。待っててくれて、嬉しいな……」

 はじめが小さな声で言った。夕焼け色の頬は、もっと夕焼け色になっている。

 精一杯の言葉。今はこれが限界かもしれない、勇気をふり絞り切って、絞りカスになりそうな小学生男子がいる。ドキが胸胸、いや、胸がドキドキ。

 ゆっくり豊かな時の流れ。あまちゅっぱい二人。——こーれーは、たまらん。

 はじめの横顔をじっと見つめる櫻子さくらこ。右手をそうっと伸ばして、はじめのシャツのすそをチョンッとつまむ。これは彼女なりの、はじめに対する返事。

「な、何か? 土御門つちみかど

 ちょっとあわてるはじめ

「んー。別に……。櫻子さくらこって呼んでいいわよ」

 そう答える櫻子さくらこの頬も、もっと夕焼け色になった。

 黄昏色の道に、デコボコの影がふたつ。デコからボコへ伸びている影。ゆっくり歩いて行く……。いなあ、おい。

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